8話 異世界に秘密基地を!
「ついに完成したぞ! 我々の基地が!」
高らかに宣言し、2人を引き連れて、建物の前に立つ。
「随分街中じゃねえか、それに、だいぶ古い感じの見た目だな」
その通りだ。私が秘密基地と呼んだここは、かなり年季が入っている。住人がいなくなった街中の古い家を買ったので当然ではあるのだが。
「さぁ、入ろう」
少し軋むドアを開くと、そこには・・・・・・。
「ナマステ〜」
「「はい?」」
「アー! チヒロサン! アリガトネー、サッソクオミセニキテクレタネー! ナニカ、タベマスカー?」
「そうだな、せっかくだ、おすすめのメニューを頼む」
「ワカリマシター」
ロハンはそう言うと、厨房の方へ入っていく。
厨房ではニランジャンが既にカレーを作り始めていた。
「説明しろ、一体、どういう事だ!」
「私、このラッシーって気になります」
「それでは説明しよう、これまでの経緯を! それと、ロハーン! ラッシーも追加でー!」
「ラッシーネー! ハイハイー!」
まず、秘密基地を作るにあたり、沢山の問題があった。
1.秘匿性、秘密基地であるからにはバレない場所に作る必要がある。
2.秘匿性を持ちながら、簡単に出入りできる場所である必要がある。
3.万が一場所が割れたとしても、入口が分からないようにカモフラージュする必要がある。
4.秘密基地を建てるとなると、建築する時に関わった何人もの人に存在をバラすことになる。
他にも色々問題はあった。考えれば考えるほど思考がぐっちゃぐちゃになってまとまらない。そんな時に運命の出会いを果たしたのだ!
街をぶらついていたある日、私はとある2人の異邦人に出会った。
「ドウシヨウ、コマッタコマッタ」
「コマリマシタ」
「そこの2人、一体何に困っている?」
「ナマステー。ワタシタチ、ワガクニノデントウリョウリヲヒロメタイトオモイ、トオイクニカラハルバルヤッテキマシタ(私達、我が国の伝統料理を広めたいと思い、遠い国からはるばるやって来ました)」
2人の顔つきや風貌は、元の世界で言う所のネパール人だった。カタコトながらも日本語を上手く喋っている。
「シカシ、ココニハソノタメノセツビモザイリョウモアリマセーン、ザイリョウアリマセンシ、ナニヨリウレマセン! コノママジャ、ヒロメルマエニワタシタチガウエチャウヨ! (しかし、ここにはそのための設備も材料もありません、材料ありませんし、なにより売れません! このままじゃ、広める前に私達が飢えちゃうよ!)」
そうか、はるばる遠方から来たにも関わらず、上手くいかないとは残念な話だな・・・・・・。
その時、私に電流が走った。
「こ、これだぁっ!!」
「ド、ドシマシタ!?」
「よし、2人、名はなんという」
「ワタシハロハン、コノムクチナノガニランジャンデス(私はロハン、この無口なのがニランジャンです)」
「よしロハン、ニランジャン、私が協力する、共に異国の料理を広めよう!」
「ホ、ホントデスカ!? ウレシイナー! アリガトゴサマース!!」
「アリガト」
大きくガッツポーズをとった私は早速2人を引き連れて、色んなところを巡った。
まずは役所を探した、それらしい所で営業許可を得た。
その次は建物を探した。場所は街中の地下部屋のある中古物件、それもなんとか見つけて、インディゴを解散させたお礼金の半分を支払い買い取る。
そして内装、秘密基地ではなく、この2人の店の内装のみに残りの全額を費やした。
また、材料問題はその異国との貿易ラインに定期的な注文をくくりつけて安定させることに成功。
こうして、この秘密基地は完成したのだ。
「思い返せば長かった。タンドール釜も私のカレー屋バイトの仕事で学んでおいたから作れたのだ。いやー、知識が役に立った。にしても、2人は料理の天才だな! 絶品だ!」
誇ったように語り終わってから、届いたナンとカレーのセット、タンドリーチキン付きを目の前に舌鼓をうつ。
「そ、れ、で」
ベルクがタメにタメて言い放った。
「秘密基地はどうなったんだーっ!!!」
「ふっふっふ、これだけ説明しても分からないとは、やはり秘密基地として大成功というわけだな」
タンドリーチキンの骨を口の中で遊ばせながら再び誇って言った。
「このラッシーって飲み物、冷たくて甘くておいしいです」
「ハッハッハ! ウレシイネー!」
「よし、食べ終わったことだし、そろそろ行こうじゃないか、ついてきたまえ!」
カウンターに銀貨2枚と銅貨4枚を置き、厨房へ入っていく。
2つ並ぶタンドール釜のうち左側の蓋を開けると、下に空間が広がっている。
はしごを伝って下まで降りると、地下の空間が広がっていた。
「なるほど、あの店はカモフラージュというわけか、考えたな」
「それに、先述した条件も全て満たしているぞ!」
1.秘匿性、秘密基地であるからにはバレない場所に作る必要がある。
A.木を隠すなら森の中、街中の単なるカレー屋を秘密基地だとは誰も思わないだろう!
2.秘匿性を持ちながら、簡単に出入りできる場所である必要がある。
A.とっても簡単に出入り可能!
3.万が一場所が割れたとしても、入口が分からないようにカモフラージュする必要がある。
A.厨房の釜の中なんて、誰も気づかないだろう! 客がいたとしても、厨房へ入っていく私達は店の関係者か何かかと思うだけのはずだ。
4.秘密基地を建てるとなると、建築する時に関わった何人もの人に存在をバラすことになる。
A.元々あった地下を塞ぐように指示しただけなので、その下を使うとは思いもしないだろう。ロハンとニランジャンは実質の私の仲間なのでここでは除外する、タンドール釜の入口も3人で作っている。
「我ながらこれ以上ない完璧な秘密基地だ! あっはっは!」
「でも、流石に照明だけだと味気ないですね」
「その通り、なので、これからは装飾を行っていくぞ。ただ、装飾は個人でやっていく、その方が楽しくていいだろう」
ノンが目を輝かせている。自分だけの部屋を想像しているのだろうか。
「そうそう、店を普通に利用する時は表から入ればいいが、この基地に入る時は裏の路地から入るんだぞ」
「お兄様ーっ!」
突然、もう1人上から降りてきた。
そして、降りてくるなり私に抱きついてきた。
よっしゃぁーっっ!!
これだ、私が求めていたのはこれなのだ! ハーレムまでとはいかずとも、女性に抱きつかれるくらいの関係は欲しかったのだー! まさかこんなすぐに叶うとはぁっ!
しかし、ここはあえて冷静に対応する。
「キエイル、人の前だ、よさないか・・・・・・」
「やめておけキエイル、そいつはおそらく下心満載だぞ」
くっ、ベルクめ、余計なことを! キエイルの前では一切変態チックな発言も行動もしていないから、完璧な人間として写っているはずなのにっ!
「キエイルさんってこんな人でしたっけ? お話を聞く限りではもっとクールな感じだったような」
かなりハードな内容なので、ノンにはかなり絞って話をしていた。しかしそれでも、キエイルがこんな変貌を遂げるとは私も思わなんだ。
「お兄様は、全くそんなことありません! 慈愛に満ちた方ですの! ですよねっ!」
「そのとおりだ、良き理解者を持てたこと、とても嬉しいぞ」
「はいっ! お兄様っ!」
目をキラキラさせるキエイル。いつからこうなったのだったか・・・・・・。
3日前・・・・・・。
「本当に、インディゴを解散してくれたのか」
「あぁ、思ったよりも骨が折れたぞ」
話を聞くと、阿漕な商売やら、略奪なんかで暮らしてきた集まりだったので、当然反対意見が多かったそうだ。しかし、キエイルはそこで力を使わず、話し合いで解決したらしい。
『私は過ちに気づいた。今更罪は消せない、だがこれから罪を犯さないことは出来る。私が勝手に1人で心変わりして申し訳ない。だがそれでも、これ以上、ここにいる人達が後悔しないために、インディゴは、解散する』
キエイルは、過去に命令に逆らったり、任務を遂行出来なかった人間を容赦なく殺していった。行く所まで行ったからこそ、諦めるのではなく、今の自分を変えようと考えたのは、本当にすごい、簡単には出来ないことだ。
そんな、これまでキエイルとは一変した態度はインディゴの構成員の胸を打った。最後まで反対した人は他の組織に移ったりもしたそうだが、これらの組織には前例のない、きれいな最期だった。
「それに、構成員たちの働き先を斡旋してくれたのもチヒロ、お前だ。本当に、この世界は変わって行くのかもな」
悪い人間は悪い人間、それが前提だったこの世界のルールは壊された。これからの活動によっては、悪者を倒すだけでなく、悪者を普通の人間に戻すことが出来るのだ。
これからは構成員の足抜けも視野に入れて活動を行っていこう。
「よし、リーダー不在のルージュは既に散らばってしまったし、派手な活動はあまり出来ないかもしれないな、それでも変態ジェネレーションの実現が近づいた今、ここで止まるわけには行かないのだ!」
「変態、ジェネレーション?」
「あぁ、端的に言えば平和な世界の事だ」
「そうか、チヒロなら信じられるな」
仲間が増えた。同じ意志を持つ同志が!
「なら、私に協力してくれないか? 共にこの世界に愛に溢れた平和をもたらすのだ」
「ああ、そうだな。次の仕事も見つかっていないし、私も興味がある」
「良かった、まだ何の仕事を頼むかは決まって無いが、メンバーが増えるだけでも嬉しい」
「その前に、1つだけワガママを聞いてくれないか?」
「うむ、なんだ?」
ワガママというと、キスしてとか、そんなやつか!? なんにせよクール系キャラのデレは最高だぞ!?
「その、私は幼い時から甘えられる人がいなくてだな、その、チヒロに、甘えたいんだ」
そうきたか! 任せろ!
「あぁ、いくらでも構わないぞ(超絶イケボ)」
「本当ですか!? ありがとうございます! お兄様っ!」
は、はい?
そう言われると、大人らしい風貌からは想像もつかないほど大胆に私に抱きついた。
予想外の流れに呆気にとられる。
「そ、そこまで・・・・・・」
ムニュッ、ムニュッ!
ぐふっ、幸せだ・・・・・・。これはこれで・・・・・・。
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