第3章 誕生日の宴の

第1話 廻る


 大広間には縁起の良い模様が刺繍された絨毯が敷き詰められ、美しい衣装に身を包んだ数多くの要人たちが座っている。

 その中でもひときわ華やかなのは今日の主役、ザフィーラだ。

 最も奥の席に座るザフィーラは清めた体に香油を塗られ、綺麗な化粧を施されている。明るい紫の衣装も、指や首に多くつけた飾りも、きっとザフィーラを引き立たせてくれているはずだ。


 そのザフィーラの正面にナーディヤが座る。侍女が捧げ持つ黄金の飾りを取り、慎重にザフィーラの耳に通す。この耳飾りは、今日のためにナーディヤが用意していてくれたもの。

 耳飾りを通す穴は先ほど控えの間で開けてあった。思いのほか痛くはなかったので穴が開いた実感はなかったが、こうして耳飾りを通すとその分だけ重みがかかってなんとなく身が引き締まる思いがする。


 両耳に飾りを通し終えたナーディヤは、改めてザフィーラを見つめる。微笑み、立ち上がり、人々の方を向いて玻璃の盃を掲げた。


「ザフィーラの十六歳を祝して!」


 正面に居並ぶ人々が一斉に「おめでとうございます」と言って頭を下げる。真ん中ほどの場所にはアシルもいる。入口付近にはメティンもいる。頭を下げた彼らは今、どのような表情をしているのだろうか。


「ありがとう」


 ザフィーラが言うと、それを合図に現れた踊り子たちが一斉に花びらをまき散らした。

 赤、紫、白、黄、橙。

 鮮やかな色彩が宙を舞い、あたりからわっと歓声が上がる。


「今日はおめでたい日よ! みんなも大いに盛り上がってちょうだい!」


 笑顔で声を張り上げるナーディヤはいつも通りだし、盃を持つ手だってもう赤くない。もしかしたら朝の出来事はザフィーラの思い違いだったのではないかという気すらしてしまう。

 でもあれは現実だ。ザフィーラは姉の手を叩いた感触をはっきりと覚えている。あのときの姉の顔だって思い出せる。呆然とした表情でザフィーラを見つめる、青ざめたナーディヤの顔を。


 笑顔の踊り子がくるくる回る。

 くるくる回って、また戻って。


 くるくる、くるくる。

 回る、回る、回る。


 ザフィーラの思考もくるりくるりと巡って昨日に戻って行く。

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