第7話

これは、夢…?

懐かしい、まだお父さんが居た時の記憶だ…

お父さん? 私には、お父さんはいないはず…

なら、あなたは誰?

私の手を引くいつも優しかった君はだぁれ…?


思い出せない。


あんなにも大切だった存在なのに…

なんで忘れてしまったのだろう。

頭に靄がかかったみたい…

なにも、なんにも思い出すことが出来ない。

あなたは誰? 私は誰?

優しかった君、いつも笑顔だった君は誰?



   ***



稀咲が倒れてから丸一日が経過した頃、稀咲にある変化が起こっていた。

耳と尻尾は出ていないものの、髪の色が変わり始めたのだ。

この様子だと、閉じられていて見えていない瞳の色もきっと変わっているだろう。


稀咲はそれからすぐに目を覚まし、まだ重い体に力を入れてぐいっと起こした。

そして目の前の壁にかかっている大きな全身鏡を見ると、稀咲は驚きで目を見開いた。

今までの姿とは打って変わり、髪の色は毛先が金色の銀髪に、瞳の色は綺麗な金色になっていたのだ。

「誰? これ、私…?」

「稀咲様、お目覚めになられまして何よりです。 あっ、失礼しました。 私達、今まで稀咲様を見守らせていただいていました、と申します。 以後お見知りおきを」

「あっ、これはこれは…ご丁寧に、どうも… って、そうじゃ、なくて…」

「ほほほっ、稀咲様はノリツッコミがお上手でいらっしゃいますね。 子供が元気なのは素晴らしいことであり…」

スズメはにこやかにしゃべり続ける。

「もう、お父さんったら、いい加減にしなさいな!」

にぎやかなスズメを思いっきりくちばしでつついたのはもう一羽のスズメだった。

「うちの父が失礼しました、稀咲様。 それで稀咲様はご自分が何者なのかをお知りになりたいのでしたよね。 それならばこのわたくしがお教えして差し上げますわ!」

スズメはバサッと音を立てて翼を広げると話し出した。


「稀咲様は森に生きる神、白狐様の末裔なのです。 白狐様は自然を愛し、すべての生き物を等しく愛した素晴らしい御方でした。 稀咲様が持つ神としてのお力は、癒しを与え、すべての声を聞く素敵なお力です。 私達『鳥』と呼ばれるものは、世界中の情報を集め、困っている生き物に白狐様の存在を伝えます。 そして稀咲様は私達の集めた情報を元に生き物に救いの手を差しのべるのですわ!」


スズメはうっとりとした目を稀咲に向ける。

そしてまだ尚、それがどれほど名誉なことなのかを話していた。


「わかった… もう分かった、から…言わなくて、いいよ」


「そうですか? まだまだ白狐様の素晴らしさは伝えきれていないのですが…」

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