第23話 羊男の示唆

 清洲会議の最終日、午後の会議開始までまだ30分の余裕があった。僕は、あの「あちら側」の世界が気になっていた。もしかしたら、そこには何か答えが隠されているのかもしれないと思い、城外に出ることに決めた。清洲城の厚い壁を越え、一歩外に踏み出したが、あちら側を感じることはできなかった。外の世界は、どこにでもあるような穏やかな日常の風景で、特別なものは何も感じられなかった。


 僕は5分ほど歩いて、城屋敷の片隅にある小さな茶屋に腰を下ろした。そこで僕を迎えたのは、店主の羊男だった。彼は不思議な存在で、その風貌はまるで別の世界から来たかのような異国情緒を持っていた。彼の姿は、普通の人間とは一線を画しており、その存在自体が僕には新鮮な驚きをもたらした。


 「どうやら、君の意見がいちばん優勢だね」と羊男は謎めいた笑みを浮かべながら言った。彼の声は、遠くの風が運んでくる秋の匂いのように、どこか懐かしさを感じさせるものだった。まるで古い友人からの手紙を読んでいるような、心地よい親近感が僕を包み込んだ。


 僕は少し驚きつつも、内心で戸惑いながら、「本当にそうかな?でも、私にはまだ何が正しいのかわからないよ」と答えた。僕の言葉は、遠くの海を見つめる船乗りのように、遠い地平線へと思いを馳せていた。心の中には疑問と期待が入り混じっており、その複雑な感情が言葉になっていた。


 羊男は一瞬、遠くを見つめるような表情を浮かべてから、僕に向き直り、「長秀、大切なのは心の声を聞くことだ。あなたの内なる声が何を言っているか、それに耳を傾けてみなさい。時には、その声が正しい道を示してくれるものだ」と言った。彼の言葉は、まるで遠くの山から響く鐘の音のように、僕の心に深く響き渡った。彼の言葉には、まるで別の世界からの知恵が込められているように感じられ、僕の心の奥深くに届いた。


 茶屋を後にするとき、羊男は僕に向かって「君なら、正しい道を見つけられる。心の声に従って、歩むべき道を歩みなさい」と励ましの言葉を送ってくれた。その言葉は、まるで長い冬の後に訪れる春の訪れのように、僕に新たな希望と決意をもたらした。


 僕は茶屋を後にし、城へと戻る道を歩きながら、羊男の言葉を何度も反芻した。「心の声とはなんだろう」と何度も考えながら、自分の内なる声に耳を傾ける決意を固めていた。午後の会議で、僕はその声が示す道を歩む勇気を持って立ち向かうことにした。

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