幕間3 王妃の侍従

ヘルミネは型にはまって窮屈な王宮での生活を嫌い、王宮にはほとんどいない。公務で出かけることはまずなく、ヘルミネに心酔する護衛オリヴィエとお気に入りの侍女イザベルだけを伴い、お忍び旅行に行っていることがほとんどだ。


旅行先でヘルミネは、祖国ソヌス王国の一代男爵カルノー夫人の偽名を使い、オリヴィエの妻として振舞う。オリヴィエとイザベルもヘルミネと同じくソヌス人で、彼女より7、8歳若い。ヘルミネの輿入れの時に付いてきた護衛と侍女が数年前に引退して祖国に帰った後にソヌス王宮から派遣された。


ヘルミネは、旅行で息子ジークフリートに滅多に会えないことも、ドロテアが押し付ける教育方針も当初は特に気にならなかった。でもその考えを変えた出会いがあった。


それは新生アマーリエが目覚める6年前、王国歴439年7月、ジークフリートは当時8歳。ヘルミネはまだ29歳で自分の容姿に今よりも自信を持っていた。


出会いの地は、ヘルミネの祖国ソヌス王国の保養地。そこで出会ったアンドレ・ド・ロレーヌの美貌と話術にヘルミネはすぐに魅入られた。彼はソヌスの子爵令息でオリヴィエとイザベルの同年代、その時紹介された彼の友人ロベール・リベルテは平民だが、粉石鹸事業で成功している金持ちである。


オリヴィエが身バレを心配しているのをよそに、ヘルミネはうっ憤を晴らすかのように義母の古臭い価値観をアンドレとオリヴィエに愚痴った。義母がヘルミネの一人息子に四角四面の教育を押し付けているとアンドレは知り、取り返しがつかなくなる前に息子の教育係を変えることをヘルミネに提案し、彼女はよい考えだと絶賛した。


その後、保養地からヘルミネは帰国し、閨で夫にジークフリートの家庭教師を入れ替えるように甘い声で懇願した。それから1ヶ月もしないうちにドロテアが少し留守をした隙にジークフリートの家庭教師が一斉に入れ替えられた。


それから2年後、ヘルミネはアンドレ・ド・ロレーヌを自らの侍従として王宮に雇い入れた。王宮にいる時、ヘルミネは堂々と他の使用人を下げてアンドレと2人だけで自室で過ごすことも多い。人前では流石にキスをしたりしないが、2人の距離はただの王妃と侍従にしては近すぎてただならぬ関係にあることは、それを信じたくない哀れな夫フレデリック以外の目には明らかだ。


ヘルミネが人払いをしてアンドレと2人きりになる時、彼女を一途に慕う護衛オリヴィエは、怒りと嫉妬を隠せない。ヘルミネは7歳年下の若い護衛の思慕と敬愛の混じった視線が以前はいつも心地よく誇らしかったのに、アンドレに溺れるようになってから、そんなオリヴィエを鬱陶しく思うことがある。それでもヘルミネはオリヴィエとの関係を断ち切るつもりはない。同世代のイザベルがオリヴィエを慕って身体の関係すら持っているのに、彼が彼女よりヘルミネを愛しているというのは優越感を持ててよい。


アンドレはアレンスブルク王国の、ヘルミネのお忍び旅行に滅多についていけない。それを愚痴ったヘルミネにアンドレの友人ロベール・リベルテも王妃の側近として雇うことをアンドレは提案し、ヘルミネはそれを実行した。ロベールはアンドレがお忍び旅行に同行できるよう、彼の補佐をする。ドロテアは反対だったが、その話を知った時は反対するには既に遅かった。愛妻の貞淑を無駄に信じていたフレデリックは、もう1人雇えばヘルミネが侍従と2人きりになる機会が減って妙な噂が消えるだろうと微かな希望を持って賛成し、わざと実母に事前に教えなかった。

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