第17話
「ちょっと、葉月!? その言い方はないんじゃないの!」
「はっ、そんなこと知るかよ。 お前の目が見えないのは事実だろ? 違うっていうなら…いや、いい。 それじゃあ本当に休むから。 おやすみ、母さん」
「葉月! ちょっと待ちなさい、葉月!」
葉月は黒い笑みを浮かべると、今度こそは振り返らずに二階へと消えていった。
「なんなの…? 葉月も、あの子も…」
***
「ルーナ、それ、じゃあ森に…、あるべき場所に、行こうか」
「うん! もり、どんなところかなぁ~」
稀咲は葉月と別れた後、森に向かって歩いていた。
「あの、そこのお嬢さん。 ちょっとお待ちくださいな」
その矢先、一人の男に話しかけられたのだ。
だが稀咲は気付かない振りをしてその場を通りすぎようとする。
「おい、無視するな」
「いやっ、離して」
稀咲は腕を掴まれて抵抗する。
「きさになにするの!」
嫌がる稀咲に気が付いたルーナは、思いっきり男の手に噛みついた。
「痛っ! おい、なにする、このちびねこが!」
「みゃっ!」
男が手を振った勢いでルーナは吹っ飛び、近くの木に思いっきり身体を打ち付けた。
「ルーナ!」
稀咲は男のことを振り払うとルーナを抱えた。
そして振り返ることをせずに走り出した。
「おい、待て!」
予想通りというべきか男は追いかけてきた。
「はっ、はっ…」
稀咲はどこを走っているのかわからなくなりながらも必死になって走り続ける。
だが大人の方が足が速いのは常識というもので、あっという間に距離を詰められる。
「いや…。 いや、助けて!」
稀咲は叫んだ。
決して大きな声ではない。
だが稀咲の、子供の高い声は街中に響いた。
「ねぇ、何してるの? 俺の妹になにする気?」
突然響いた声に辺りを見回す男。
「こっちだよ、こっち」
男の視線は声に誘導されて一本の大きな木の枝に向けられた。
「あはっ、そんな恐ろしいものを見るような目をしないでよ。 で、なんで妹に近づいたの? …はやく俺の質問に答えろよ」
トンっと木から降りた彼は、声を低くして男の顔を覗き込んだ。
彼の、葉月の目は冷たく、声も低く、本能が危険を告げていた。
"やばい、逃げなきゃ殺される。"
そんな思いが男の中に生まれる。
「ねぇ、なにか言ったらどうなの?」
葉月に追い詰められ、男の口からひゅっという音がもれた。
「ん? なにも聞こえないなぁ」
クスクスと笑う葉月は、さっきまで稀咲といた彼とは別人に見えた。
「やっ、やめて! お兄、ちゃん…もう、いいからっ。 だから、だからもう、やめて!」
稀咲はこわばる身体に力を入れ、ぎゅっとルーナを抱きしめる。
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