第4話
その後稀咲は浮かない顔で学校に行き、普段通り授業を受けた。
だがあからさまに普段と違うことが稀咲にはひとつだけあった。
施設に帰る楽しみが出来たのだ。
だからいつも無気力な稀咲だったが、今日は生きる気力に満ち溢れていた。
それも全ては稀咲の帰りを待ちわびているルーナに会うため、そしてただいまと言うため。
稀咲にはそれだけで良かった。
ただ、自分のことを求めてくれる人がいるという事実だけで良かったのだ。
***
学校が終わって施設に帰ればルーナと遊び、また学校に行く。
休みの日になれば一日中遊び、時には庭に出て一緒にお昼寝もした。
そうして月日は流れ、あっという間に一ヶ月が過ぎた。
その頃にはもう稀咲とルーナ、どちらが欠けてもいけないかけがえのない存在となっていた。
ふたりでひとり、そんな幸せな暮らしに終わりを告げたのは突然だった。
ある日の学校の帰り道、胸騒ぎを覚えた稀咲は急いで施設に帰った。
いつもなら玄関まで迎えに来るルーナだが、今日はその迎えがなかった。
それを不審に思った稀咲は部屋に荷物を置くこともせず、急いでルーナのいるホールへと向かった。
だがそのホールもこの時間帯には珍しく、遊ぶ子供の数が異様に少なかった。
嫌な予感がして、稀咲はどんどんと歩みを速める。
次に向かったのは稀咲とルーナの部屋だった。
ルーナがのんきに昼寝をしていることを願って稀咲は部屋の扉を開ける。
だがそこにもルーナの姿はなく、シンとした空間が広がっていただけだった。
稀咲は乱暴に荷物を放り投げると、今度は食堂に向かう。
食堂に近づくにつれ、稀咲の歩みはどんどん速まっていき、食堂が見える頃には思いっきり走り出していた。
食堂の扉を開けると、そこには先生や子供達に囲まれぐったりとしているルーナの姿があった。
「ルーナ!」
稀咲はそう叫ぶと床でぐったりとしているルーナのことを優しく抱き上げた。
ルーナは見たことが無いほどぐったりとしていて、ルーナのいた場所には吐いた後が残っていた。
「ルーナ、ルーナ!」
稀咲にしては珍しく感情的になってそう叫び続ける。
それでもぐったりとしたままのルーナの姿を見て、稀咲は顔を上げた。
「先生、お願いです。 ルーナを…、ルーナを動物病院に…連れていってくだ、さい」
この瞬間程稀咲は言葉に詰まる癖を恨んだことは無かった。
これは自分への自信のなさから来たものだ。
そう簡単に治るものでもない。
それでも稀咲は必死に告げた。
「お願いです、どうかルーナを…連れていって、下さい!」
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