#7話 異世界の湯けむり
「ほら、入るぞ」
「は、はい」
昨日出会ったばかりのベルクさんと一緒にお風呂。なんだか、少し不安です。
ベルクさんはお店の人からお金を盗んだ悪い人でもあるので、チヒロさんと同じく、なかなか心を開けません。
衣服を棚にしまって、盗難防止の結界を張ります。外でお風呂に入ったことはありませんでしたが、こんな便利な棚があることに驚きました。
服を脱いだベルクさんの体は、きんこつりゅうりゅうといった感じで、女の人には見えません。
「お前、その痣・・・・・・」
「これですか? もう痛くないので、大丈夫です」
お腹のあたりに出来た紫色のあざを見て、ベルクさんは血相を変えていました。
「違う、そうじゃ、ねえだろ・・・・・・」
「少し寒いです」
そう言うと、察してくれたのか、すぐに外に出て、露天風呂を楽しみました。
体を洗って、岩に囲まれた湯船に浸かります。空に上っていく湯気を目で追いかけていると、次第に夜空が広がっていきます。
「お前な、両親に殴られたり、蹴られたりしてただろ」
「そうですよ、でも、それは私が悪いことをした時だけです。お父さんとお母さんは、出来の悪い私を必死に育ててくれ・・・・・・」
「だったら! そんなふうに、脇腹や背中みてぇな、人様に見られない場所だけ狙って殴ったりしねぇだろ!」
ベルクさんは、私に怒っているのでしょうか、それとも、2人に、でしょうか。
どちらにせよ、空気が悪くなってしまって、お互いに居た堪れなくなってしまいました。
「失礼するぞ」
その空気を壊すかのように、他の人が隣に入ってきました。そして、なぜか私の体をまじまじと見てきます。
「その体、そうか、お前も私と同じなんだな」
その人は私のように紫色の痣はありませんが、太ももの付け根あたりに火傷のような跡がありました。
「お前か?」
その人はベルクさんを見て、そう問いました。
「違うっ、コイツは、俺の連れがそんな両親から救い出したんだ」
「そうか、両親から離れられて清々したんじゃないか? うん?」
今度は私に聞いてきました。
「・・・・・・」
私は何も答えることが出来ませんでした。今まで、2人は私を育ててくれた優しい人、厳しくもちゃんと躾けてくれた人、そんなふうに思っていました。けれど、チヒロさん、ベルクさんに出会ってから、本当は違うのではないかと思うようになって、答えが分かりません。
「いって!」
「死ねぇいっ!」
突然柵の向こうからなにやらチヒロさんの声と、他の人の声が聞こえてきました。
「戦闘かっ!」
「私の護衛が動いたか」
そう口々に言うと、2人はすぐに脱衣所に走って戻ってしまいました。ベルクさんは去り際に「満足したら1人で風呂を出ておいてくれ」にと言っていたので、ゆっくり露天風呂を堪能することにします。
上を向いてぼんやりしていると、時間があっという間に過ぎていきました。
外は騒がしいですが、きっとベルクさんとチヒロさんなら大丈夫でしょう。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・。
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