11話 異世界ダイアリー!

『最ッ高の逆転劇の幕を! 今俺たちが開ける!』


『言えよ、なんとか』


『ゲボーゲンハイト、過去の中でおやすみ』


 私は店に貼られたカレンダーらしきものをパラパラとめくる。こんな感じの言葉が色々と書いてある。


「これは300年戦争の時の名言か」


 ベルクが教えてくれた。名言というには少し変な言葉ばかりだが、そんなことはさておき。


「300年戦争?」


「魔王降臨紀300年の年に何百年も落ち着いていた魔王と勇者たちの戦争が再び始まった。魔王降臨紀元年から300年と続いた戦いがたった20日で終わったという不思議な話だ、まぁ詳しいことは歴史書でも読むんだな。ちなみに今は新魔王降臨紀4679年。この新魔王降臨紀というのは300年戦争の終結時に記念して新しくなったんだ」


「魔王とか、勇者とか聞き覚えのない単語ばかり並べられても困るな」


「はぁ、相変わらず常識を知らないやつだ・・・・・・」


 ベルク、もしも2人で日本に戻れた暁には日本の知識マウントでリベンジしてやるからな!


 カレンダーをペラペラとめくっていると何も書かれていない日があるのを見つけた。


「さて、なら私も後世に残る名言を残すとするか」


「ナラ、コノペンデカイチャッテイイヨー」


 ペンを手渡される。早速カレンダーの言葉が載っていない所に書き込む。


『忘れるな、鼠径部と恥丘のエロスは紙一重だ』


「うむ、この言葉は5000年と言わず、未来永劫語り継がなくてはな」


「はぁ・・・・・・」


 呆れ顔のベルク、もう見慣れてしまった。しかし、最近株を下げる行動ばかりしているので、流石に控えておくべきか。

 いや、少なくとも今回は必要なことだ! これを見た何万年後の誰かへ私の意志と、この世の心理を届けるために!


「お兄様っ! と、ベルクさん・・・・・・」


 キエイルが店の扉を勢いよく開く。


「ナマステ〜」


 来店の挨拶は欠かさない。

 一昨日のこともあり、2人とも戻って来てくれたはいいもののまだ関係は修復していない。お互いの間には気まずい空気が流れている。


「こんな手紙が! 街で急に渡されたんです!」


 2人で駆け寄って、手紙の内容を確認する。中には1枚の地図が同梱していた。


『グリニアたちはヴェール、そしてこの手紙を書いているのは他でもない、ヴェールのリーダー、グリニアだ!』


 一人称が名前なのが少しややこしく、理解するのに少し時間がかかったが、どうや、ヴェールからの手紙らしい。


「「!!!」」


 俺とベルクでお互いに目を合わせた。


『お前たちの話は聞いている、そこでおいらたちの基地を公開する、攻めれるものならやってみるがいい!』


「どうします?」


「どうしたもこうしたもない、私たちから乗り込むまでだ!」


「罠、という可能性は」


「当然あります。ですが、グリニアはフェアな戦いを好む人、人? です。おそらく大丈夫です、あくまで個人的な意見ですけど」


 人の部分で言い淀んだのはグリニアが人ではないケモノだからだろう。確かに、代名詞は何を用いるのがいいんだろうか?


「よし、では私とベルクの2人で行こう、キエイルは2人の世話を頼む。安心しろ、必ず1日で帰ってくる」


「帰って来なかったら・・・・・・?」


「え、えーその時は・・・・・・」


「考える必要はねぇ、必ず帰ってくる、それでいいだろ」


 ベルクが強く言い切る。


「そのとおりだな、お兄様たちは大丈夫だ」


 そう言って、力こぶを見せたあと、白い歯を見せてやる。


「そうですね、分かりました! 子供2人は私に任せなさい! で!」


 キエイルがいてくれてよかった。私に甘えたいからという理由で側にいるが、実際はとても頼りになる仲間の1人だ。


 キエイルのエールを受けた私たちは明日に向けて準備を始めた。


 すぐに夜が訪れる。


 私はいつもどおり、基地のキッチンで皆の食事を作っていた。コットンとノンはもとより、ベルクもキエイルも料理はさっぱりなので、必然的に私が担当している。


「ふふ、なんでも屋である私に隙はないのだ、調理師免許だって持っているからな!」


「ニホンなら役に立つのかもしれないが、こっちじゃ意味のない称号だな」


「そんなことないですよ、実際チヒロさんはこうして私たちに料理を作ってくれてるじゃないですか」


「うん、チヒロさんの作るお料理はどれも美味しくて、ボクも憧れます」


「嬉しいことを言ってくれるなコットン、ノン! 2人の皿にはベーコンをサービスだ!」


 それを聞いた、コットンはニヤリとしてノンの方を見る。


「も、もしかして、最初からそれが目的でっ!?」


「もちろん、チヒロさんは渡さないからね」


「え? チヒロさんを・・・・・・?」


 なにやら2人の会話は噛み合っていないようだ。私にも理解しかねるが。


「よーし、出来上がった! キエイルの手伝いも、とても助かった」


 ちなみに、手伝いというのは新しく買った赤いレースのパンツを履いてもらって火加減の調整をお願いしていた。この世界、パイプライン等あるはずもなく、火も水も電気も全部自給自足らしい。といっても魔法なら元の世界よりも安上がりで便利だが。


「もちろんですよ! お兄様1人に頼るわけにはいきませんっ! その代わり今夜は、分かってますね・・・・・・?」


 そう言って、手をわきわきさせている、何かしら悪しき考えがあるようだ。私には理解しかねるが。


 というわけで完成した料理を並べる。


「今日は私の得意料理、カルボナーラだ!」


「スパゲティの一種みたいだ」


「うむ? パスタも売っていたし、カルボナーラくらいなら知っているものかと思っていたが、これも知らないのか?」


「異世界の常識をこの世界の常識のように言うな」


「お、ま、え、が、言うか〜〜!」


「パンツなんて使わなくても、その熱くなった顔で料理出来そうだな」


「2人ともやめてください、早く食べないと冷めちゃいますよ〜」


「そ、そうだなノン。よし、食べよう!」


 私は手を合わせた時には既に4人とも食べ始めていた。

 マナーが悪いなとは思ったが、そうか、これも日本特有の文化か。


「うん! すごくおいしい! こんなの食べたことないよ!」


 コットンが満面の笑みでがっつく。しっかりとフォークでくるくると巻いてから食べているあたり、育ちがいいのかもしれない。

 いや、そもそもスパゲティを啜るというミスを犯すのも日本人ならではなのか? ややこしくなってきた・・・・・・。少し日本が恋しい。


「ノン、その肉少し分けてくれよ」


 そう言ってベルクはノンの皿に乗った厚切りのベーコンを見て言う。


「だ、だめですよ! これは私が貰ったんです!」


「俺は明日戦いに行くんだぞ? もしここで肉が足りなくて負けたらどうするつもりだ?」


「そ、そうですね! どうぞ、明日頑張ってください!」


「ボ、ボクのも! 食べてください!」


「コットン、感動した、お前は必ずいい嫁になる」


 詭弁で幼い子供2人から私がサービスしたベーコンを貰うベルク、なにやらご満悦だ。

 色々とツッコミどころは多いが、まぁこれも家族の団らんのようで微笑ましい光景だった。


 ツンツン。


 腕を指で突かれて振り返るとキエイルがニッコリと笑みを浮かべてこちらを見ていた。


「お願いしますっ」


「ん? 何が言いたいんだ?」


「で、す、か、ら、食べさせて欲しいんです!」


 そう言うと口を大きく開ける。なるほど、恋人がよくやるアレ、だな!


「ふふふ、任せろ。それ、あーん」


「あー・・・・・・」


「あーっ! 手が滑ったー!」


 コットンが声を出すと同時に水を被ったキエイル。


「わ、わーっ! なにするんですかーっ!」


「ごめんなさい! 悪気はないんです!」


 急いでタオルを渡すコットンと、それを受け取って顔を拭くキエイル。私はあーんの直前の体制でフリーズしていた。


「あ、あーんは?」


「仕切り直しです、明日帰ってきたらもう一度お願いします!」


 どうやら彼女なりのこだわりがあるらしい。明日に持ち越された。


 そして、ごたごたした夕食は終わり、洗い物も終えた私はまだ殺風景な自室でベッドに横になる。


 部屋は現在4つ。ノンとコットンには同じ部屋の同じベッドで寝てもらっている。早くこの空間を拡張しなくては、今のままでは普通の家屋と変わらないからな、ここはあくまでも基地なのだから!


 基地のこれからを考えているとノックが聞こえてきた。


「失礼します」


「ん、どうした? こんな夜遅くに」


 ま、まさか!


「夜這いかっ!?」


「よばい?」


 どうやら夜這いという言葉はこの世界では一般的ではないらしい。そうか、これも日ry。


「少し甘えに来ちゃいました」


「やはり夜這いか」


 と、そんなわけあるはずないだろと自分の頬を叩く。


「頭を、撫でてもらえますか?」


「それくらいなら構わんぞ」


 と、世にも珍しい男の膝枕が始まる。

 膝枕って、実際は太もも枕だよなぁ、もし本当に膝でやろうものなら痛そうだなぁ、そんなくだらないことが頭を過る。


「一昨日、見ました」


「なにを?」


「お兄様、私以外の女の子を抱いてました!!」


 ブフォッ!!


「な、なんの話だ!?」


「見ましたよ! そこで、ギューッと!」


 少し驚いたが、おそらく抱くというのはハグとか、そういう意味の話だろう。

 いや! それにしても女の子にハグなんて記憶にない!


「羨ましいです、コットンちゃん」


「・・・・・・」


「ん、いきなり黙ってどうしちゃったんですか? 今日はいつもの倍甘えてやります」


「コットンって、女の子なのか?」


「はい?」


「いや、自分をボクって言ってるし、諸々の言動からてっきり男かと」


「え、女の子、じゃないんですの?」


「「・・・・・・」」


 よく考えると、コットンは女の子なのかもしれない。というか、思い返すと私以外は全員コットンを女性だと認識している。


『あの女の子、私と同じ・・・・・・』


『コットン、感動した、お前は必ずいい嫁になる』


 ノンとベルクの一言。


「ど、どっちだろうか・・・・・・」


 この疑問が頭の中でくるくると回り、私の指もキエイルの頭の上で円を描きながらくるくると回っていた。


「く、くすぐったいですよ〜。お兄様〜」

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