第25話 疑惑の解明

アーデルグンデは殺された日、王都からバウアーリンクまでずっと見張られていた。バウアーリンクの館の部屋でジークフリートにそっとメモを渡そうとした瞬間、ロベールが部屋に押し入ってきてアーデルグンデの頭を撃ち抜いた。彼はジークフリートも撃ち殺そうとしたが、弾丸が反れて左肩に命中した。ジークフリートは応戦してロベールの左胸を一発で撃ち抜いた。ロベールは息絶える寸前に最期の力を振り絞ってジークフリートを撃ち殺そうとしたが、彼の最後の弾丸はジークフリートの右脚に命中した。


アーデルグンデのメモには、アンドレとロベールに脅されてジークフリートに近づいたことや、ジークフリートを殺せとずっと言われていたことが書かれていた。


アンドレは王太子暗殺未遂の共犯で逮捕され、重罪人の入る王宮の地下牢に勾留された。彼は、アウグストとヘルミネと協力してジークフリートとフレデリックを殺すつもりだったことをやけに易々と暴露し、協力の証拠の隠し場所も教えた。アウグストにアレンスブルクの王にする、ヘルミネにもソヌスの女王にすると両方に甘言を囁いていたことも明らかになった。裁判で処刑が決まって数日後、アンドレは脱獄して行方不明になった。


フレデリックは息子が殺されそうになったことに狼狽し、アウグストに頼まれてルプレヒトを足止めしたことを告白したが、紅茶に睡眠薬が入っていたことは知らなかったと言い訳した。政治的に異母弟に頼り切りのフレデリックは彼の頼みを断れなかったと主張したが、ジークフリートは、責任を取って退位するように父に迫った。


フレデリックとジークフリートが話していると、侍女ダニエラが紅茶を持って入って来た。すかさずジークフリートはダニエラに厳しい質問を投げかけた。


「ルプレヒトに睡眠薬入りの紅茶を淹れたのは貴女ですか?」


フレデリックはダニエラが答える前に慌てて口を挟んだ。


「違う!あの日はアウグストの寄こした侍女がお茶を淹れた。ダニエラは誓って何もしてない。彼女はお前の推薦で私の侍女になったんじゃないか。お前を狙う動機がない。このお茶にも何も入っていないから、安心して飲んでくれ」

「分かってますよ。父上とダニエラの間にどれだけ信頼関係があるか、試しただけです」


ジークフリートはダニエラの方に向いて話しかけた。


「これはまだ公にするまで秘密にしておいて欲しいのですが、父は退位して離宮に蟄居します。貴女も付いていってくれますか?」

「陛下がお望みの限り、私はお仕えします」

「私が考えているのは侍女としてではなく…いや、これは父上自身が言うことですね」

「な、何を言っているんだ?!」

「あんな女を妻に留めておくのは愚の骨頂ですよ。母上は、父上と私を殺して自分を女王にしてやるというアンドレの甘言に乗りました。彼女は、国王と王太子殺害未遂の共犯として逮捕されます。そうなれば母上との離婚も教会は認めるでしょう。いや、あの女と離婚してもらわなければなりません」

「いや、でも…私達を殺そうなんて彼女はしてないだろう?アンドレがそう言っただけじゃないか?」

「まだあの女を信じているのですか?哀れですね」


ヘルミネは、女子大生アメリーの知る元の歴史では離縁されず、革命直前に旅行先で暗殺された。でも色々とアメリーの知る史実と変わってきた今、彼女が暗殺されない可能性も多いにある。


ヘルミネは、王宮の敷地内にある塔に幽閉された。ジークフリートは優柔不断な父が絆されないようにヘルミネとの面会を禁じたが、フレデリックはこっそり妻に面会し続けた。結婚以来ずっと冷たかった妻が初めて自分に甘えて抱いて欲しいとねだるので、フレデリックは妻との秘密の逢瀬に夢中になった。


ヘルミネは夫に釈放を懇願したが、フレデリックは今や自分の立場を分かっているので、できないと妻を諫めた。それでも待遇改善と自分との自由な面会を実現させるからと宥めたが、ヘルミネは自分を愛しているなら何でもできるはずだとフレデリックを詰った。


ヘルミネは頼りにならない夫に落胆したが、王妃の地位が惜しいヘルミネはフレデリックにまだ利用価値はあると考えて関係は絶たなかった。代わりに自分に心酔しているの元護衛のオリヴィエに釈放の手助けをさせることにした。


反吐が出るぐらい嫌だったが、賄賂に使える金も貴重品もなかったので、ヘルミネは牢番と寝る代わりに王都にいるはずのオリヴィエを探させた。オリヴィエが来ると約束した晩の前日、ヘルミネはフレデリックに風邪を引いたみたいなのでしばらく来ないようにと伝えた。


オリヴィエが約束通り現れると、ヘルミネは彼にずっと会いたかったと口にし、ここを出たら一緒に暮らそうと誘った。しかし、オリヴィエの目にはかつて輝いていたヘルミネの姿はなく、なぜ彼女を崇めていたのか今や自分でも分からなかった。だが、オリヴィエは、彼女の誘いに乗ったかのように振舞い、半裸になって抱き合った。


そこにフレデリックが来た。ジークフリートは、母が改心したのは嘘に決まっていると父に告げ、半信半疑の父に今夜塔に行ってみたらとあおったのだ。


フレデリックは今度こそ妻に落胆し、退位後の離婚を口にした。ヘルミネは言い訳に終始し、あまつさえオリヴィエが彼女を誘惑したと嘘をついた。だがオリヴィエは、脱獄の手助けをしたらずっと一緒に暮らそうと彼女に誘われたことを打ち明けた。


結局ヘルミネは変わっていなかった。


「父上、見たでしょう。この女は父上の愛にそぐわない。自分が自由になれるのなら、牢番とも寝るんですよ」

「違うのよ、そんな汚い男と私が寝るわけないでしょう?!ねえ、信じて、フレデリック!」


フレデリックはもう妻を信じなかった。かつて彼女に心酔していた元護衛も彼女の元を去り、ヘルミネは塔の中でたった1人になった。

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