16話 異世界の暗殺者たち!

「あの方ですね、噂のダブルホルダーは」


「そうだね」


 街を歩くチヒロを見つけた2人。


 1人はフラマ、雷属性のパンツの力を持つジョーヌのリーダー。


 もう1人はキャミール、聖属性のパンツの力を持つブランのリーダー。


「とても普通の人間に見えますが」


「キャミールさん、油断してはダメ、あれが、2つの組織を壊滅させた」


「油断してはダメ。はて、フラマさんはいつから私に意見出来るほど偉くなったんでしょうか?」


「も、申し訳、ない」


「いえいえ、仕方ないことです。本来序列の違う人同士が出会うことすら前例がありませんから」


 キャミールはあくまでも冷静かつ穏やかな態度だ、しかし、言葉の1つ1つがフラマにプレッシャーを与える。


「では、手っ取り早く終わらせてしまいましょう。フラマさん、よろしくお願いしますよ」


「了解しました」


 フラマは手を上げ、手のひらをチヒロに向ける。そんな時だった。


「い、痛・・・・・・」


「なんでしょう? 猫、ですか?」


 フラマの腕を突然現れた猫が引っ掻いたのだ、自分の腕を見ると、かなり深くまで傷が入っている。

 さらに、未だに2人に対して威嚇の態度をとっている。


「厄介ですね、偶然には思えませんし」


「どういうこと」


「偶然あのタイミングで、我々に攻撃する猫がいるかってことです」


「つまり、敵?」


 猫はすぐさま路地へ逃げていった。


「その猫、逃さないでください。チヒロは隙だらけですので、いつでも始末できます」


「了解です」


 フラマは屋根から飛び降りると、あたりをキョロキョロと見回した。猫が角を曲がるのが見えたので、走って追いかける。


 一方、キャミールは既にその場を立ち去っていた。


「迷える子羊が私を待っていますしね、こんなところで時間を浪費している場合ではありません」


 フラマが角を曲がった途端、そこにはローブを着た例の男が立っていた。


 フラマは避けて進もうとするが、その男に腕を掴まれる。


「邪魔、殺すよ?」


「こっちのセリフだ」


「・・・・・・え?」


 いきなり首を掴まれて地面に叩きつけ、抗う隙も与えず猿ぐつわをくくりつける。


「がはっ!」


 急いで手に神経を集中させ、稲妻を放とうとするも、腕をしっかりと地面に押さえつけられる。


「タネは分かってんだよ、力が使えなきゃあ、ただの人間だな!」


 頭突きで、繰り返し、繰り返し、頭が打ち付けられる。


「も、もががっ!」


 声も出せない、助けを呼べない。キャミールを呼ぼうとしたが、彼女は屋根の上、もがく声も音も聞こえない。


 血が噴き出す、意識が朦朧としてくる。


「そこっ、なにをしている!」


「クソがっ! なんでバレちまうんだよっ!」


 そんな声が聞こえてきたと思ったら、意識がプツリと途絶えた。


・・・・・・。


・・・・・・・・・・・・。


「おいおい! なんてもの連れて帰ってきてるんだよー!!」


「お兄様はこの人が誰か分かってたはずです!! 倒れていたとはいえ、危険です!」


「なら、放っておけと?」


 グリニアもキエイルも、その一言で冷静になった。


「あ、目を覚ましましたよ」


 すぐに視線をフラマに戻す。


「す、すまないな、私たちは一応敵同士だから、拘束だけはさせてもらっている」


「最初に言うことがそれか、相変わらず、とんだお人好しだな」


 ベルクがなにやら言っている。そうか、私はお人好しだったのか。


「え、ごめん。なにも、分からないんだけど」


「ここは、ジ・Hの秘密基地です、ですから、ここから出すわけにはいきません」


 秘密基地の場所が割れたら、もうここは使えなくなってしまうからな、妥当だ。


「で、誰に襲われてたんだ? 酷い傷だぞ」


「誰? 襲うって? 一体なんのこと? それに、なんで縛られてるの?」


「とぼけるなよ? お前がフラマだってのは分かってんだよ!」


「ど、怒鳴らないでください! ベルクさん!」


「フラマ、それって、名前? 私の?」


「当然だ、他に誰がいる!」


「ごめん、本当に、なにも覚えてないや」


「覚えて、ないだと?」


 それから、しばらく話し合った。彼女が本当に記憶喪失なのか。


 私は頭の外傷が原因で本当に記憶喪失になったのだと考えた、子どもたちもこの意見に賛同している。だが他のメンバーは信じられないらしい。


「演技に決まっている! そんな都合よく記憶を失うわけないだろう!」


「なら、あの頭の傷はなんなんだ。演技で、あそこまで傷つけるだろうか? 死んでもおかしくない状態だ」


「それすらやりかねないのが、カラーです」


「なら、あのローブの男だ、キエイルを襲ったのも、エリーザを殺害したのもアイツに間違いない!」


「だが、見失ったと言ってたよな?」


「あぁ、そのとおりだ。物音がしたんで、急いで駆けつけてみれば遠目に奴の姿が見えた。だが、すぐに消えてしまった」


「なら、見間違いかもしれない、過去に見た中で人を襲った奴を、勝手に頭の中で演者に仕立て上げたんじゃないのか?」


「いや! あれは見間違いではなかった!」


 話せば話すほど、何が正しいのか分からなくなってくる。


「見てほしいっす、さっき出てきた綺麗な石っす!」


「ホントだね、きれいだ」


「ゲラモさん、あまり近づかないほうが・・・・・・」


「大丈夫っす、この人は無害っすよ。なんだか、そんなニオイがするっす」


「ニオイか、グリニアはどうだ?」


「無害なニオイなんて知らん」


 ゲラモが石を渡すと、それを受け取り照明に照らしたりして、眺めている。


「貰ってもいいかな、なんだか、これを見てると、落ち着くんだ」


「なんなら貰って欲しいっす、思い出にしてくれたら嬉しいっす」


 少し和んだ、フラマを保護することを反対していた3人の表情も少し優しくなった。


「お兄様の言うことですし、今は彼女を信じましょう」


「そうだな、グリニアも信じてみるぞ」


 それから、フラマのパンツを同意を得て脱いでもらった。(この文章だと誤解を与えかねないが、健全な意味でだ。拘束を外して、別室で自主的に脱いでもらっただけだからな!)


「それじゃあ、これから、私はどうすればいい?」


「うむ、とりあえずは我々と生活してもらうだけでいい。だが、ここからは申し訳ないが出すわけにいかない。現在進行系で悪の組織のリーダーが街に出ていたら騒ぎになるからな」


「私が、悪の組織か、なんだか信じられない話だね」


 やはり、他人事のような話し方をする。記憶喪失になったことなどないが、どのような心持ちなのだろうか。

 それから我々は、敵と味方、どちらでもない彼女との生活を送ることになったのだった。


 その頃、ブランの組織の本部では・・・・・・。


「はぁ、最近はカラーにとって不都合なことばかり起きますね・・・・・・」


「言ってる場合じゃなかろう! どうするのじゃ! カラーも残るはジョーヌ、ブラン、ノワール、ルーツの4つだ。フラマが行方不明になった今、ジョーヌも解散寸前じゃぞ!?」


「とりあえず、ジョーヌはブランが吸収合併します。私であればまとめることも容易いですからね、くすくす」


「まったく、ジェールはいつまで恋愛にうつつを抜かしておるのじゃ。こんな大ピンチにも関わらず顔も見せんとはの」


「良いではありませんか、人間であれば普通のことですよ」


「そんなことより! チヒロをどうするかじゃ! 朕は人前に出んぞ、身近な存在でないからこそ民は恐怖に慄くのじゃ」


「わたくしも、人前では戦えませんね。一応、神に仕える身ですし」


「それじゃあどうすればよいのじゃ、うむぅ・・・・・・」


「頭を使うのはあまり得意ではありません。よろしく頼みますよ、ダイレンさん」


「役立たずばかりじゃ、あーもうぅー! うぎぃぃーー!!」

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変態勇者 〜パンツが装備になるこの世界で、頭にパンツを被った私は世界最強〜 北根英二 @y2759147873y

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