第11話 真実の作り方


「探り?」

「坊やにも前、一度話しただろう? この学園には裏の世界で暗躍する暗部が存在しているって、その組織の一つ『黒衣こくえ騎士団きしだん』が、ハートのクイーンを潰しにきてるんだ。既に、代表や幹部との勝負の日程が組まれている」

「んだよ、その『黒衣の騎士団』って?」

「王生学園の序列第一位、スペードのキングが率いるスペードの生徒で構成されたグループだよ。王生理事長直下の実行部隊で、活動目的は不明。どういうわけか、ハートのクイーンに勝負を挑んできたんだよ」

「なるほど、黒い剣でスペードだから『黒衣の騎士団』か、つまりそいつらとのギャンブルに勝ちたいわけだ。けど、わからねぇな、べつに負けても良さそうに思えるんだが」


 相手が王生学園最強のスペードのキングであれば、むしろ勝ってしまう方が不自然だ。


「あの子が普通の生徒であれば、負けても問題なかったかもしれない。要するに、問題はその称号と立場にあるわけだ」

「称号と立場ねぇ……」


 久遠はまだ王生学園に来て日が浅く、まだトランプの称号、特に『絵札』への関心が低かった。言われてもあまりピンのこない。


「ハートのクイーンが単なる運だけで勝ち続けてきた偽りの博徒だと知られれば、立場を危ぶめてしまう。ただ勝ったり負けたりするのではなく、それ相応の実力を示さなくてはならないんだよ。今のままでは、本来の実力を見破られて都落ちするのが目に見えてる」

「面倒な条件だな、要はいい勝負しようってことかよ」

「簡単に言えばそういうことだ。皇家は由緒ある家柄でな、その一人娘が『絵札』から転落することなど許されないんだよ。まあ、これが逆に狙われる理由にもなってしまっているわけだが」


 久遠もようやく、今の皇の状況を理解し始めた。その家系故に危険なギャンブルにも挑み、その持ち前の強運の力で勝ち続け、今の地位にまだ上り詰めた存在、ハートのクイーン。その身が危ぶまれ、ギャンブルで確かな実力を示すために、久遠が教師として選ばれたのだ。

 首の後ろを手で軽くかきながら、久遠はあからさまに嫌そうな顔を浮かべた。

 正直、自信もない。誰かにギャンブルの術を教えたことなど、実のところ過去に一度もないからだ。


「ちょっと! 何であんたが嫌そうな顔してんのよ! ギャンブルの技術を教えてもらうのなんて、私の方が嫌なんだからね!」


 顔を赤くしながら、皇が声を張り上げた。さっきまで泣き喚いていたということもあり、顔はまだ少し歪んでいる。


「んじゃ、俺もう帰っていいか? お断りされちゃったし」

「ダメだ、坊やに拒否権はない。まさか、忘れたのかい?」

「ちっ、面倒くせぇなぁ……」


 本人から拒否られていることもあり、どうも気分が乗らなかった。


「まあ最悪、当日までに間に合わなくても、坊やがゴーストとして彼女を勝利させれば何の問題もない」

「そっちの方が楽そうではあるな。それで、その肝心な日程ってのはいつなんだ?」

「舞踏会は二週間後です」

「はぁ? 舞踏会?」


 仁科の返事に対し、久遠は思わず惚けた声を上げた。


「はい、今回お嬢様がご出席なさるのは『黒衣の騎士団』が主催している仮面舞踏会です」

「二週間かぁ……」

「坊やにも二週間は少し難しいかい?」

「いや、そうとも言えねぇな。この女の実力が俺の中ではっきりしてない、今のレベルによっちゃ、十分すぎるって場合もある」

「そのために、坊やとブラックジャックで対決してもらったんだ。もちろん、ゴト行為が可能である状況を作ってな」

「なるほどな。たしかに、おかげでこの女の視野がある程度は理解できたよ」


 すると、久遠はおもむろにポケットからタバコを取り出すと、何の躊躇いもなくマッチで火をつけようとし始めた。


「おい、何をしようとしているんだい?」


 一応は教師である自身の目の前ということもあり、さすがに都築が口を挟んだ。


「あ? んだよ、もしかしてこの屋敷は全部屋禁煙か?」

「そういう問題じゃない、坊やはそもそも未成年だ。せめて私の見てないところで吸ってくれないか?」

「んだよ、急に教師みたいな態度取りやがってよぉ、これがねぇと落ち着かねんだよ」

「お嬢様、絶対に真似してはいけませんよ」

「……え? あ……うん……」


 仁科が久遠に侮蔑の眼差しを向ける。大切な主人である皇に悪い遊びを覚えてほしくないらしい。


「はぁ、なんかやり辛いな……ったく、今は我慢しといてやるよ」

「当然よ! あんたが未成年とか関係なく、人の家で勝手に吸わないでくれる?」


 ごもっともな怒りである。他人の家で家主の了承なしに好き勝手やっていいはずがない。


「お前、さっき俺とブラックジャックやってる時は澄ました顔でプレイしてたくせに、ほんと別人だな」

「し、知らないし、そんなの!」

「申し訳ありませんクソ野郎、お嬢様はギャンブル状態の際はほぼ無意識ですので、言っても無駄かと」


 仁科が割り込んで補足した。


「あっ……そう、てか俺のことはクソ野郎で決定なのな」

「失礼、口が滑りました」

「いや、もう遅いから……」


 久遠ももうツッコミを入れる気すら湧いてこなかった。


「つうか、あれだけ冷静に戦況を眺めておきながら、俺のサマ一つ見抜けないのかよ」

「うっ、やっぱりイカサマしてたんだ」

「もちろん。まあ、ゴト行為には気づけても、そのサマが何なのか見破らなきゃ何の意味もねぇけどな。あれだけ一方的なら、誰でもイカサマされてるなんてことには気づける」

「そ、そんなのわかんないし……こっちはずっと気を失いそうだったんだから」

「いや、知らんし……てかそんなんで体が保つのかよ」

「まず、トランプにおけるサマの基本技術から教える。その『黒衣の騎士団』って連中のことは知らんが、この学園の生徒なら間違いなくサマを仕掛けてくるはずだ。まず、見抜けるようになる前にてめぇが覚えねぇとな」


 久遠は自身の親の時と同様に、トランプを表向きにして中身を確認し始めた。今度は、テーブルの上に広げて皇たちにもよく見えるようにしている。


「まず、これを覚えろ」

「へ?」

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