変態勇者 〜パンツが装備になるこの世界で、頭にパンツを被った私は世界最強〜
北根英二
第1話 異世界パンツは素晴らしい!
パンツが空を舞う、そんな世界がある。
時は新魔王降臨紀4678年、その時世界は大きく変わり、また新たな時代が始まろうとしていた。
これは、そんな世界に迷い込んだ1人の、"変態"の物語だ。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・。
「や、やめろ! 早まるな!」
「うっせぇーー!! 知られたからにはなぁ、沈めるしかねぇだろうよっ!!」
私は、命の危険に晒されていた。
檜口千尋、23歳。大学を卒業してから、なんでも屋を自営している。今回はただの運搬依頼だったため、軽い気持ちで挑んでいたのだが、どうやら裏世界の怪しげな薬だったようだ。
正義感の強かった私は、運搬物の中身をいち早く察し、警察に通報しようとした。
しかし、やつらは一枚上手だったようで、中身に気づいた私をすぐさま拘束。捕まった私はどうすることも出来ず、任侠ドラマで見るように、ドラム缶にコンクリートと共に詰められ、海にこうして沈められようとしている。
「待つんだ! 私も! 君たちも! 同じ人間で、同じ男じゃないか! 語り合おう! 女性の好きな所はどこだ!!」
「なに言ってんだ!? こいつ!? 気でも触れたか!?」
「私は艶めいた長い髪を絡めるシチュエーションが好きだ! それと私は胸派かお尻派かと聞かれたら、太もも派・・・・・・」
「沈めろ」
「へい!!」
「いやぁぁぁーーー!!」
私はドラム缶ごと横に倒され、転がされ、真夜中の海へと落ちた。
季節は冬、女性の露出も減って人肌恋しい季節。海の水はとても冷たかった。
声は出せない、水の中だから、逆に息苦しくなるだけだ。だが、きっと沈められる直前のあれが、人生最後の呼吸だったのだ、あとは息絶えるのを待つだけだ。
くそっ、私の人生こんなはずでは!!
昔から妄想癖があった私は、いつか妻を持ち、現実であんなことやこんなことがやりたい放題だと常にシュミレーションしてきたのに、最後はこんな終わり方か。
死ねるか! 死ぬに死ねないわ!! 私の高尚な性癖とフェチズムを! 胸の奥のリビドーを! こんな所で途絶えさせるわけにはいかないのだ!
苦しい事は忘れよう。そうだ、お得意の妄想をしよう。
よくラノベで描かれている異世界転生をするんだ、そして、私はケモミミやエルフを侍らせる。
しかし、きっかけもなしにすぐに好かれるのはナシ、求めるのは偶然のシチュエーション、そう目指すはセレンディピティ! それと、突然好きになるのではなく、いつも隣りにいる大切な人に気づかなかった・・・・・・的な感じをご所望だ!
それに、ハーレムを築いたとて、安易に肉体関係を持つのもNG! 私はあくまで紳士であり、変態。真摯に1人と付き合うのだ!
ふははは、なんだか楽しくなってきたぞ、死ぬのも悪くない! 異世界へ転生出来る可能性があるのだからな!
あっはははは!!!!
「ごぼっ・・・・・・」
そして、笑った拍子に水を思いっきり飲み込んだ私は、息が途絶え、そのまま深い海の底へ沈んでいった。
・・・・・・・・・・・・。
夢から覚めるように、何事もなかったかのように目覚めた。
周りを見渡す、どうやら木の下いるようだ、そして周りには草原。少し先には街がある。
草を握りしめてみる、確かに感触があり、夢などではない。
遠くにある街は、まさにラノベで見る少し洋風な街。
まさか、私は本当に異世界転生をしてしまったのか?
「や、やったぞ!! あは、あははは!!!」
立ち上がって大笑いをすると、私の声が遠くまで響く。それに伴い、体に強い風を受ける。しかし、風が強いのではなく、そよ風がより敏感に感じる。
自分の体を見る。
・・・・・・・・・・・・。
「ふむ、なるほどパンツ一丁か」
生前愛用していた白のブリーフのみを履いた状態で、私は立っていた。
自分の姿に驚きながらも、とりあえず街へ向かってみることに。歩きながら色々試してみる。異世界転生するとアイテムボックスだとか、ステータス確認なんかが出来るものだ。
「ステータス! アイテムボックス!」
声に出したり、心のなかで念じてみたりする。しかし、何も起こらない。
全くの一文無しで知識もない、どうすればよいのだろうか。半ば諦めかけていた私は、狂ったのか、パンツの中に何かが入っているかもしれないと考えた。
パンツの中を見てみる、すると、そこには謎の空間が広がっていた。本来そこにあるはずのものが無かったので驚きながらも、もしかすると本当になにかが取り出せるのかもしれない、そう考えた。
とりあえず今はお金が欲しい、買い物で流石に服は買い揃えたい。そう願いながらパンツの中をまさぐり、何かを掴んだ。
引き上げてみると、それは袋だった。これもまたRPGで見るような、革で出来た袋だった。
中を確認すると、見慣れない硬貨が何枚か入っている。きっとこれが使えるに違いない!
少し安心した。袋を再びパンツの中に戻した所で、街に着いた。
遠くから見た時同様に、異世界のような、中世のヨーロッパのような光景が広がる。
そこには私が妄想していた存在、ケモミミやエルフが普通に歩いていた。こんな姿で近づいては嫌われる、とりあえず服を買わなくては。
しばらく歩いて、色んな建物の看板を注意して見ていると、パンツ柄のロゴが入った看板を見つけた。
ここに違いない、ここで衣類が揃えられるだろう。早速入っていく。
そこには女性店員がいた。自分の姿を見て通報されないか、追い出されないか不安だったが、気にもとめない様子だ。
「いらっしゃいませ」
内装を見ると、色んなマネキンのような物が並んでいる。しかし、そこには期待していた衣服はない。あるのはパンツのみだ、それも女性用のものばかり、男が履くようなボクサーパンツやトランクスさえ無かった。
「プレゼントですね? 最近入ったこちらなどオススメですが」
本当は出るべきだったのだろう、だが店員にも話しかけられ、少し場違いのようなこの店に入って無言で出るわけにもいかない。仕方なく何か買っていくことにした。
「ここはパンツしか、置いていないのか?」
「そりゃそうですね、装備屋ですから」
装備屋ならもっと兜や甲冑なんかを置くべきではないだろうか、しかしこの世界には詳しくない。聞いてみるべきかもしれないが、怪しまれるだろうか。
「最近は水属性がトレンドですかね。ルージュ一味が勢力を増してきたので、火属性の防犯対策に」
水属性云々の話は理解できなかったので聞き流した。
そう言って差し出されたのは水玉のパンツだ。可愛い。
このパンツを買って可愛い幼気な少女に『このパンツ履いてよ』なんて、とても言えないが、少しやってみたい。
水玉パンツの良い所は、やはり幼さが演出される所にある。勿論ターゲットである幼女に履かせ、チラリと見えたパンツが水玉だった時の感動は白いパンツの比ではない。
だが、白いパンツと比べ、着用者ではなくパンツ自体に重きが置かれるのは、やはり賛否別れる問題だろう。
そして、これを女子高生あたりに履かせれば? 下着を見られた時、より一層強く恥じらう姿が浮かんでくる、完璧だ。
うむ、この夢を叶えるためにも、これは買っておかなくてはならない。よし、買おう。
袋を取り出す。パンツに手を入れ、物を取り出すなんて、後からドン引きされないかと心配になったが、どうやら杞憂だったようだ。
「これで買えるか?」
とりあえず袋の中身をすべてカウンターに出す。
「はい、全然いけますよ」
そう言うと、8枚あったうちの4枚を取った。
この買い物で、宿のお金が足りず、野宿になったら笑いものだな。
「毎度ありです、ここで装備していきますか・・・・・・って、すみません間違いました」
なんだ、普段ならここで装備するものなのか? ならやってやろう。
こうか!
私はさっきの水玉パンツをかぶる。パンツ一丁で動じない世界なら通報はされないだろう。
「な、な・・・・・・・・・・・・!?」
すると、店員さんがいきなり動揺し始めた。どうしたのだろうか。
「パ、パンツを、2つ装備っ!?!?」
こんなふざけた行為で驚かれては困るな。なんだか恥ずかしくなってきて胸が熱くなってきた。
胸が熱い。
すると突然、その熱が腕を通り、手に移動する。そして次の瞬間。
「な、なんだこれは!?」
手の上に水の塊が出来ていた。まさか、異世界特有の魔法というやつか!?
「あわ、向こう、向こうへっ!!」
そう言って背後を指差す店員、その通りに後ろを振り返ると、手に集まった熱が抑えられなくなってきた。
だめだ! 何か分からないが手から溢れ出る!!
少し腕に力を込めると、その水の塊はさらに大きくなり、手を向けた方向へ飛んでいった。
それは大砲のように、凄まじい破壊力を持っていた。建物を破壊し、真っ直ぐ空に向かってどこまでも、どこまでも飛んでいった。
「す、凄い・・・・・・」
なるほど、ある程度分かったぞ。
この世界はきっと、本当にパンツが装備なんだ。水属性というのは、パンツに込められた力に違いない、それが今私の体を通して放たれた。
「あなたは、一体何者なんですか・・・・・・?」
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