第9話 面倒な話し合い
イチノセ。
深い青の髪の若い男の子。
イケメンというよりはどちらかと言えば可愛い系の顔をしている。
ちなみに名前は地球にいた頃と同じ名前らしい。
名字にしたのは、下の名前は女の子っぽくて嫌だったからだとか。
ウェル。
茶髪の男性。
素朴な顔つきをしていて、悪く言えばモブ顔だ。
というか影が薄く、俺はこの人の存在をここで初めてしっかりと把握した。
エナ。
栗色の髪の女性。
どこかおどおどしていて人の顔色を窺うようにしている。
さっき発言したのはよほど勇気を振り絞ったんだろうな。
オリバー。
深い緑の髪の男性。
背が高く、落ち着いた雰囲気だ。
この中では1番年上のように見える。
と言ってもこれらの体は新しく作られた物だから中身が年上かどうかは分からないけど。
カタリナ。
真っ赤な髪の胸の大きな女性。
さっきの話し合いを見る感じだとサバサバしていて自分の意見をしっかり持っている人のように見受けられた。
以上、5名プラス俺で合わせて6名がここのコロニーにお世話になることになった。
そういえばここのコロニーに名前は無いのかと聞いてみたところ、あの廃村の元々の名前から由来して『リーフ』と呼ばれているそうだ。
ここの拠点は地下に広がっていて、この上が俺たちが侵入した村だ。
村は防衛拠点として機能しており、生活や生産作業は地下で行なっているとのこと。
誰から防衛するのか?
それはもちろん教会や王族貴族の略奪からだが、他のコロニーから襲撃を受けることもある。
それに何より瘴気からとめどなく発生する魔物の襲撃から拠点を守るという意味合いが強い。
ここの地下拠点内には結界が張られているものの、それは瘴気の侵入を拒むだけで魔物そのものは阻めない。
俺たちがここに来る前にも遭遇したが、この辺りは特にゴブリンの数が多いらしい。
奴らは定期的に徒党を組んで襲撃して来るので、常に見張りを配置させているそうだ。
俺たちが来た時も村に侵入する前から見張りに見つかっており、俺たちが油断した隙をついて拘束したらしい。
他のコロニーから襲撃を受けることもあるとは言ったが、この辺りの主要なコロニーのほとんどと友好関係を結んでいるのでそうそう他のコロニーから襲撃されることは無いそうだ。
っと、思い出した俺たちは転生者同士で連絡先の交換をした。
この先6人一緒に行動することも少なくなるだろう。
だけど転生者スマホがあればいつでも連絡を取り合える。
ちなみに俺は別行動組とは連絡先を交換していない。
こっちの何人かは交換していたみたいだが……俺はあいつらとまた話したいとは思わないからな。
俺たちは臨時の『リーフ』のメンバーとして区別できるように、装備を支給された。
焦げ茶色の革の防具。彼らが着ている物と同じ物だと思っていたが、よく見れば仕事の役割で装備は違うらしい。
戦闘員は金属の部品が所々使われている物で、革も丈夫な物らしい。
非戦闘員はもっとラフな感じで、地下拠点から基本的に出ない人はそもそも装備をつけていなかったりする。
それでも『リーフ』の一員である証として、緑色に染めている布を腕に巻く必要があるそうだ。
布は模様が描いている方を内側にして巻く決まりらしい。
俺たちは革の軽装備と緑の布を配給された。
それを着てから、他の構成員への顔見せも兼ねて拠点内を案内してもらう。
とはいえ俺たちはまだ信用されていないので、重要施設や大切な部屋なんかは立ち入り禁止だ。
そして目付け役兼教育係として、1人につき1人の構成員をつけてくれるらしい。
聞けば色々と教えてくれるそうだが、まあ十中八九監視が目的だろうな。
俺へのお目付役は、ニアノーだった。
俺より年下だがこの世界においては大先輩だ。
それにニアノーは人懐っこいのか雰囲気がのんびりしているからか、ピリピリしていないので俺としてもありがたい話だ、一応知り合いみたいなもんだしな。
早速仕事をしてもらうとのことで他の転生者たちと分かれたが、俺はニアノーと共にまたアメルダの部屋に行くことになった。
いつもは他のメンバーも見張りなのか部屋にいるのだが、今度は俺とアメルダとニアノーしかいない。
「さて、1つ聞くが我々の仲間になるということは協力は惜しまないということで良いのだな?」
確認するようにそう問われる。
何かを俺にさせたいのだろうが、この問いに俺は頷くわけにはいかない。
アメルダたちが俺ができることを知っているわけではないと思うが、これに頷いてしまうと俺はチート能力を彼女たちのために惜しみなく行使することに同意してしまうことになる。
「何をさせようっていうのかは知らないが、俺に負担になるようなことや面倒なことはするつもりは無い。そりゃ必要最低限の仕事はするが、あくまで俺は臨時で所属しただけだからな。無茶を言うなら今すぐにだって出て行ってやる」
極論を言うなら、チートを使いたいなら俺はたった1人で行動した方が都合が良いんだ。
このチートが使える話を誰かにする気は無いからな。
それを気まぐれでここに滞在すると決めただけで、やろうと思えば今すぐ出て行くこともできる。
携帯結界装置はまだ向こうの手にあるしどうせここから出られないだろうと横暴な手段を取るようなら容赦はしないつもりだ。
アメルダは机の引き出しからとある物を取り出して机の上に置いた。
それは俺がニアノーにあげたカロリーフレンドの1箱だ。
「ニアノーからこれの話を聞いた。持ち運びに便利な上に味も良く、これ1箱で1食分になる上にかなりの期間腐らず保存できる、と。私も試食させてもらったが、確かに美味かった」
「本当はあげたくなかった、リーダー権限で取り上げられた」
「馬鹿者、得体の知れない食い物は調査する必要があるだろう」
確かにニアノーに渡したらその上司であるアメルダの耳に入るのは道理だろう。
ニアノーは少し膨れているので本当に渡したくはなかったようだが。
「お前らの荷物を調べたが、これと同じ物は無かった。お前だけが保有している物なのか?まだ数はあるのか?だとしたらどこに隠し持っている?」
これに関しての答えはあらかじめ考えていた。
そもそもニアノーの目の前で、何も無い空間からカロリーフレンドを取り出す光景を見せてしまっているから誤魔化しも効かない。
「今から俺が話すことは内密にしてもらえるのなら話すこともやぶさかではない」
「良いだろう、そう言うと思って見張りは下げている。お前はいかにも隠し事が多そうだからな」
見張りの構成員がいないなと思ったのは気のせいではなかったらしい。
そういうことなら、と話を続ける。
「物を多くしまっておける鞄や袋、もしくは別の空間に物をしまえるスキルや魔法を知ってるか?」
「収納スキルのことか?もちろん知っている。あれが無ければ大規模な物資のやり取りが難しくなる」
「俺は収納スキルを持ってる。その食べ物はそこから出した物だ」
本当は[万能創造]で創造した物が[亜空間収納]に出現する。
それから[亜空間収納]から出しているので間違ったことは言っていない。
「残り個数は?」
ずっと気になっていたが、アメルダは俺含む転生者たちに対して上から目線だ。
質問するにしてもそれをこちらが答えるのが義務であり当然である、こちらが正義でそちらが悪だという空気を感じるような物言いをする。
本来ならこれらの問いに答える必要性を感じない。
いくら仲間になるとはいえ個人的なことまで話す必要は無いと俺は考えている。
「そんなこと聞いてどうする?まだ持ってると言ったら脅して奪い取るつもりか?」
食べ物に価値があると知った以上、これについて言及されるであろうことは分かっていた。
向こうからしたら見過ごせないだろう。
まだ俺がそれを大量に保有しているならばそれを吐き出させることができれば物資の節約になる。
「……いや、これは対等な立場での交渉だ。これを赤の他人に譲れるほどの数を持っているのなら、こちらが提示する物資との交換を希望する」
おっ、交換交渉ときたか。
ひとまず一方的に奪うつもりは無いようだ。
最初に少し言い淀んでいたことから察するに、こちらが弱気だったら高圧的に命令して吐き出させていただろうけどな。
でもなぁ、俺は何でも創れるから正直言って物は何もいらないんだよな。
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