第2話 異世界幼女を拾いました!
「すまない、とりあえずこの建物の修理費は必ず返す! 今は手持ちがない、だが必ず帰ってくる! 信じてくれ!」
「分かりました・・・・・・、それでは、こ、これからのご武運を・・・・・・」
私は心の底から申し訳ないと思い、そして謝った。だが、店員の顔は、どこか恐怖に怯えているようだった。
脅しているつもりは無かった。強い力を持ってしまった事を、少し恨めしく思った。
「必ず、戻ってくる。それまでは堪忍だ」
とにかく、再び力が溢れ出すことを恐れた私は一度外に出た。
この力は私だけのものなのか? そういえば、店員がパンツを2つ装備とか言っていた気がする。まさか、頭にかぶっただけなのに、この世界では信じられないほど凄いことなのか?
これもあくまで憶測だが、頭にかぶった水玉パンツと、元々履いていたボクサーパンツの相乗効果で凄まじい力を発揮したのではないだろうか。それなら店員の反応も頷ける。
まさか、私の変態力がこんなところで役に立つとは。それでも相変わらず、この世界には驚かされっぱなしだ。
本来なら表面は寡黙でクールな私も、焦りと動揺がどうしても顔に出てしまう。平常心で行こう、元の世界と同じように。
そう思っていた矢先、道路の端に倒れている女の子を見つけた。不思議なことに、道行く誰もが興味を示さない。
不思議に思った私はすぐさま通行人に訪ねた。
「なぜ、誰も彼女を気に留めない!?」
「私たちだって生活がいっぱいいっぱいなの、それくらい分かるでしょう? だから、あんなのに付き合ってる暇も、助ける余裕もないの! 1人が野垂れ死んだところで誰も気にしないわよ」
そう言って、すぐに去ってしまった。まるで、何かの使命に動かされているかのような早足で。
私はすぐに少女の元に駆けつける。
「大丈夫か!? 生きてるなら返事しろ!」
「か、買ってください・・・・・・」
かすかに声が聞こえた。
「何をだ!?」
「この・・・・・・、きれいな石を、1銅貨で・・・・・・」
そう言って、手に持っていた石を差し出す。
少し疑念を抱いた、同情を得て何の変哲もない石を高値で売ろうとしているのだろうか。しかし、少女の姿を見て、言葉を聞けばその疑念はすぐに晴れた。
「こんな状態になってまで、なぜ商売しようとするんだ! 今すぐ何か食べ物を買ってくる!」
「私はいいんです、お父さんとお母さんのために、お金を稼がないとダメなんです、私に食べ物をくれても、お父さんもお母さんも喜ばない・・・・・・」
そして、再びぐったりと力が抜け、少女は倒れ込んでしまう。
私はこの子を助けることにした。
驚くほど軽い少女を背負い、食べ物や飲み物が買える店を探した。
「へいらっしゃい! パンは3銅貨! 牛乳は1銅貨だよぉーっ!」
「パンを2つ、牛乳を1つくれ」
そう言って、再び袋の中身を取り出す。
「はいよ! 毎度あり!」
1枚の硬貨を取ったと思ったら、3枚の硬貨が帰ってきた。私が持っていた硬貨の色から想像してみる。
まず、はじめは8枚硬貨があった。そしてそのうち6枚が金色だった。パンツを買った店では金貨4枚を使って水玉パンツを買ったのだろう。そして、今は銀貨を受け取った店が3枚の銅貨を返した。つまりは、銀貨は銅貨10枚分の価値があるに違いない、となると、金貨は銀貨10枚分というのとになるのだろうか。
そんなことを考えているうちに目の前にフランスパン、中でもバゲットと呼ばれるものが2本、コップに入った牛乳1杯。そしてサービスの水が出された。
急いで席に運んで少女に、食べさせようとする。
体はまだ温かい、なのに、全く目を開けようとしない。
これだけ衰弱していれば硬いパンを食べるのは難しいだろう、だから牛乳も頼んだ。パンを牛乳に浸し、ふやかして口に入れてやる。微弱ながらも顎を動かしてくれ、そのまま飲み込んだ。
思わずガッツポーズをしてしまった。しかしまだ油断は出来ない。急いでこの作業を繰り返す。時々水も飲ませる。
少女が、目を開けた。
「大丈夫か!? 食べ物も飲み物もある! 好きなだけ食べるんだ!」
「ありがとう、ございます。でも、私より、お母さんとお父さんに・・・・・・」
まただ、なんでこんなにも両親に拘るんだ。
「私、お母さんとお父さんの所に行きます。このパンを分けてあげたら・・・・・・」
そう言うと、手つかずのパンを抱いて歩き出した。やはり1人で行かせるわけにはいかない、ついていかなくては。
少女のふらふらした足取りが少し不安だが、さっきよりも回復していることに安堵する。
そして、たどり着いた先は居酒屋だった。
「お母さん、お父さん。パンを貰ったよ」
「ふんっ、パンなど要らぬわ! 私は酒を飲みたいのだ! 稼いできたんだろうな!?」
「ごめんなさい、1枚も貰えなかった・・・・・・」
「ほんっと出来の悪い子っ!!」
そう言って、母親が少女を引っ叩いた。
信じられなかった。子供が死ぬ間際まで両親のために働いて、その働いた褒美が、これか?
私が女性に叩かれたらそれこそご褒美だが、彼女はそうもいかない。
「なぜ、こんなことをするんだ」
「だれだい? アンタ、この子を助けたいならお金を寄越すんだね」
「なぜ、と聞かれても、私たちの娘がこうしたいと言っているのだ。私たちに聞かれても、な?」
「「はっはっはっ!!」」
なぜ、笑っている。
怒りが収まらず、ついに暴発した。
「貴様等ッ!!」
2人に殴りかかろうとしたその時、突然外が騒がしくなってきた。それも、悲鳴のような。
急いで少女を連れて外に出た。少女を連れて出たのは、あの親に近づけたく無かったからだ。
「はーはっはっは!! 皆殺しだよぉーっ! はーはっはっは!!」
なんだ、あの変なやつはっ!!
インドやなんかで見るような踊り子のような格好をした女が道の真ん中を大手を振って歩いている。
「みんな逃げろぉっーー!! 炎舞のエリーザだ!!」
炎舞の、エリーザ?
「ほらそこの臭い中年っ! 臭いんだよ! 消えろっ!」
「うわぁぁああーーっっ!!」
エリーザから放たれた火は、瞬く間に人間を灰へと変えてしまった。
うぐっ・・・・・・。
吐き気が催されるほどの邪悪、焦げ臭いこの匂いは嗅覚を支配し、人の死臭すら感じさせない。
「うーん、いい香りだねぇ! 燃え滓の匂いが、それも人間の燃えっ滓が最ッ高だねぇー!!」
そして、エリーザは辺りの建物に火玉を放つ。人々は避難するものの、逃げた所を攻撃され、灰と化す。
居酒屋に火玉が飛ぶ。酒に引火したのか、大爆発を起こした。
「お、お母さんっ!? お父さんーー!!!」
少女はその場で膝をついて項垂れた。
「なぜだ」
私は、声に出して言った。
「なぜ人は争ったり、誰かを傷つけるんだ」
それは、静かな怒りだった。
「もし、みんなが仲良しなら、世界はもっと平和になるはずなのに」
そう、生前だって、あの変態トークが弾めば仲良くなれて、助かったかもしれない!
「みんなが変態だったらいいんだ、それなら、誰も傷つけない、傷つかない、そんな世界が出来るはずなんだ」
そう、だから。
「私はこの世界で、日本の変態を代表し! 世界を征服して、誰もが幸せなHENTAIジェネレーションを実現するんだ!!」
手に力を込める。あの時よりさらに昂る胸の鼓動に体を委ね、その力を手に集める。
「そこの男も、燃えろっ!!」
「何が燃えろだっ! 私が愛するのは萌えとエロだけだぁっ!!」
そして、その力をあのエリーザに向かって放つ。
「水玉パンツ! スプラッシューー!!!」
その力はあのエリーザの火玉をかき消し、エリーザを襲った。
「なんだぁ! この力はーーーっっ!!!!!!」
それが、ヤツの断末魔だった。
エリーザを襲った水の塊は飛び散り、勝利の雨を街中に降らせ、建物の火が鎮火される。
そして、空から舞い降りる1枚の布。
エリーザの、パンツだ。
クンクン
少し匂いを嗅いでみてから、パンツの中の異次元空間に入れた。
「あなたは、一体何者なんですか・・・・・・?」
少女に尋ねられた。
「私は檜口千尋、愛する我が国日本の変態を代表するHENTAIヒーローだ。チヒロと呼んでくれ!」
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・。
「はぁ、はぁ・・・・・・」
まだ復興が始まってすらいない街の路地を、エリーザは足を引きずり、歩く。
「なんだい、あの人間は、とんでもない力だ・・・・・・。パンツも奪われ、私はこれからどうすれば・・・・・・」
「なら、俺が楽にしてやる」
「今日はなんて厄日なのよっ!」
突然現れた黒いローブの男。顔は見えないが、その佇まいは只者では無かった。
パンツのないエリーザはなんの力も持たないただの人間、戦う力もなく、とにかく逃げるしかなかった。
しかし、ヤツの動きは素早い、あっという間に捕まってしまう。首を掴まれ、持ち上げられる。
「この力っ、能力増強のパンツの力・・・・・・」
「ハズレだ」
ハズレ、その言葉はこの力が彼自身によるものだということを意味した。
「ま、待ちなっ、私はルージュのエリーザ! 望むなら権力だって富だって手に入る!」
「もういい」
グキッ
首を折られ、力なく地面に倒れ込む。
「残念だったな、今の俺は」
エリーザの亡骸はそのまま、ローブの男はその場を立ち去った。
「ノーパン、なんだよ」
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