第6話
「生きなさい、ルーナ…… あなたは、まだ死ぬときでは、ない… まだその時、ではないのだから」
力強く、一言一言に想いを乗せて稀咲は言った。
その時、稀咲の口から自然と、稀咲が聞いたこともない言葉がこぼれ落ちた。
「九つの尾を持つ白狐の末裔、稀咲の名のもとに神としての使命を果たす。 子猫ルーナよ、この命を大切にし、これからの生をまっとうせよ」
すると稀咲が言葉を紡ぐと共に、小さな光の粒が辺りに漂い始めた。
その光はルーナに向かってどんどん集まっていく。
そしてルーナのことを優しく光が包み込む。
─リノ・ソレイユ
稀咲が言い終わると、その光はルーナの中へと吸い込まれていった。
その様子はとても綺麗で、まるで春の陽気のような暖かさまで感じさせた。
リノ・ソレイユ、それは白狐のみが唱えることを許された魔法の言葉。
柔らかな陽の光が助けたいものを包み、どんな怪我や病気だろうとたちまち癒してしまう素敵な力。
光が全てルーナの中に吸い込まれると、ルーナの耳はピクリと動き、今までの苦しみが嘘だと言うかの様な様子でルーナは目を開けた。
「ルーナ、良かった…… ルーナ…」
稀咲はそう言ってルーナが目を開いたことに心底安心していた。
だがルーナの無事を見届けたその瞬間、稀咲は電池が切れたかの様にバタリと音を立てて突然倒れたのだった。
それと同時に稀咲の髪色や耳、尻尾も元に戻った。
「稀咲ちゃん!」
「稀咲様!」
気を失うその瞬間、微かに先生と誰かがそう叫んだのを遠くで聞いてから稀咲は意識を手離したのだった。
***
私達は稀咲様が産まれたときから傍で見守っていたスズメです。
今も窓の外からこっそりと稀咲様の様子を見守っていました。
するとなんということでしょうか、稀咲様の封印が解かれたと思ったらお倒れになったではありませんか。
本来、稀咲様の封印は解かれることはなく、至って普通のひとりの人間として過ごし、一生を終える予定でした。
それなのに稀咲様の封印は解かれてしまいました。
とにかく、解かれてしまったものは致し方ありません。
私達は瞬時に、お倒れになった稀咲様の名前を呼びながら部屋の中へ入ろうとしました。
ですが部屋の窓は閉まっていて中に入ることは出来ません。
そもそも私達は稀咲様に呼ばれていませんのに近付いてもよろしいのでしょうか?
でも、あの産まれて半年程で親から離された、世間知らずの子猫は近付いています。
なのできっと大丈夫なはずです。
ですから待っていてください、稀咲様。
必ずやこのスズメ、窓からこっそりと侵入致し、稀咲様をお助けいたします!
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