13話 異世界での過激な活動許しません!

「離せぇいっ! グリニアは魂を売ってもケモノだ! パンツなんてなくたってお前達なんかボコッボコなんだからなぁ〜っ!」


「その通りだな、本来ならケモノはパンツを履かないはずだが、なぜだ?」


 なるほど、ケモノはノーパンと、メモメモ・・・・・・。


「うるさい! いいから離せっ! パンツを返せぇっ!」


「ふふふ、申し訳ないがこのパンツは没収だ、もしも正義の心をしっかりと学ぶのなら考えてやってもいいぞ」


「正義? そんなもの、この世界には無いっ! 誰かの正義が誰かの悪で、誰かの悪は誰かの正義だ! お前のやっていることは真の正義なんかじゃない!」


 私はふと足を止めた。


「気にするなチヒロ、お前のやっていることは正しい」


 ベルクが私をフォローする。だが、グリニアの言う言葉が少し引っかかった。

 私が自分の正義を振りかざし、組織を解散させたとして、解散した団員たちはこれからどのようにして生きていくのだろうか。そもそもこんな組織に入るということは、それだけの理由があるはず。

 私は、バランスが成り立っていたこの世界を、崩しているのかもしれない。


 いや、それならバランスを取るために、全てリセットすればいいのだ。

 ゲーム終盤のジェンガはそれこそ少し手を加えただけで崩れてしまう。だが、崩れたあとはもう一度立て直せばいい、そう、もう一度作り直して完璧なものを作り上げるのだ。


「なら、私はこの世界の常識を覆そう」


「何を言ってるんだぁ! 偉そうな事を言って、ならグリニアたちの願い、希望を叶えてみせろぉ!」


「あぁ叶えるさ。私の掲げる変態ジェネレーションはこの世界とは全く違う、全ての人たち、ケモノたちが幸せになる世界だ!」


「変態ジェネレーションだぁ? 何言ってるんだか分かんねぇなぁ。ふっ、まぁいい、グリニアたちの"味方"をしてくれるなら大人しくしてやってもいいぞ」


「変態ジェネレーションは敵も味方もいない、全員で手を繋いで生きていくのだ! 男性は女性にハァハァして、女性は男性にキュンキュンする。こうすれば、みんな幸せ、そうは思わないか」


「この世界は今、搾取する奴と搾取される奴の2つに分かれているぞ、それを全て解くなんて不可能だ!」


「いや可能だ! このチヒロに付いてこい! 必ずお前の望みも叶えてやろう!」


 グリニアを背負い、歩きながら、私の理想を語る。


「生意気な口を聞くやつだなぁ、だが、なんだかお前ならやってしまいそうな気がするぞ」


「当然だ」


 グリニアの大きくモフモフした手が私の背中をガッチリと掴んだ。


「私の理想は語った、お前の理想を教えてくれないか?」


「私の理想か? それは、ケモノという種族をもっと沢山の人に受け入れてもらうことだ」


「そうか、確かにそれは難しいだろう」


 この世界の常識にはあまり明るくない、だがエルフやケモ耳がついたようなかなり人間に近い種族は街で見かけるのに対し、グリニアのようなケモノはグリニアで初めて見た。ケモノが受け入れられていないということは、火を見るよりも明らかだ。


「だから、グリニアは人間の手を借りてまでも必死に活動を繰り返した。ケモノが受け入れられていない事実をもっと知ってもらおうと、ナイルスペアの中に火を放ったり、川に毒を流したりした」


 ナイルスペアとは、北の方にある街らしい。って・・・・・・!


「放火、毒を流す!? なんでそんなことをやっていたんだ! お前の目的は立派なのに、なぜ!?」


「もっと沢山の人に知ってもらうためだ! こうでもしないとまともに聞いてくれないだろ!?」


「だったら仮にお前がナイルスペアの住人だとしよう。自分の家が燃やされ、川に流れた毒で家族が死に、それがケモノを受け入れようと考えるきっかけになった。と、こうなるか?」


「そ、それは・・・・・・」


「人生全ての選択における重要なことだ、一度頭の中で、この行動によって何が起こるのか、他の人がどう思うかを想像力を働かせてシミュレーションする、そうしなければ確実に過ちを犯す、現にヴェールがやってきたことは逆効果だ」


「そんなわけない! ならどうしろと言うんだ! ケモノは日陰者になっていればいいということか!?」


「なぜそうなる! 方法は他にいくらでもあるだろう!」


「グリニアは革命児にならなくてはならないんだ! 5000年の歴史をもっても交わることのないケモノを、必ず結ばなくては!」


 グリニアも、心は幼いままなのだろう。キエイルもそうだった、何かしら人生のどこかに捻じれが生じて、そのまま大人になり力を手に入れてしまったのだ。


「焦る気持ちは分かる、その真っ直ぐな気持ちも分かる、だが、そんな時は一歩引いて、広い目で見るのが大人だ」


「なら、お前ならどうする」


「そうだな、私なら・・・・・・」


 歩きながらグリニアと共に作戦会議をする。やがてその会議にはベルク、ヴェールの団員、色んな人たちが集まった。

 ヴェールの構成員は全員人間だ、それもケモノを認めようとしている人たち。ケモノであるグリニアがケモノを団員に加えなかったのは、人間同士の活動のほうが効果的であると考えていたかららしい。


「まず、ヴェールは解散だ、これは確定事項だ」


「待ってくだせぇ! そうなれば我々ケモノ同好会は力を分散させる結果に!」


「いや、ヴェールは罪を犯しすぎた、ヴェールという組織が残っているだけでも、そして過去に罪を犯したメンバーがいるということだけでも確実に印象は悪い、潔く消えるべきなんだ」


「確かにそれは良い作戦かもしれない」


「そっすか? まぁ俺はピータンちゃんとイチャイチャ出来るならそれでいいんすけど」


「そのピータンちゃんという子について詳しく頼む」


「ピータンちゃんは俺の彼女っす、鳥のケモノ、トリケモで、翼に囲まれた時の包容感が堪んないんっすよ!」


「なるほど! すべすべ感覚の羽根はさぞかし触り心地が・・・・・・。それに、見たこともないので分からないが、さぞかし美しいのだろうなぁ。ルリコンゴウインコの羽根を見たことがあるが、裏表で色が違うのだ、人の肌も中々のものだが、トリケモの肌もいくら見ても飽きないのだろうなぁ」


「ルリコンゴウインコっすか? 初耳っすね〜」


「おい! 話が脱線してるぞ!」


「あぁ、すまない」


「あなたは、ケモノ、お好きなんですか?」


「私は日本を代表する変態だ、そこに萌えとエロスを感じた時、そこには既に愛があるのだ」


「何言ってるんだか」


 雑談を交えながらの作戦会議、真面目すぎないこの空気が、どんどんアイデアを生み出していく。


「じゃじゃ、ケモノの素晴らしさを知ってもらうために村の見学とかどっすか!?」


「村の見学か、中々良いアイデアだが、広く知らせたとして、全く興味のない人間がわざわざ来るだろうか」


「というか、こんな話を私たちだけでするのはおかしな話ね、ケモノ本人に聞いてみないと」


「グリニアの故郷に行って、皆で村見学の提案をしてみるのはどうだ? そうだな、グリニアの家の近くには美味しいパンを作るケモノがいたりするのだが、そんな所で人間を呼べないのか?」


「それはナイスアイデアだ! 村特有の産業に目を向けて見るのもいいかもしれない!」


「だ、だが! こんなことだけではケモノを認めてもらうことにはならない!」


「だが確実な一歩だ。ケモノについて知ってもらう、これはグリニアが言ったことだ」


「そうじゃ、グリニア様! 一度やってみましょうぞ!」


「この方法なら俺、なんちゅーか正義って感じして、前よりかいいかなって思うっす」


「そうか、お前達、ならやってみようではないか! ヴェール解散、そして、ケモノを知ってもらうための村観光!」

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