第3話 異世界でくっ殺!
この世界に来たときは、分からないこと続きだった。しかし、エリーザとやらを倒してようやく一段落ついた。
私は街から表彰された。エリーザを撃退したことで街の英雄となったのだ。報酬も貰った、100枚の金貨、元の世界で言えば一体どれほどの価値があるのだろうか。
貰ったうちの5枚は例のパンツ屋の修理に使った。このあたりはエリーザの襲撃がよくあったらしく、建物はすぐに立て直せるほどの技術とノウハウがあるらしい、予想よりかなり安上がりだった。
そう言えば、あのパンツ屋に再び行くと2つの店が隣接していることに気づいた。
最初は全く気づかなかったが、私が入ったのは女性用の場所だったらしく、その隣には男性用のパンツ屋があった。
そして、流石にこの世界でも女性用のパンツをつける男性はいない、というか装備出来ないらしい。
ところで今、私は親を失ったこの少女となんとかコミュニケーションをとろうと試みている最中だ。しかし、全く口を開かない。あんなクズ親でも、この子にとっては唯一の肉親だったのだ。
「何も喋らなかったら分かることも分からないだろう? 何か言ってくれないか?」
「・・・・・・・・・・・・」
うむぅ、なんでも屋で培った色んな知識を持ってしても、この難攻不落の城は崩せない。
それもそうだ、現実世界で誰かが死ぬなんてことは全くなかったんだから。私の両親もいたって元気で、なんなら祖母もまだまだ現役だ。
だから、親を失ったこの子の気持ちを心から分かってやることが出来ない。
「ほら! 落ち込んでたら身近に落ちてる幸せにもチャンスにも気づけないぞ! ほら! これを見たまえっ!」
フリッフリップリップリッ
そう言って、腰を振って踊ってみせる。
子供をあやす時に、これで笑わなかった子供はいなかった。
「・・・・・・・・・・・・」
すごく、申し訳なくなった。
さて、まずは、この露出狂もビックリなパンツ一丁オンザヘッドパンツ状態をなんとかしなくては。とりあえず服を買いに行こう、幸いお金はたくさんある。
まぁ、お金はパンツ屋の修理費を差し引いた95金貨のうち、65金貨を復興のために匿名で募金したので、あまり良いものは買えないだろう。
とにかく行ってみよう、この子を連れて。
街を散策していると、今度こそ服屋を見つけた。ここも男性用と女性用で入口が別れている、さっき学んだ通りに、今度こそ間違えずに男性用の入口へ入っていく。
中に入るとようやくまともな光景を見ることが出来た。コートやらブーツやら、色んな服が揃っている。
よし! 選ぶぞ!
少女に時々意見を聞きながら(レスポンスは一切なし)服を選んでいった。そして、ようやくかっこいい服の組み合わせを見つけた。
大きめの黒いコート、デニム? のジーンズ、そしてサングラスにつば広ハット! 何故か元の世界に似た品揃えもあったので、率先して買っていった。
ちなみに、お値段はたったの2金貨。かやり安い方らしい水玉パンツ1枚が4金貨だったので、思わず『安っ!』と声に出してしまった。
やはり、パンツはこの世界においてはれっきとした装備なんだ。RPGでアクセサリーに比べて装備品が高いように、この世界のパンツはかなり高いらしい。
さて、早速試着室で着替える。そして、鏡を見ると、そこにはなんとカッコいい・・・・・・。
露出狂が、いる。
センスが壊滅級だったらしい、これは100人中100人が私を犯罪者だと思うコーデだ。
このコートを広げて自分の裸を見せて興奮するタイプだ。しかし、私の変態は人を傷つけない。元の世界でも、やったことと言えば新品のストッキングとスク水をネット通販で買って、1人コスプレ鑑賞会で喜んでたくらいだ。全く誰も嫌な思いをしていない、自己完結で済んでいる。
まあとにかく、パンツ一丁よりは遥かにマシだ。ちなみにサングラスは外した、思ったより視界が悪くて動きづらい。
「さて、次は君の服を買おう」
そう、今日の目的はもう一つ、この子にしっかりした服を買う事も考えていた。
パンツ一丁よりは遥かにいい服を着ているが、それでも汚れていて、汚い印象を受ける。
洗濯するだけでもいいとは思う。でも、せっかくなら新しい服で気分を変えて欲しい。
さぁ〜て、どんな服が似合うかなぁ〜。
想像に胸膨らませながら、女服の並ぶ店内へ移動した。子供用の服もしっかり置いてある。
「好きな服を選べばいい」
そう言うと、久しぶりに少女の声を聞いた。
「私の服は、お父さんとお母さんからもらった、大切な服だから・・・・・・」
またか。
「君の両親は、君のことを愛していたのか? 君は一体、あの両親になにをしてもらった」
「服を買ってくれた、それにご飯をくれた。昨日は、お酒の瓶を割っちゃったから4日くらいご飯抜きにされてただけ、本当はちゃんと食べられてるんです。服も、こんな可愛い服を」
「一着だけか?」
「うん」
こんな可愛くて、健気な子を・・・・・・。
あの両親は、死んで当然だ。
そんなドス黒い感情が芽生える。
しかし、どんなに悪い人間でも、死ぬ必要はないはずだ。それに、生きて罪を償う必要もある。
そう、罪を、償うんだ。
死んだあの両親は、最後までこの子に辛い思いを味あわせた。
だから、私はこの子を守ってあげないといけないと、より一層強く思った。
"あのとき"は守れなかったが、今は違う、力も、知識もある。
「とにかく、服は買う。ところで、突然だが、君の名前を教えてくれないか」
聞こうと思った途端に無口になってしまったから、聞く機会が無かった。だから今のうちに聞いておかなければと思った。
「私の名前は、ノンです」
「分かった、ノン。とりあえずこの服を買ってみよう」
選ばれたのはフリル付きの服でした。ワンピースというのだろうか、上と下が一体化している。
早速試着室にノンを入れて、着替えるように促す。するとようやく観念したのか、自らワンピースを持って入っていった。
しばらくして、おニューの服に身を包んだノンが出てきた。
「かわ、かわわ〜っ!!」
幼女相手に気持ち悪い声と気持ち悪い顔。この街の英雄なのにも関わらず周りから冷たい目線が集まる。
とにかく、着替えたならここに用はない、早速外に出よう。
さて、次は何をしようか。せっかくこの力を手に入れたんだ、この力で世界を支配することだって容易い。なら、昨日の炎舞のエリーザみたいな悪いヤツを片っ端から倒していくべきか。
だとしても、どうしたら会えるだろうか?
「キャー〜ッッ!! 強盗よ〜!!」
どうやらこの街、恐ろしいほど治安が悪いらしい。ノンを背負って急いで現場に向かう。
「犯人はどこへ!?」
「この上よ! カバンを持って屋根の上に跳んでいったの!」
屋根の上に、跳んでいった〜? そんなの追いつきようがない。どうすれば?
待てよ、この世界の能力はパンツがすべてだ、ならきっと機動力を上げるパンツもあるはずだ。
だが、昨日エリーザが落としたこのパンツはおそらく火属性だ、火が使えるようになっても、機動力は上がらない。かと言って、今からそんなパンツを探すのなんて・・・・・・。
発想を柔軟にすれば、なにか思いつかないか。今持ってる力の、水属性、火属性を使って・・・・・・。
1つだけ案を思いついた。本当に出来るかは分からないが、出来ると思いこむことこそが重要だ。
「この子を頼む!」
そして、俺はパンツから水玉パンツを取り出し、頭にかぶる。
今度は攻撃ではなく、移動手段として力をコントロールする。成功をイメージして、足から水を発射させてみる。
「これだけ離れれば、もう大丈夫だぜっ!」
「待てーーい!! そこの女ーー!!」
「なにっ!? 俺に追いついてって、えぇーーー!?!?」
フライボードの要領で、足から水を放ち青空を飛んだ。
「悪いことは止めるんだー! そんなことやってないでまともに働きなさーい!!」
徐々に距離を詰める。
「クソっ! これでもくらいやがれ!」
盗人はナイフのようなものを俺に向け、的確に投げつけた。しかし私は難なく水の塊を投げ返して相殺する。
「テメェはバケモンかよっ!」
ようやく手が届く位置まで近づく、さて、どのようにして拘束しようか。
お得意の妄想力を働かせてイメージする。そうだ、シャボン玉の要領で捕まえられないだろうか。
水の挙動をイメージして、それを実現させる。すると、やりたかった通りにシャボン玉の中に閉じ込めた。
「おい! どうなってんだこれ!」
盗人はキックでシャボン玉を破ろうとする。しかし、蹴った通りに玉が広がったりするだけで、出ることは叶わなかった。
近くの屋根に乗り移って、交渉を試みる。
「諦めて投降したまえ! 盗んだものを返したまえ!」
「その後、どうするつもりだ!」
「悪いようにはしないつもりだが・・・・・・」
罪を犯した以上、何かしらの罰は与えないといけないよな・・・・・・。
うーむ・・・・・・。
ぐへへへ・・・・・・・・・・・・。
「とにかく荷物を返しなさい! 話はそれからだー!!」
「仕方ねぇ、か・・・・・・」
そう言うと、荷物を手放す。シャボン玉から荷物だけが落ちる。
中を確認しようと持ち上げようとするも、持ち上がらない。
仕方なく地面に置いたまま開けると、中には金貨がギッシリ詰まっていた。と、注意してみてみると女性もののパンツが端の方にちょこっと挟まっている。にしても、これだけ金貨が入っていれば重いだろうに、なんて力の持ち主だ。
「で、このお金をどうするつもりだ? 使い道は?」
「俺はこれ以上喋らねぇぜ」
「拷問だって出来る!」
「くっ、殺せ!」
くっ殺、実在するのか。
「まあいい、とりあえず2つの条件のうち、どちらかを選んでもらおう」
「殺すならさっさとやれ!」
そんな、別に強盗くらいで死刑になんてならないのに。
一人称が俺なのも含めて、男らしいやら中世の騎士らしいやら。
「いいか! よく聞けー! 1つ目は私の仲間になること!」
「仲間、だと?」
「私は全く分からないことだらけだからな、ガイド役が欲しいんだ、それに、君が改心するまで横でじっくりと見られるからな!」
「分からないことだらけ? ルージュじゃねぇのか? いや、ならなんで俺を? ただのお人好しか?」
なにやらブツブツ言っている。そんなことより!
「そして2つ目ー!!」
正直、こっちの方が嬉しいぞ!
「貴様の命なぞいらぬ、パンツをよこせ!」
「は、はぁっ!?」
ふふ、驚いてる驚いてる。こんなセクハラ発言、犯罪者相手じゃなきゃ言えない。
「こ、これは親父から貰った大切な・・・・・・形見・・・・・・」
え、そんな大事なものなの? パンツだよ?
「分かった、お前の仲間になってやる」
よし、別にどっちでも良かったが、仲間になるというなら心強い!
「よし、良いだろう。とりあえずこのままさっきの店までこれを返しに行く!」
そして、もう一つシャボン玉を作り出してカバンを浮かばせる。そして2つのシャボン玉を引き連れてさっきの所まで飛んでいく。
「取り返したぞ」
「ありがとうございます」
「チヒロさん、おかえりなさい」
ノンが私の元に歩いてきた。前に比べ、かなり懐いてくれたようだ。
よしよし、また1つ世界平和のために良い活躍をした。それに、今回は命を奪うことも、奪われる事態も起きなかった。まさに完璧だ。
「ところで、こちらのカバンの中身、確認されましたか?」
「あ、あぁ」
「それでは、こちらを」
そう言うと金貨を10枚ほど私の手に載せた。
「ふっ、別にこんなものいらない。見返りを求めてなどいないからな」
「いえ、受け取ってください」
そう言うと無理やりポケットに詰め込んだ。
「ま、まぁ人の好意を踏みにじる訳にもいかないからな、これは貰っておこう」
「ところで、その盗人はどうするのでしょうか」
「ふふ、言う必要もないだろう・・・・・・」
「ありがとうございます」
言う必要もない、コイツは私の変態ジェネレーション実現にこき使ってやるのだ!! はっはっは!!
「さらばだ」
そう言ってとりあえずその場を離れ、シャボン玉を解除してから街の端にある居酒屋に入る。
「で、君の名前は?」
毎回名前を聞くのが遅れてしまう、悪い癖だ。
「俺はベルクだ」
「ベルク、ならベルと呼ぼう」
「なんでだ」
「そして私はチヒロ、この子はノンだ」
「ならテメェはヒロと呼んでやるよ」
「なんでだ」
言い返してやるも、なんとなくヒロという呼び方は悪くないと思った。
「ところで」
いきなり真面目な顔をするベルク。
「お前は、なんで俺を助けた、お前ルージュだろ?」
「ルージュ? ルージュってなんだ」
「とぼけるな!」
そう言うと机をドンと叩いて立ち上がる。
「なら、なぜあの女の手助けをした! 報酬だって、貰っていただろう!!」
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