第41話 あれ、もしかしてフラグ建てたせいですか?

 

 

ユリアたちに俺たちは今ドラゴンについての情報を探していると伝えたところ、話を聞くことができた。


ドラゴンとは、全ての魔物の頂点に立つ存在。

ブレスは全てを消滅させ、尻尾のひと薙ぎで家屋は吹き飛ばされる。

特筆すべきはその魔力の高さで、魔法の1つでも放たれようものなら町が一撃で破壊される。

過去にあった討伐例ではどれも生まれたばかりの若い個体で、高ランクの冒険者や国に仕える騎士たちの多大な犠牲を払って討伐されたレベルだと言う。


それは決しておとぎ話の中の存在ではなく、彼らは実在する。

人里に降りてくることは滅多に無いが、彼らの縄張りに足を踏み入れれば突然上空からブレスを吐かれ塵にされても文句の1つも言えない。

ドラゴンの巣の引っ越しや気まぐれな飛行の途中に遭遇してしまうのは運が悪かったと命を諦めるしかない。


それを聞いて俺は悩んだ。

ドラゴンに俺のチートが通用するのか気になるところだが、もし通用しなくて殺されでもしたら笑えない。

……待てよ、普段怪我をしないから忘れかけていたが確か俺って不老不死じゃなかったか?どんな酷い怪我をしていてもゆっくりではあるが徐々に再生するとかなんとか。ってことは死ぬことはないのか。


……まあ、普段会うことが無いというのならわざわざこちらから会いに行くことも無い、か。

下手に刺激して国が滅びましたとかなったら流石に罪悪感があるし。

でもドラゴンステーキは気になる。……[万能創造]で創るか?


「この国で商人するなら、商業ギルドに登録しておいた方が良いわよ」


「商業ギルド?それに登録しないと商売できないのか?」


「そういうわけじゃないけど、登録しておけば色々便利だしランクが信用度みたいなものだから……商業ギルドに登録しているのとしていないのとじゃ取引の際の信用度が違うわね」


そういえばこの町にもそれらしき建物があったな。

うーん。登録はまだしなくて良いかな、どんな商売にするか決めてないし。


以前アリスがユリアたちの話を聞いて、解呪屋なんて儲かるんじゃないかと思った。

だけど呪われてる人なんてそうそういないし、また聖女扱いっていうのもなぁ……という感じだったんだよな。

でもユリアの話を聞いた感じだと、呪われている人はわざわざ目に見えるようにはしないし基本的には隠してる。

だからパッと見て分かるようにはなっていないらしい。

確かにユリアに服の下を見せてもらうまで俺もユリアが呪われてるって分からなかったしな。


今は別に急いで金を稼ぐ必要は無い。

ユリアからもらった金貨を数えてみたところ、大金貨と小金貨と銀貨で合わせて500万スタグぐらいあった。

どうにもこれでパーティの全資金を渡してしまったみたいで、この町に留まりお金を稼いでいるんだとか。


500万スタグあればこの町で行動する分には充分だ。

そもそも食費も家賃もかからないしな。


そんな時、外に出ているクロから念話で連絡が入った。


『ご主人様。森の中で怪しげな魔法陣らしき物を発見しました。いかが致しましょう?現在ニアノーが調べてはいますが、魔法の類には詳しくないご様子』


魔法陣……?森の中に?っていうか森に入ったのか。

まあ、ニアノーは元々森の中にあるコロニーで過ごしていたから森での活動は慣れているんだろうけど……。


『ちょっと待て、詳しそうな人に聞いてみる』


念話で返事をし、ユリアたちに向き直る。

俺があれこれ考えるより、この世界でずっと冒険者してきた人たちの方がこういうことは詳しそうだ。


「そういえば、森の中なんかで魔法陣を見つけた場合ってどうすれば良いんだ?」


「魔法陣?……この近くで見つけたの?」


「近くの森の中だ」


と返すと、ユリアは何やら考え込む素振り。

代わりにアルトが答えてくれる。


「魔法陣っていうのは色々な儀式に使われるものだけど、使い終わったら消しておくものなんだ。そのまま丸ごと残っているなら術者が近くにいるかもしれない。それにしても町の近くで魔法陣、か……何か良からぬことを企んでいなければ良いけど」


「例えば?」


「最悪なのはそれが魔物を召喚する陣だった場合かな。町の近くで魔物が大量に湧けば何も知らずに森に入った冒険者たちが被害に遭うし、数が多ければ町も襲われるかもしれない」


「何でわざわざそんなことを……」


「さあ、悪い人のすることなんて想像もつかないから……」


と話していると、ユリアが顔を上げた。


「確認しに行くわ。案内してくれる?」


何やら厄介なことに首を突っ込んでしまったようだった。


『今からそっちに行く。ニアノーが下手に魔法陣に触らないようにしてくれ』


『かしこまりました』




森への道中、アリスが聞いてみた。


「アルトさんがリーダーなんだよね?なんだかユリアさんの方がリーダーっぽいね」


「ああ、それな。よく言われるんだよ」


「でもでもっ、いざって時はアルトもやるんですよぉ」


小柄なエルフの女性、ウルリカが擁護する。

無口な青髪の男性の方はエンリオ。どうやら彼の無口は警戒ではなくそういう性格らしい。


雑談しながらのんびり森へ歩いていると、今度はシロから念話が入った。


『ご主人!魔法陣からなんか出てきたよ!今ニアノーが戦ってる!』


『何?すぐ行く!』


魔法陣は魔物を召喚する物だったのか?いや、なんか出てきたと言っただけで魔物だとは限らない。

でも戦ってるってことは襲って来たってことだろう。

ニアノーは無抵抗の者に武器を向けるような奴じゃ……、……いや初対面の時はあれは例外だろ?俺たちが無礼を働いていたんだから。


「ちょっと急ぐぞ」


そう言って走り出す。

ちなみに『探し物コンパス』で『ニアノーの場所』と登録してあるので目的地までは真っ直ぐ向かうことができる。

ニアノーは強いが、得体の知れないやつ相手にどこまで戦えるか。

クロとシロは心配いらない。不老不死な上に怪我すらしない完全無敵な子たちだからな。

ただ、戦闘能力については俺は細かく設定しなかったから普通の犬よりも少し強い程度かもしれない。


道中出会った魔物は[創造魔法]で殲滅。

リオはいつもの追尾ビームで、アリスは氷の矢を射出して。

ゴブリン程度頭をぶち抜けば一撃だ。

ウルフ系統の魔物も見かけたが、どれだけ俊敏に動かれても追尾ビームを振り切ることはできない。


そう遠くはなかったようで、少し走るとニアノーたちを発見した。

想像していた最悪の事態にはなっていなかったようで、全員無事だった。

ニアノーが組み敷いていたのは、体長50センチぐらいの……ドラゴンだった。


うん、ドラゴンだ。

四足歩行の爬虫類で、背中に翼。

ニアノーに首を掴まれ地面に押さえつけられているが、それでも大人しくなる様子が無く暴れている。


「リオ!こいつ、捕まえた!」


戦闘モードで興奮しているのか、尻尾や耳の毛が逆立っているニアノー。

目立った怪我は無さそうで、ひとまずほっとした。

それでも小さな怪我は負っているので、後で回復魔法で回復してやろう。


さて、と。

どう見てもドラゴン……だよな。

あれか、もしかして俺がフラグとか建てたからか?


「あれって……嘘、ドラゴン?」


「いや、リトルドラゴンじゃないか?」


「リトルドラゴンの成体だったら1人で抑えられるわけがないわ、恐らくドラゴンの幼体……ううん、赤子かしら」


各々武器を構えたユリアたちがじりじり近寄っていく。

ドラゴンを押さえているニアノーがつらそうなので、【魔法禁止】【スキル禁止】【身体能力低下】のスキルをドラゴンに使用した上で『対象を自動で縛り上げるロープ』でぐるぐる巻きに拘束した。


「お疲れニアノー、よく頑張ったな。クロとシロもよくやってくれた」


クロとシロは怪我はしないが、恐らくニアノーを庇いながら戦っていたのだろう、毛が汚れていたりしていた。


「がんばった」


力が抜けたのか座り込んでいたニアノーの手を引いて起こしてやる。

俺に褒められたクロとシロも尻尾をぶんぶん振って嬉しそうだ。


 

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チートで何でもできる?何でもしてやろうじゃないか! 鈴奈リン @suzunarinka0441

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