森の守護者は『慈愛』の白狐
柴ちゃん
第1話
ここは児童養護施設の中庭、そこで桜の木に寄っ掛かって
「また稀咲のやつが寝てるよ、今日はどうしてやろうか?」
「こんなのはどうだ?」
そう言いながら稀咲に近づいてきたふたりの少年は、ニヤッと笑ったあと稀咲の髪を思いっきり引っ張った。
「痛い! やめて… やめてよ!」
稀咲はそう叫ぶが勿論ふたりはやめない。
それどころかどんどんヒートアップしていく。
「やめてってば!」
稀咲が手を振り払って睨むと、ふたりは一瞬気圧された。
「お前の目は不気味なんだよ! こっち見るな!」
ふたりはそう言うと、稀咲を思いっきり突き飛ばした。
「きゃ!!」
稀咲はその勢いで桜の木の横に転がる。
それからしばらく髪を引っ張ったり稀咲のことを蹴飛ばしていたふたりだったが突然ピタッとやめた。
「ふんっ、これくらいでやめとくか、先生が来たら困る」
そう言うと少年ふたりはなにごともなかったかのようにその場から去っていった。
「もう、いや… なんで…いつも、私ばかり…」
ふたりが立ち去ったのを確認した稀咲は桜の木の傍でうずくまるとそう呟いた。
稀咲は産まれたときから父親はおらず、母親には虐待をされていた。
それでも3歳までは育てて貰えたが、家を追い出されてからは施設の人に保護されるまで外で暮らしていた。
飢えをしのぐために泥棒まがいなこともしたし、親切な大人に恵んで貰ったこともあった。
時にはその辺の草を食べたこともある。
それから保護され小学生になり、学校に行くようになるとそこでもいじめられ、施設でも毎日のように虐められていた。
施設の先生はその事を知らない。
誰にもバレないように虐められていたからだ。
いつしか稀咲は人生を諦めるようになっていた。
酷い環境でずっと過ごしていたせいか、稀咲は愛情と言うものを知らずにいた。
それでも、稀咲は優しい心を忘れずに過ごしていた。
まるでそれが自分の使命だとでも言うかのように。
しかしそんな稀咲にも、人生の転機と言うものが小学三年生の今、訪れようとしていた。
いつものようにご飯の時間になると稀咲は施設の中に戻り、ご飯を受け取った。
そしてひとり黙々とご飯を食べ、それが終わるとみんなで一緒にごちそうさまをした。
それぞれ自分達の部屋に戻ろうとすると珍しく先生がみんなのことを引き留めた。
引き留めた先生の腕の中には生後六ヶ月程だと思われる子猫がいる。
先生は子猫をみんなに見せるように掲げると、ここで飼うことになったと告げた。
「だから誰かにお世話をして欲しいのだけど、誰かしてくれる人はいますか?」
先生がそう聞くと、みんなが一斉に手を挙げてアピールした。
先生はみんなのことを見回して、一番前に立っている女の子に目を向けると「なら、
「やった~!」
先生の言葉を聞いて、玲香は嬉しそうにして叫んだ。
玲香は稀咲と同い年の女の子で、なにかと稀咲に突っかかってくる子だ。
そして今も稀咲の顔を見て良いでしょ、とでも言うような表情をしていた。
「でもみんなで協力してお世話をして下さいね?」
先生は玲香に釘を打つかのようにそう言うと玲香に子猫を渡した。
すると子猫は玲香の手にわたる瞬間に思いっきり引っ掻いた。
玲香がそれに驚いて受け取ろうとした子猫を落とすと子猫は華麗に着地を決めた。
そして逃げ出した子猫を捕まえようとする子供達の手を潜り抜けて子猫は猛ダッシュで稀咲に向かって走ってくる。
子猫は稀咲の前に着くと走ってきた勢いのまま稀咲に飛び付いてきた。
咄嗟に稀咲が腕を広げるとさっきまでの嫌がりぶりはどこへいったのか、子猫は素直に稀咲の腕の中に収まったのだった。
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