第5話

だが、先生は首を横に振っただけだった。

「なんで……!」

「ルーナはそこに飾ってある観葉植物の土を食べてしまったらしいの… 気がついた時にはもうこの状態で、病院に行こうにも遠いから間に合わないと思うのよ…」

そう言って頬に手を当てる先生。

それを聞いて私の目にはみるみる涙がたまってきた。

「でも…」

「稀咲ちゃん、きっとこの子はこういう運命だったのよ」

何とか立っていた稀咲はついに床にへたりこんでしまった。

「ごめんね、ルーナ… 病院に、連れていってあげられなくて…」

稀咲はポロポロと涙をこぼす。

「ルーナ、ルーナ…お願い、生きて… 死なないで、ルーナ…… ひとりにしないで…?」

どんなに稀咲が泣いても、どんなにそう言ってもルーナのどんどん息は苦しそうになっていく一方だった。

「お願い、ルーナを…助けさせて! 」

稀咲はルーナのことを抱き締めるとそう叫んだ。

稀咲も何故「助けて」ではなく「助けさせて」と言ったのかは分からなかったが、咄嗟に出た言葉は助けさせてであった。


するとその瞬間、稀咲の頭に不思議な声が響き渡った。

『相手のさちを心から願い、真の力を望む時、そなたの封じられし力を解放する』

声が途切れると稀咲の瞳が突然輝きを増し、それとほぼ同時に稀咲を中心にして周りが強い光に包まれた。

稀咲以外の、その場にいた全員が固く目を瞑った。

光が収まってくると徐々に目がなれてきてみんなは稀咲の方を見た。

だが、そこにいたのは稀咲であって稀咲では無かった。

稀咲の薄茶色だった瞳は輝きを増して金色になり、茶色だった髪は毛先が金色の銀髪になっていた。

そして一際みんなの目を引いたのは、頭の上からぴょこんと出ている銀色の毛に覆われた獣の耳と、稀咲の背中を覆ってしまう程立派で、これまた銀色の毛が生えた九本の狐の尻尾だった。

その耳はピクピクと動き、尻尾も左右にゆらゆらと揺れていた。

その動きが、これは現実だということを確実に証明していた。

それを見て最初に口を開いたのは、ルーナを病院に連れていかないと言った先生だった。

「な、なんなの? これは…」

次に口を開いたのは、たまたまその場に居合わせていた玲香だ。

「化け物…」

静かな空間に、先生と玲香の言葉だけが響き渡る。

その言葉を聞いた稀咲は一瞬目を見開いたが、またルーナに視線を戻すと願い始めた。

「お願い、ルーナ… 生きて、生き……」

そこで稀咲は言葉を区切ると、何かを決心したかのようにしっかりとルーナに向き合った。

そして息を大きく吸い込むと、今まで生きてきたなかで一番大きな声でこう言った。

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