10話 異世界ハーレム創世記!
「ジ・H、続いての目標を発表する!」
3人を集め、高々に宣言する。
「我々ジ・Hはまだまだ小さい組織だ、基地もご覧の通り極小サイズだ! よって、仲間を増やそうと思う!」
「流石お兄様です!」
「人数を増やせば増やすほど基地はバレやすくなるだろうな、本当にいいのか?」
納得している様子のキエイルに対し、腕を組み納得いかない様子のベルク。想定の範疇だ。
「あっまぁーーい!!」
ベルクをビシッと指差し、反論する。
「いいか? 我々に足りないのは、1に人材2に人材だ! 正義も救済も革命も、1人にしてならず! 大勢で力を合わせてこそ世界は平和になるのだ!」
「まぁ、それはそうかもしれないがな・・・・・・」
「ということで、次に必要な人材のリストを用意しておいた。読みたまえ」
そう言って1枚の紙をベルクに手渡し、2人も覗き込む。ノンは椅子につま先立ちして視線を合わせる、可愛らしい姿だ。
「なになに? エルフにサキュバス、ケモ耳っ娘に清楚系美女・・・・・・」
「条件、髪は長い、細すぎず太すぎずの中肉中背、胸は指定なし・・・・・・」
内容を読み上げ始めてしばらくすると、ベルクがノンの目を手で抑えた。
「ちょっと〜! これじゃあ見えませんよ! 私も見たいです〜!」
「いや、見なくていい、というか、見るな」
「どうだ? この条件の人材が集まれば我々の将来は安泰・・・・・・ごふっ!」
私のお腹を直撃したそれは勢いよく割れた、ベルクが足元にあった水瓶を投げてきてきたのだった。
「あわわ、大丈夫ですか!? お兄様!」
「し、心配するな・・・・・・。少し戯れが過ぎるようだなベル・・・・・・」
「何が必要な人材だ、ただのお前の性癖の塊じゃねぇか!」
「そんなことは断じて無いっ! 私は真面目に考え・・・・・・ぐぎゃっ!」
今度は水瓶が顔にクリーンヒット、頬から鮮血が流れる。
「お、お兄様っ! やり過ぎですよ! ベルクさん!」
「やかましい! 人殺しに言われたかねぇ!」
「ひ・・・・・・人殺し・・・・・・」
キエイルは俺にハンカチだけ手渡すと、はしごを上って何処かへ走り去ってしまった。
「お、おいっ! ベル! 流石に今のは言い過ぎだ!」
「す、すまない。ついカッとなってしまった・・・・・・」
ベルクはこういった節がある。普段は見かけによらずかなり知的で理性的だが、少しのきっかけで歯止めが効かなくなることが多い。
「ど、どうしましょう。探しますか?」
「探すのも1つの手ではあるが、やはりそっとしておいてやるべきだ。まだ"変わる"と決意してから間もないからな、過去と向き合うには、1人で整理する時間がもう少し必要なのだ」
「くっ、私も出る」
「どこへだ?」
「ここじゃない、どこかだ!」
ベルクも出ていってしまった。
「また、2人になっちゃいましたね」
「心配する必要はない、我々は既にチームなのだ、意識せずとも、必ず重力のように引かれあうのだ。さて、私こそ戯れはここまでにしないとな」
そう言って、もう1枚のメモを取り出す。
「悪気は無いとはいえ、ジョークもそこそこにしておいた方がいい、ということか」
「チヒロさん・・・・・・」
そして私達2人も新たな人材を探しに出かけたのだった。
メモ
・基地を拡大するための土木作業に精通した人。
・身の回りの家事をお願いできる人。(特にノンのお世話)
・人をまとめる能力がある人。(インディゴなんかの組織から足を洗った人たちの管理)
・強力な戦闘員。
まあこんなものだろう。それぞれ1人ずつ、戦闘員に関しても少数精鋭である方が良いので、やはり1人くらいで十分だ。
「だが、こんな都合の言い人材、簡単には見つからないだろうな・・・・・・」
「チヒロさん、あの子・・・・・・」
早速条件に合った人を見つけたのかと思ったが、そうではないらしい。
痩せ細った小さい子が道の傍らで座り込んでいる。
「あの女の子、私と同じ・・・・・・」
これ以上子供を増やしてどうするつもりだ? 我々の秘密組織はベビーシッターサービスではないのだぞ? そんな疑問は置き去り、すぐさま駆け寄る。
「君、親は?」
「どっちも、前の騒ぎの時に死んじゃいました・・・・・・」
それだけ言うと、腕に顔をうずめる。
「ボクも、もうすぐ2人のもとへ行くんだ・・・・・・」
「バカなことは言うな! とりあえず私と一緒に来るんだ」
「やめてよっ! ボクをどうする気だよ! 悪い人たちにでも売るつもり!? もうこれ以上、嫌な目に遭うのはごめんだよ」
感情を昂らせ、顔をぐしゃぐしゃにする、頬を伝う涙が痛々しい。
「私の目を見ても、信じられないか?」
肩を優しく掴み、目を見て微笑みかける。
「なんだか、子ども相手だとチヒロさんが悪者に見えますね・・・・・・」
「ちょっ! ノン! 今良いところぉっ!」
「くすっ!」
初めてこの子の笑顔を見た。
「信じて、くれたのか?」
「なんだか、悪い人ではなさそうかもって、少し思いました」
「そうかそうか、よかった」
手を差し伸べると、しっかりとその手を握り返してくれた。
というわけで、再び基地の方へ戻り。
「オカエリナサイマセー! コーイウオミセモアルラシイネー、メイドサンッテイウノ〜? コノオミセニモヤトオッカナー、ナンチャッテーアハハハハ!」
相変わらず陽気な人だ。
「いつものセットで」
「ゴチューモンアリガトゴザマース!」
「あの、チヒロさん・・・・・・」
「追加で、ラッシーも!」
「アザマース!」
「わ、分かるんですね・・・・・・」
しばらく待つと、机の上に料理が並べられる。
「ゴユックリー」
「こ、こんな豪華な・・・・・・ホントにいいんですか?」
「構わんよ、食は笑顔を呼び込む、たまにはこんなものも食べなければな」
「ソノトーリー、ダヨー」
話を聞いたのか、ロハンが語り始めた。
「ワタシノクニハ、ミンナマズシイネ。コドモモイッショウケンメイニハタライテ、ソレデヨウヤクイケテイケル。ソンナミンナノタノシミハオイシイゴハン、ショクタクヲカコムトキハミーンナエガオニナルンダヨー(私の国は、みんな貧しいね。子供も一生懸命に働いて、それでようやく生きていける。そんなみんなの楽しみは美味しいご飯、食卓を囲む時はみーんな笑顔になるんだよー)」
以前に聞いた話だが、2人の故郷の人間はみんな、もっと発展した国や街へ出稼ぎに行くらしい。しかしこの街は、ルージュの度重なる襲撃と略奪、その他諸々で治安はかなり悪い。
しかしそれでもこの街にやって来たのは、食で人々に笑顔になってもらいたいという考えから来ているらしい。矢面に立って正義の活動をする今の私よりも遥かに人々に貢献しているし、何よりもその心意気が素晴らしくて言葉も出ない。
「アトハ、ニンキサエデレバナー」
この店はオープン当初はちらほら客が来ていたものの、しばらくすると客はめっきり減っていった。
こんなにリーズナブルで美味しい店なのに、なぜ人気が出ないのか。やはり、異国の料理は少しハードルが高いというか、それを楽しむだけの心の余裕がないのか。
「そうそう、私はチヒロ、この子はノン。君の名前を聞かせてくれないか?」
「ボクは、コットン。よろしくお願いします」
「よし、コットン。私は君を保護、というか家族に迎え入れたいのだが、どうだ?」
コットンは少し驚いてみせたあと、少し考えて慎重に答えた。
「家族・・・・・・すごく、嬉しいんですけど、ボクまだ子供で、何も出来ないですよ? 本当にいいんですか?」
「構わない、私が守ってやりたいと、そう思っているだけだ。見返りは求めていない」
この街には他にも沢山困っている人がいるだろう、ノンや、コットンたちだけに救いの手を差し伸べるのは如何なものか、そう思う人もいるかもしれない。
だが、私は放ってはおけないのだ。手を伸ばして届くものがあるなら、それをしっかりと離したくないのだ。
コットンは少し遠慮がちにコクリと頷く。
「よし! じゃあコットン、これからよろしく頼むぞ!」
まだ緊張が解けていない様子のコットンの手を握り、握手を交わす。
「すごく、あったかいなぁ」
と、コットンの目には再び涙が溢れてきていた。
「ど、どうしたんだっ?」
「いや、その、嬉しくて・・・・・・」
「そうか・・・・・・」
涙を流しているコットンを、私は優しく抱きしめた。
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