14話 異世界deケモノ村見学!

「ケモノって実在したんですね、ボク初めて見ます」


「私はお父さんが話してる所を見たことがあります、なにやら悪い話ぽかったですけど」


 ノン、それは多分グリニアだ。ルージュと犬猿の仲だったヴェールは、ルージュの中に情報を横流しする人間に金を積んで情報を貰っていたと言っていた。

 おそらくノンのお父さんが情報を横流ししていた犯人だ。今さら分かったところでどうということはないが。


「お兄様に連れられて来たはいいですけど、ケモノって言ったら、グリニアみたいなのですか? あまり好きじゃないなぁ」


「あまり好きじゃない?」


「だって、なんか臭いし、話し合いをしたあと、椅子が抜け毛で汚れますし〜」


 ケモノが差別されているのには、このような理由もあるのかもしれない。


「じゃあ、他の3人はどう思ってるんだ? ケモノ」


「別に、なんとも思ってないです」


「ケモノってなんだか、ふわふわで、可愛いですよね」


「どうでもいい」


 興味を持たない2人と、好意的なコットン。うむ、分からんな・・・・・・。


「ところで、肝心のグリニアがいないですね。どこをほっつき回っているのやら・・・・・・」


「グリニアは、だな・・・・・・」


・・・・・・。


・・・・・・・・・・・・。


 パシンッ!


「この恥さらし! 二度と顔を見せるんじゃない!」


「グ、グリニアはケモノのために・・・・・・」


「大バカだよ! アンタのおかげで私たちは以前よりも周りに蔑まれるようになってんだ! それに、嫌がらせだって」


「い、嫌がらせ?」


「そうさ、見なかったかい? ケモノ注意の看板がね、森の周りに立てられてんだよ! そのおかげで、さらに人間たちとは大きく分け隔たれてるわで、私たちが人間たちと再び暮らすなんて、もう無理なんだよ・・・・・・」


 さっきまでグリニアを叱っていた威勢はどこへやら、へたり込んでしまう。


「でも、グリニアは、今度こそ人間とケモノを仲良くしてみせる!」


「もういいっ! 余計なことはするな! これ以上酷くなれば、2つの種族で戦争が起こる!」


 戦争、そんなもの、起こしてたまるか。


「お母さま、グリニアは確かに今まで間違ったことをしてきました。ですから、私が彼女を導きます」


「人間かい、相変わらずグリニアはなんでケモノじゃなく、人間の手を借りようとするんだい。私たちに話していれば、過ちを犯すこともなかったっていうのに」


「それは、ケモノだけじゃ解決できないから、人間の力を借りて・・・・・・」


「とにかく、私が目を離さずに監視しています。ところで1つだけ聞かせてください、グリニアが間違っていたと思っていたのであれば、なぜその道を正そうとしなかったのですか?」


「グリニアが話をさせてくれなかったんだよ、あの森にはヴェールの奴らが周りを囲んでてね、入ろうと思ってもいれてくれないのさ。伝言だって、通してくれないしねぇ」


「そうか、強い思いから、自ら閉鎖された環境に閉じこもり、過ちに気づくことも出来なかった、そういうことか」


「とにかく、グリニア。あんたは一生この森に入れない」


「そんなっ!?」


「そんな、じゃないっ! 本当はね、今すぐ切り刻んでやりたい気分だよっ! 追放で済むんだ、大目にみてもらったと思いな!」


 グリニアは両拳を強く握り込むが、すぐに諦めたかのように背中を向け、森を出ていった。

 彼女を追いかけようとしたとき、グリニアの母親に肩を掴まれた。


「あんた、本当にケモノと人間、この2つの種族の仲を取り持つことが出来ると思っているのかい?」


「分かりません」


「分からないのに、なんであんなのに協力するのさ。暇じゃないだろうに」


「どんな事象も、出来るか、出来ないかは分からない。どちらかの確率が高かったとしても、まだ見ぬ結果は常に両方の可能性を孕んでいます。ですから、挑戦するんですよ。それに、今回は出来るか出来ないかの二択ではありません。どれだけ人間にケモノを認めてもらえるかです、それならやらないに越したことはない」


 私の言葉を聞いて、少し考えると、再び私の目を見た。


「なるほどね、あんたは立派だよ。あんたなら、やってくれるかもねっ!」


 私の背中をバシンと叩く。


「いっぢぃ・・・・・・!」


「はっはっは! これがケモノの力さ! パンツなんかに頼らなくたっていいのに、グリニアは・・・・・・」


「そういえば、グリニアは何故パンツの力を使っていたのか、ご存知ですか? それに、パンツを没収したあとは、まるで無力でした」


「・・・・・・。私だって、詳しくは知らないよ、でもね、グリニアがここを出ていく直前、始まりの錬金術師に出会ったって言ってたのさ。そして、ケモノの力を失う代わりに、強力なパンツの力を貰ったってね」


「始まりの錬金術師、とは?」


「そんなの、本でも探せば載ってるよ。そんなことよりほら、グリニアを追いかけな! アイツを正しい道に戻せるのはアンタだけなんだよ!」


「分かりました、それでは、村見学の件、よろしくお願いします」


「あぁ、協力出来ることはやってみせるよ」


 そして、その場を後にした。グリニアに追いつき、隣を歩いているとグリニアが突然話し始めた。


「グリニアは、グリニアは! 本当にケモノのために頑張ってるつもりだったんだ! どこから間違ったんだ!? みんな、ヴェールのみんなは私に賛同してくれたけど、結局それは間違いだった!!」


 拳を強く地面に叩きつける。


「くそぉっ! くそぉっ! ケモノの怪力も失って、こんなに無力になって、それで、それで!!」


「気持ちは、分かる」


「・・・・・・」


「私だって、過去に過ちを何度も犯している。1つのことを盲信し、皆を遠ざけた。だが、そんな時に私を助けてくれた恩人がいたんだ」


「・・・・・・」


「私だって、その恩人がいなければ、今どうなっていたか分からない。そう、人はみな生まれつき完璧じゃない、お互いに間違っていることを指摘しあって、時には協力して。それを学んだ私だから、お前を救いたいと、お前の恩人になりたいと、そう思っているんだ」


 グリニアの手を取り、強く握る。


「グリニア、私の組織、ジ・Hに入らないか? はじめは行く先もないだろう、自分の道を見つけるまで、私と共に世界を変えないか?」


「それは、本当に正しいのか? 分からない、私には分からないんだ。誰が正義で、どれが正しいのか」


「正しいかどうかなんてことは分からない。だから、仲間を沢山作っているんだ、それも、色んな人たちだ。カラーから貧しい人たちを救うために戦う義賊から、カラーの構成員を親に持っていた子供、大切な家族を失った子供、そしてグリニアもご存知のキエイル。沢山の人達がいる」


「キエイル、最近インディゴを解散したと思ったら、そんな組織に・・・・・・」


「どうだ? 来ないか?」


 握った手が、逆に握り返される。


「う、うわぁーーんっ!!」


 大粒の涙がグリニアの頬を伝う。


「頼む! 私に、道を与えてくれ! 私を、必要とする場所に行きたいんだぁーっ!」


・・・・・・。


・・・・・・・・・・・・。


 あれから、グリニアはヴェールの元本部の片付けに専念していた。例のローブの男が出ることを懸念してしっかりと見張っていたが、今回は出てこなかった。

 そして、今はこの村を少し離れたところから見守っている。本当に上手くいくのか、それを自分の目で確かめたいとのことだ。


 そして、私達もまた村見学ついでに成果を見に来ている。ジ・Hのみんなには広報を手伝ってもらった、迷惑にならない範囲でこの村についてをアピールしてきた。


「あっ、あの人。基地の上にいる・・・・・・」


 そこには、ニランジャンが鳥のケモノと一緒にいた。ニランジャンはカレー屋にいる無口な方の店員だ。


「ニランジャン、ニランジャンじゃないか! 彼女とはどういう関係だ?」


 2人は同時に首をふる。


「じゃ、じゃあ。初対面か?」


 2人は同時に首を縦にふる。


 私の納得した顔をみると、再び向き合って、ニランジャンに紙袋を渡していた。中身を覗き込むと、なにやら瓶に入った葉っぱだった。


 一体なんだろうか、そう思っているとニランジャンが前の建物に掲げてある看板を指差す、そこにはスパイスと書かれていた。


「なるほど、店で使うスパイスを買いに来た、ということか」


 再び首を縦に振る2人、会釈を交わし、2人は別の方向へ歩いていった。


「2人とも不気味だ」


 ベルクが言った。


「いや、なんというかお似合いだったな。言うなれば、ハシビロコウ女子と、無口男子」


「ねぇねぇ、早くパン屋さんに行こうよ〜。ボク、楽しみにしてたんだー」


「そうだな、行こうか」


 村の中を歩く、人間はある程度はいるものの、広報の効果は薄かったと言わざるを得ない。


 皆で寄ったパン屋。熊タイプのケモノが作ったサーモンとキノコのキッシュが絶品だった。子供2人はハチミツが入ったメロンパン、ベルクは大きなフランスパンをガジガジとかじり、キエイルはパニーニを食べた。

 キエイルが今度こそと"あ〜ん"を要求するも、コットンが背中に虫がついていたという理由でキエイルを羽交い締めにした。私は流石におかしいと思ったものの、なぜかキエイルは素直に納得していた。


「うぅ、次こそは、完璧なシチュエーションで・・・・・・」


「必ず、次も阻止してみせる・・・・・・っ!」


 コットンはもはや隠す気もないらしい。だが、相も変わらずキエイルは気づいていない、謎だ。


「こらっ! まったく懲りないねぇっ!」


「ひぇ〜っ! すみませんっすーっ!」


 そろそろ帰ろうとしていた時、どこからともなく声が聞こえてきた。声の方へ向かってみると、そこにいたのは、グリニアの母親と、モグラのケモノだった。


 他のケモノと違い、モグラのケモノはまさにモグラというようなずんぐりむっくりな姿形をしていた。


「どうしたんですか? お母さま」


「お母さま言うなっ! ふん、コイツはゲラモっていう迷惑なお客だよ!」


「迷惑なお客?」


「そうさ、どこからともなく穴を掘って村の地中からやってくるんだよ!」


「うぅ、でも掘りたいんっすよ! 掘りたくてたまらないんっすーっ!」


「まぁまぁ、ケモノ同士仲良く・・・・・・」


「ケモノだぁー? どこがケモノなんだよ、コイツのっ!」


 そういうと、ゲラモの胸ぐらを掴み、思いっきり投げ飛ばす。


 飛んでいったゲラモを目で追うと、飛び方に違和感があったのに気づく。なんというか、重さがあるものの飛び方に見えなかったのだ。視線をもとに戻すと、そこには・・・・・・。


 パンツとブラしか着ていないの状態の美少女がっ!?


「いやぁーんっ! バーニアさんっ! やめてくださいーっ!!」


「いつの間に名前を覚えたんだい!? いいからさっさと村を出てけー! これ以上この森を荒らすなーっ! 根っこが削られて急に木が倒れてくるって話が出てるんだよ!」


「おぉーっ!! なんと可愛らしいパンツだ! 子供らしい、少し面積の大きめなパンツながら、ゴムの締まり具合によって少し盛り上がって見える太ももが完璧だ!! まさに曲線美、美しい体つきだぁーっ! うぉぉぉおおおーーーっっっ!!!」


 バグーーンッッ!!!


 ベルクによる猛烈な一撃が、私の横腹を襲う。


「ベル、流石に手加減と言うものをだな・・・・・・」


「やかましい」


「あぅ〜っ、早くあのキグルミを着ないと〜っ・・・・・・」


「ゲラモ! 私の組織に入らないか!」


 急いで飛んでいった着ぐるみを追いかけるゲラモに声をかけた。


「い、一応弁解しておくが、組織に勧誘したのは決して彼女がエロティックだったからではないぞ!?」


「続けろ」


 ベルクがそう言うので、ゲラモに向き直って言葉を続けた。


「少し、掘り進めて欲しい所があるんだ!」


「それ、ホントっすか? ならついていくっす・・・・・・」


 もじもじしながら返事を貰った。


 よし、これで求めていた人材、その1をゲットだぜ!!

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