第10話
ノックしてから入ってきたのは、若い女性であった。
「あら、稀咲ちゃん起きたのね。 調子はどう? って、あら? 窓なんて開いていたかしら…」
スズメが先生に気が付かれることなく窓の外に出ると、ほぼ同時に窓が開いていることに気が付いた先生。
間一髪であった。
危なかった…
もう少しで先生にバレるところだった。
野生のスズメが部屋の中にいたらどんな目に遭うか…
稀咲は想像しただけで身が縮むよう思いであった。
「稀咲ちゃん、食欲はある? あるならお腹にいいものを少し食べましょうか」
「はい…」
そう言いつつも、稀咲には食欲が余りなかった。
あんなにも寝て、飲み食いしていなかったのだからお腹が空いていてもおかしくないはずなのに、どこかおかしい…
お腹が空かなければ、喉も渇かないのだ。
私、なにかおかしい…
これではまるで、人じゃないみたい。
「ところで稀咲ちゃん、その髪と瞳はどうしたの?」
窓を閉め終わり、改めて稀咲を見た先生が声をかけてくる。
ついにこの時が来た、隠しようもない見た目を問われる時が…
「あっ、えっと… これは、その…」
どうしよう、なにも思い付かない…
このままだと先生にまで嫌われてしまう。
考え抜いた挙げ句、ひとつの言葉が稀咲の口からこぼれた。
「………分かりません…」
これが稀咲の出せる最善の答えであった。
「そう、まぁいいわ。 とにかく軽く食べられるものを持ってくるから少し待っていてね」
そう言って先生が部屋から出ていく。
緊張が解けてホッと一息つくもつかの間、入れ替りで部屋の中に入ってきた者がいた。
「ふぅん、起きたんだ。 あんたの顔を見なくて精々してたのに」
入って来るや否や稀咲に悪態をついたのは、玲香であった。
ルーナは毛を逆立てて玲香を警戒している。
「このこ、きさにやなことする。 ルーナがきさをまもらないと!」
「なに、まだ私のこと嫌ってるの? いいわ、私もあんたのこと嫌いだから」
玲香は、フーフーと威嚇しているルーナの首根っこをつまみ上げると、稀咲の方へと放り投げた。
「ちょっと、なにするの!? ルーナをなげるなんてしんじられない!」
怒るルーナを見向きもせずに、玲香は稀咲のことをまじまじと眺める。
「あんた、また人離れしたの? 人じゃないあんたが一番嫌い。 どっか行けばいいのに…」
玲香はその後も散々悪態をついてから部屋を出ていった。
なんだったんだろう…
稀咲はそんなことを考えながら玲香の出ていったドアを眺めていた。
もう、ここには私の居場所はないのかな
それなら、ここに居るだけ無駄なのかもしれない…
稀咲の思考は、どんどんと悪い方へと進んでいった。
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