9話 異世界ルールを覚えよう2!

「では、説明しますね」


 キエイルが机の上に何枚かの紙を置いて私たちに話し始めた。

 というのも、キエイルにはこの組織、ジ・Hに加入してもらったのだ。そして、元インディゴの組織を率いていた時の情報を今共有してもらっている所だ。


 この異世界にはもう馴染んだつもりでいたが、話しているとほんの少し会話がズレることがある。色々と確認しようとベルクに話しかけると、キエイルが割って入り「説明は私がします! お兄様っ!」と言うものだから、小1時間程話をしていた。そしてその会話の流れで、組織について話してもらうことになった。


「まず、インディゴやルージュというのは、あくまで大きな組織の1部にしか過ぎません」


 そう言うと大きな輪の中にもう1つ輪が描かれている紙の上にキエイルとエリーザの顔写真を乗せる。


「まず、炎舞のエリーザ率いるルージュ。水剣のキエイル率いるインディゴ、ここまでは知っての通りだとおもいます。そして、園庭のグリニア率いるヴェール。稲妻のフラマ率いるジョーヌ。悪夢のダイレン率いるノワール。神使のキャミール率いるブラン。そして、幻影のジェール 率いるルーツ」


 そして、次々と印刷された似顔絵を置いていく。しかしジェールのみフードを被り、仮面を付けた状態のものだった。

 あと目に付く顔といえば、グリニアの顔が動物を少し人に近づけたような見た目であるということだ。ケモナーが歓喜しそうだ。

 また、ノワール、ブラン、ルーツは輪の中にあるもう1つの輪で分けられていた。


「まず、この組織群をまとめてカラーと言いうんですけど、その中で別れているのはこの3つが私たちの1つ上の序列に位置する組織であるという意味です。中でもノワールは強力です!」


 それを聞いたベルクが、仮面をつけているジェールの紙を取った。


「そうか? 俺にしてみればコイツが1番得体のしれない奴に見えるがな」


「ダイレンは顔こそ割れているものの、悪夢と言われるだけあって最強格。ジェールは最近大人しいですから、特に脅威ではないと思います。今度結婚式を挙げるやらで1番説得しやすい相手かもしれません」


「結婚式〜? ふざけた野郎だな、浮かれている間に暗殺すればいいんじゃねぇか?」


 拳を合わせて不敵に笑う。


「なんてことを言うんだ、ベル・・・・・・」


「俺は結婚ってのには因縁があってな、聞くだけで虫唾が走る」


 何があったのかは、あえて聞かなかった。なんだか、恐ろしそうだ。


「しかし、幻影の二つ名が気になるな。他の組織から逆算すると能力を増強するパンツの使い手のはずだが・・・・・・」


「さぁ、私にも分かりません・・・・・・。能ある鷹は爪を隠すということなのか、能力を使っている所は見たことないんです」


「他の代表の能力は分かるのか?」


「はい、グリニアは植物を操って攻撃、防御が出来ます、主に木を成長させてという感じですね。フラマは二つ名の通り稲妻を飛ばします、私の水剣よりも速いですが、能力の応用はあまり出来ません。ダイレンは服を溶かすスライム、そして切っても再生する触手が厄介なワームを操ります。そして、キャミールは見えない力で攻撃しますの」


「なるほど、確かに上位3組織は強力だな、所で服を溶かすスライムと触手について詳しく頼む」


「んーー・・・・・・」


 ノンが少し頬を膨らせ、私の顔を覗き込む。そして、少し笑みが浮かんでいる私の顔を指差し、キエイルに視線を送る。


「お兄様のことです、異質な能力について補足が聞きたいだけです、ですよねお兄様?」


「ジュルリ・・・・・・。あっ、はい! そのとおりだ」


「はぁ・・・・・・」


 ベルクが大きなため息をつく。キエイルだけだ、私を信じてくれるのは。


「スライムの方は物理攻撃こそ効きませんが、攻撃は出来ません。ですが、その体は服のみを溶かします、スライムに包まれればパンツが溶かされるので、戦闘不能になります・・・・・・」


「なるほど、そしてスライムにそのまま吸収、もしくは窒息死というわけか・・・・・・」


「いえ、パンツを溶かした後はすぐに離すらしいですね、それにスライムの中では何故か息が出来るとか」


 便利だな、スライム。悪い使い方が思い浮かんでくる。


「そしてワームは触手をパンツと肌の間に忍び込ませ、パンツを破いてしまいます。こちらの場合も戦闘不能になりますね。さらに切っても再生しますから、有効打という有効打もありません」


 なんてことだ、こんなにも薄い本にありそうな都合のいいモンスターが操れるだなんて、羨ましいぞ!


「しかし、そんなに強いのに、なぜ能力の詳細が分かるんだ? 生きて帰ってくる奴がいるってことだよな」


 ベルクが尋ねる。


「ダイレンは強力な力を誇示して、組織のトップに躍り出ようとしています。なのでターゲットを戦闘不能にして自分の話を広めさせているんです」


 なるほど、合理的な考えだ、ある意味最悪な奴に力が渡ったのかもしれないな。


「話を戻すが、キエイルはカラーにいたのだろう? 内部の人間にしか分からない情報はないのか?」


「うーん・・・・・・、どんな仕事をやっていたかとか、噂とかくらいです」


「じゃあ、どんな仕事をしていたんだ?」


「それは、違法パンツの流通です」


 パンツに違法やらがあるのか。流石パンツの世界だな。


「3代以降のパンツを流してました」


「やはりか、あの金貨に混ざっていたパンツは・・・・・・」


 ベルクが呟いたのを聞き逃さなかった。おそらくベルクと初めて会った時のトランクの中身のことだろう。

 だからか、重要そうな金貨を私に渡しても構わないのかと気になっていたが、あの中ではパンツが1番重要な品だったのか。その割には扱いが雑に見えたが・・・・・・。


「それより、3代のパンツとは?」


「かーっ、説明していなかったか!」


 ベルクが顔に手を当て、参ったというように軽く反って天井を見上げた。


「それなら私が説明しますの。パンツは3代以降のものを使うことを禁止されているんです。3代くらいから凄く強力になるので、治安を守るためらしいですけれど」


「ちょっと待て! キエイルのは破けて使えなくなったから分かるが、エリーザのパンツは普通に使っていたぞ! 私は逮捕されてしまうのかっ!?」


 ちなみに、キエイルのパンツは縫い直しても力を発揮することはなかった。1度破壊されるともう使えなくなるみたいだ。


「あぁ、本来ならな、お前が強いんで手を出せないんじゃないか?」


「そんな〜! これでは我々が悪の組織みたいではないか〜!」


「いえ、違います」


 キエイルが真面目な面持ちで答えた。


「少し前に聞いたんですが、エリーザを倒したことは周りに伝わってるそうですよね? 街の人達は全員、お兄様ならパンツの強力な力を平和に役立ててくれると、そう思ってるんですよ」


 そうか、信用されているのか。法の元に平等という言葉がある通り、本来なら理由があれど罰せられるべきであるである私だが、みんなが私を信頼してくれているのだな、みな、私に平和を求めているのだな・・・・・・。


「すまない、少ししんみりしたな。ところで、噂というのはなんなのだ?」


「あくまで噂ですので、あまり真に受けないで欲しいんですが・・・・・・。カラーの上に、さらなる上位組織があるという噂です」


「やめてくれ、カラーの連中ですら手も足も出なかったというのに、その上がいるなら勝てるわけないだろ」


「だから! 噂ですっ! 私もにわかには信じられません。ですが、カラーではパンツの取引なんかで手に入れたお金の半分が不透明なんです。上位3つの組織に渡しているんですが、なら上の組織は仕事をしなくてもいいはずで・・・・・・」


「とにかく、そんなことで怖気づいていてはなにも行動が起こせない。カラーを解散させたあとで、その話は考えよう」


 と話を打ち切った私だが、足の震えが隠せないことに、自分で気づいてしまった。


 だが、私は戦わなくてはならない。世界の、平和のために。

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