第14話 夜会の報告
ジルヴィアと知り合いの令嬢達がジークフリートと夜会で踊った晩、アマーリエは自室でジルヴィアの帰りを待っていた。いつもなら瞼が落ちてしまっている時間だが、ジルヴィアの報告をわくわくして待っているので、眠たくない。ノックが聞こえてすぐにアマーリエは、扉の所まで飛んで行った。
「ジルヴィア! どうだった?」
「あのパオラとかいう女が殿下にくっついてましたよ。でも引き剥がして殿下には私と知り合いのご令嬢5人と連続して踊ってもらいました」
「ジルヴィアを入れたら6人連続?! わざと意地悪したの?酷い」
「そのぐらいの罰を受けても当たり前でしょう」
ジルヴィアはツンとしたすまし顔でそう答えた。
「ねえ、ジルヴィア。それより殿下とパオラさんの関係は何なの?」
「浮気でも何でもないけど、理由はまだ言えない、でも信じてほしい、だそうです。その前に色々噂になっていたのも同じく本当は浮気ではないけど、理由はまだ言えないと言っていました」
「ふーん……どうして理由を言えないんだろう?」
「私も聞いていないですから、推測の限りですけど、王国のためではないでしょうか」
「女の人と色々するのが王国のため?」
ジルヴィアはアマーリエに悪いと思いつつも、吹き出してしまった。
「笑うなんて酷いよ、ジルヴィア」
「申し訳ありません。焼きもちを妬くお嬢様がかわいらしくて…」
「子供扱いしないで! 焼きもちなんて妬いてない!」
「それが焼きもちなんですよ。でもお嬢様はまだ子供です。子供時代は二度と返ってきません。たっぷり楽しんで下さい。私はもっと遊べばよかったってちょっと後悔しているんですよ」
「遊ぶって……王妃教育の勉強もしなきゃいけないし、そんな時間ない。それに私はもう13歳、そんなに小さい子じゃないよ」
「今が一番小さいんですよ。さあ、お話はこのぐらいにして今夜はもう寝て下さい。たっぷり寝て明日いっぱい遊んで下さいね。おやすみなさい」
ぷーっと頬を膨らませたアマーリエは、部屋を出て行くジルヴィアを見送って寝台に入った。
翌日、アマーリエはジルヴィアから聞いたことを父ルートヴィヒに報告した。ただ、ルートヴィヒは妻シャルロッテと夜会に出席していたので、ジルヴィアとジークフリートの会話の内容以外は知っている。
「殿下は、パオラさんやその前に色々な女の人と噂になってたのは浮気でも何でもない、理由はまだ言えないけど信じてほしいと言っていたそうなんです。ジルヴィアは、殿下が王国のために何かしているからだって思ってるみたいなのですが、お父様はどう思いますか?」
「彼は彼なりに頑張っているんだろう。そのやり方自体は合っているとは思えないが」
「殿下のために私も諜報員として働きたいって3年前にも頼んだことを覚えてますよね?」
「ああ。私はもちろん今も反対だよ。アマーリエは女性でしかもまだ子供だ。いくら殿下が王族でも、婚約者を守るのは殿下のほうだよ。殿下のことは近衛騎士団と我が諜報部隊が守っているから安心しなさい」
「殿下が私を守ってくださるのは私もうれしいです。でも逆に私が殿下を守ってもいいじゃないですか。お互いに守る関係って私はいいと思います。私はやっぱり殿下のために働きたい。駄目ですか、お父様?」
「一番の理由は、お前が殿下と結婚できなくなるかもしれないからだよ。お前が殿下のことをこんなに慕っているのに、彼との仲を引き裂かなければならないようなことが起こる可能性は避けたい」
アマーリエの顔から笑みが消え、真剣な表情で父を見つめた。
「お父様。私が殿下の隣にいられなくなって殿下が他の女性と結婚したら、やっぱり悲しいです。でもそれ以上にもっと悲しいのは、殿下がこの世からいなくなることです。殿下さえ生きていてくれるなら、私は何でもします」
「アマーリエ……殿下がそれほどまで命を狙われているとは思えないが」
「予知夢のようなものを見ることがあるんです。それで殿下が……言いたくないんですが、その夢の中の未来では殿下が……最悪な結果になりました。その殿下も今と同じように色々な女性に声をかけていました」
「それはただの夢だろう?」
アマーリエは、160年以上後の世界からやって来たと話しても父に理解してもらえるとは思えない。それにジークフリートが男爵令嬢と心中した史実が未来の世界で知られているというのも話したくないし、話したとしても信じてもらえないだろう。アマーリエは言霊を信じているわけではないが、口に出してしまうとそれが現実になりそうで怖い。それどころか、話した相手が父でなければ、アマーリエの真意を疑われることになりそうだ。
「夢と片付けるには、あまりに生々しくて本当の出来事のようだったんです。お父様、殿下の周りの方々で殿下を害しそうな方はいませんか?王妃陛下や、陛下が親しくしている方とか?」
「滅多なことを言うんじゃない」
ルートヴィヒはアンドレを要注意人物と目しているが、アマーリエも彼に目をつけていたとは思わなかった。王国の利益に反することをしないか諜報部隊にアンドレを見張らせているが、しっぽを出したことはまだない。
「お父様、お願いです! 私を殿下付きの諜報員にして下さい!それでどうなっても覚悟はできています」
「私はそんな覚悟できてないよ」
ルードヴィヒは目の前の娘を悲しそうに見つめた。
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