第13話

人里からかなり離れた森の奥深くで、狐の兄妹きょうだいが誕生していた。

黄色い毛皮を持つ兄妹の中で、一際目を引く子が一匹いた。

その子は、白銀の毛皮を持つ、他の子に比べて体が小さい子狐だった。


─とてとてっ


子狐達は毎日森の中で転げ回っている。

その中で一匹、白銀の子狐だけは違った。


なんでぼくは遊んじゃいけないの?

どうしてお母さんはぼくをお外に出してくれないの…?


白銀の子狐は、産まれた時から一度も外に出してもらったことがなかった。

それにも関わらず、白銀の子狐は、乳のみ子を卒業すると同時に森のもっと奥深くに捨てられた。


"白は森の中で目立つから。

この一匹がいるだけで他の兄妹にも危険がおよぶ確率がぐんと上がるから…

私はまだ、死にたくない…"


子狐が捨てられたのはそんな理由だった。

それでも、乳のみ子を卒業するまでは育ててもらえただけ、優しい親だったのである。

普通なら、産まれた瞬間に捨てられていてもおかしくない。


狩りの仕方もわからない…、水を飲む場所も知らない…

そんな小さな狐に待っている未来は、『死』だけだった。


"白の子狐に寄れば、敵にすぐ気付かれる"


森の中にはいつしかそんな噂が広がり、小さな狐は孤立していった。


"さみしい、お腹すいた、のど渇いた…、みんな、ぼくのこと嫌いなの?"


小さな狐はどんなことを考えただろうか。

それは誰にもわからないことであった。


運良く餌にありつけても、あまりお腹は膨れない。

水を飲むことだってままならない。

雨に濡れれば身体が冷え、敵に見付かれば体力を余計に使う。


小さな狐は、森の中でパタリと倒れた。


もう、疲れたな…

なんのために産まれたんだろう…

お腹、すいたな、さむいな、さみしいな…

でも、やっぱり一番は、心がチクチクする。

悲しい、辛い、もう、嫌だ…


小さな狐の中で色々な感情がせめぎあう。

そうしている間に、小さな狐は眠くなってきて、目を閉じた。

小さな狐はもう起き上がることなく、静かにその息を引き取った。

齢半年であった。


そんな子狐に、一筋の暖かい光が射し込んだ。

冷えきった狐の身体を包み込むような優しい光。

神は何を思ったのだろうか…

小さな狐がまた目を覚ましたのだ。


ぼく、身体が自由に動く!

どこも痛くない! 苦しくない!

お腹もすいてない!


小さな狐は、ふわふわになった白銀に輝く毛皮に陽の光を反射させながら走り出した。

後ろを振り返ることもせずに…


─走り去った小さな狐の居た場所には、静かに、誰にも気付かれることなく子狐の身体が横たわり続けていた。

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