#8話 現実世界の推し活
私がなんでも屋になって、数ヶ月経った日のとある依頼の話。
いつも通りサイトから依頼を募っていた私のもとに、かなり珍しい依頼が舞い込んできた。
『私と一緒に、コミマに行ってください!』
コミマといえば東京ビックサイトで行われる即売会のイベントだ。交通費は負担してもらえるそうだが、かなりの遠出になるな。
理由は分からないが、気軽に頼めるのが、なんでも屋の良いところだろうし、理由は聞かないでおこう。とりあえず行ってみるとしようか。
『分かりました、それではその時間に東京駅の金の鈴前で』
さて、相手は女性、同行するとなれば一緒にいて恥ずかしくない格好をせねばな。さて、美容院にでも行って、髪を整え、服もしっかり選んでおこう・・・・・・。
そして迎えたコミマ当日。私は決めていた時間の30分前に集合場所に到着した。
自分の格好はあらかじめメールで送っておいたので、おそらく向こうから話しかけてくれるだろう。
「あっ、もしかして『なんでもちひろ』の方であってますか?」
「そのとおりだ。そしてあなたは依頼主の@まるま、さんで合っているな?」
「はいっ! 今日はよろしくお願いします」
集合時間の30分前だというのに、もう着いているとは。かなりの心配性か、はたまた私と同じように規律正しい人なのか。
@まるまさんはサングラスに帽子、そしてマスクを付けた完全防衛スタイルだ。服も真夏だというのに長袖に長いスカート。
もしかすると有名人なのではないか。私にとっては依頼人は皆等しく依頼人でしかないが。
「まだ30分ほど余裕がある、少し駅を回ってみるか?」
「帰りに行こうと思っていたところがあるんですけど、行ってみていいですか?」
「構わない」
そして、彼女の後を付いていく。エスカレーターで地下に降りると広い道に出た。
しばらく歩くとアニメキャラの店がいくつか並んでいた。
「ここです、えっと、見ますか?」
着いた先は仮面ドライバーストアなる所だった。入口には等身大サイズの像が立っていて、中にはぬいぐるみからおもちゃまで沢山のアイテムが置かれている。
「何のキャラクターなのか全く分からないな、解説してくれるなら興味がある」
「かっ、解説ですか! 任せてください!」
さっきまでのおどおどした態度から一変、カバンから取り出した眼鏡をかけてクイクイとしてみせる。
「気になるところといえば、なぜカッコいいヒーローの集合写真の中に化け物が混ざってるんだ?」
「それは見た目こそ化け物みたいかもしれませんが、実際は違うんです! 映画で初登場したドライバーなんですけど、あっそもそもその映画ってのは原作者が最後に制作に関わった3作品のうちの1つなんです!
で、話を戻すんですけど、主人公が改造されてしまい、苦悩を抱きながら戦うといった点では原点回帰とも言える作品で、異色ながら本来の強い思いを感じ取れる作品なんです! あっ、作品じゃなくてそのドライバーについての解説ですか? そうですね、でしたら面白いエピソードとか言ったらいいんでしょうか? でしたら、敵の首を切断して脊髄ごと引っこ抜くとかグロい感じのシーンがあるんですよ! で、そんなシーンとその見た目があって、後の作品でコラボした時はなんかギャグっぽく描かれてて知ってる人からしたらギャップ萌えが過ぎるって感じですよね! それとそれと、つい最近放映された、と言ってももう4年前か、時が進むのは早いなぁ、で、つい最近放映された映画で実はこのドライバーをモチーフにしたドライバーが出てきてて!・・・・・・」
長い。1を聞いたら100で帰ってきた。まずいな、このままではコミマにたどり着けなくなるぞ・・・・・・。
「そ、そろそろ時間がまずいかもしれないなぁ、商品を見ないとまずいのではないか?」
「そ、そうですね! 売り切れちゃったら嫌ですもんね! 軍資金はいくらでもあるので早速見てきます!」
そう言うと片っ端から眺め始めた。
「おーっ! これは通販限定で販売されていたベルト型スマホケースッ! 通販限定と聞いて急いでポチッたのにすぐにここで販売することになってちょっと残念だったんだよなぁー。それに通販の方よりも早く販売されてるし、通販で送料や手数料増しで買った人のことも考えろってー! そう言えば第2弾が出るらしいけど、そっちはどうしようかな〜、まぁどうせ最終的に一般販売もされるだろうし、パスかな〜」
(ちなみに、後に聞いた話だと、その第2弾は結局一般販売されず、2次受注もしなかったためかなりのプレミアがついたらしい。その旨を伝えるために届いたメールには概要の後に400文字ほどの愚痴が書かれていた)
「えー! 夏映画見た人はレシート提示で限定ポストカードプレゼントーッ!? 持ってたっけなーっ!? あ、あったーっ! 店員さーん! お願いしまーす!」
楽しそうでなによりだ。
腕時計を見る。
電車が出るまで残り5分ッ!?
「@まるま! 時間がないぞーっ! 走れーっ!」
「え、えーっ! もうそんな時間ですかーっ!?」
人混みをかけ分けて走り、なんとか電車に乗り込む。
「危なかった・・・・・・」
「す、すいません。つい夢中になって・・・・・・」
「いや、時間を確認していなかった私が悪い、すまない」
「ま、まぁ乗れたんで良かったです! あなたのおかげです!」
彼女はカバンを膝の上に乗せ、ハンカチで額の汗を拭く。喋りだすと止まらなくなるオタクなのは少しいただけないが、しっかりした女性だ。
「にしても、ああいうヒーローものは小さい男の子がターゲットだと思っていたが、さっきの話を聞く限りそう単純な話でもないらしいな」
「それでも基本的には子供向け作品ですよ。ですが、子供だましの作品と子供向け作品は全く違いまして、子供向け作品は子供に伝えたい内容が籠もっているからこそ、大人にも伝わるメッセージ性があるんですよ」
「おもちゃとかも買うのか?」
「もちろんです、Blu-ray、CD-BOXも買います、それに劇場版もネタバレ回避で当日に見に行きます」
かなりのオタク系女子らしい。
「それだけのオタクということは、今回のコミマも仮面ドライバー目的というわけか」
「はいっ! 1度で良いから仮面ドライバーのレイヤーを見てみたいと思いまして!」
そんなこんな、私が質問して、彼女が答えるという会話は、会話のキャッチボールというよりは会話の100本ノックだった。
それでも話すのは楽しくて、1回乗り換えを挟んで、ようやく目的の駅に着いた。
「私は少し遅めに来たんですけど、朝イチはここが凄いことになるんですよー!」
改札あたりでそんなことを言う。はてさて凄い時は一体どんな光景が広がっているのか。
(帰って調べた。百鬼夜行のようだった)
「すごいっ! 憧れのビックサイトは本当にあったんだーっ!」
大はしゃぎである。私が同行する必要は本当にあったのか気になる所だ。
「ではでは、今からあっちのコスプレ会場に行きますよ」
指を指した先に人だかりが見える。言い方は悪いが砂糖に群がるアリのようだ。
コスプレのエリアに着いた。見たことないアニメのキャラクターのコスプレをしている人もいれば、流行りのコスプレをしている人もいる。中には青、赤、緑、オレンジ色の全身タイツを着た手抜きコスプレ4人組もいるが、なにか元ネタがあるのだろうか。
「あーっ! 早速いましたよ! ほら!」
指を指した先には仮面ドライバーらしきコスプレをした人が。
「あっ! このクレノスのコスプレ、よく見ると本編43話で大河が変身した姿だ! ベルトが違う! 粋だなぁーっ!」
うん、私には全く分からん・・・・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます