ジョーカーフェイス
江戸川努芽
プロローグ
数ヶ月前。
その日、少年は夜に約束があり、必要となる車を探していた。
人気の少ない駐車場や道路沿いを徘徊し、目当ての車を物色する。欲しいのはエンジンキーが差し込まれたままになっている外車だ。
裏通りに入り、少年は視線を一周させる。
少年が目をつけたのは、この近辺を縄張りにしている暴力団が所有している車だった。見るからに高級そうなその車は、暴力団が最近手に入れたものらしく、昼間から乗り回している光景を何度か見かけたことがある。
上唇を舐め、少年は不適に微笑んだ。運のいいことに、キーは抜かれずに残っている。運転手を含めたその筋の連中が、すぐ戻って来るつもりでつい抜くことを怠ってしまったらしい。
周囲に人の目がないことを確認すると、少年は車へと乗り込んだ。全く躊躇わず、まるで己の所有物だと言わんばかりにドアを閉じ、シートベルトもせずにそのままキーを回した。重厚なエンジン音が響き渡る。
しかし、少年は無感情だった。高級車に対して、興味というものを毛ほども感じさせない。
その時、エンジン音に気づいた運転手とその仲間が、目の前のビルから飛び出してくる。酷く青ざめていたが、やがてその表情は赤く変色し、怒りを露わにする。
だが、少年はそんな状況に臆することなく、むしろ楽しむかのように鼻で笑い、ドアロックをかけた。鬱陶しい羽虫同様の感情で、必死にドアを掴む運転手を振り落とす。次に前方を塞ごうとする巨漢の男たちを撥ね飛ばし、少年は裏通りを抜けていく。
少年は車の運転など習ったことすらなかったが、まるで日頃から乗り慣れているかのように自在に操っていた。
実は他人の車を奪って運転するのは初めてのことじゃない。車体を制御することは、もはや考えなくてもできる。
悪びれることなく、少年は車と共に町の中に消えて行った。
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