幕間2 王妃は悪女

 アレンスブルク国王フレデリックの妃ヘルミネは、王太子ジークフリートの実母である。彼女は隣国ソヌス国王ルイの次女で、アマーリエの落馬事故の35年前にソヌス王国に併合された旧ルクス王国の元王妃・名総督ユージェニーの姪にあたる。


 本来は、フレデリックと年の近いヘルミネの姉の第一王女がフレデリックと結婚する予定だった。結婚式を見据えた初顔合わせの時、当時王太子だったフレデリックが第二王女ヘルミネ――ソヌス語ではエルミネと呼ばれる――を見初め、色々すったもんだした末にヘルミネはアレンスブルク王家に輿入れした。


 フレデリックは、ヘルミネが滅多に帰らずとも、健気に妻を待って愛妾の1人だって持たない。でもヘルミネは若い頃のフレデリックの外見が好きだっただけで、実母の王太后ドロテアに強く言えない優柔不断な性格に結婚早々、幻滅した。それに8歳も年上のフレデリックは、ドロテアに似て中年太りに年々拍車がかかり、40歳を過ぎた今や、ヘルミネに言わせれば見る影もない。そもそも大嫌いな姉ソヌス第一王女から婚約者だったフレデリックをヘルミネは奪い取りたかっただけだ。本当に彼を愛していた訳ではないから、唯一の取り柄の外見がなくなったフレデリックを愛する訳がない。


 結婚当初からヘルミネは、当時王妃だった義母ドロテアと上手くいかなかった。本人達は認めたがらないが、2人とも似た者同士で気が強い。


 ドロテアが世継ぎ、世継ぎと騒ぐので、ヘルミネは一人息子ジークフリートを産んだ。ドロテアはせめてもう1人産めと口うるさく言ったが、ヘルミネにはその気が全くなかった。ドロテアだって5人産んで1人しか息子を授からなかったのだ。もう1人息子を授かるまで一体何人産まなきゃいけないのかと思うとうんざりする。ドロテアの若い頃の肖像画を見れば結婚当時のフレデリックに似ていて本当に美しかったが、5人も産んで老年に差し掛かった今ではブクブクと太ってしまい、ヘルミネはその姿にゾッとする。本当は体形が崩れるので、ヘルミネは1人だって産みたくなかった。でもそうしなかったら王妃の地位が脅かされたので仕方ない。ヘルミネは、今もジークフリートを妊娠中にできた醜い妊娠線が恨めしい。


 一人息子のジークフリートを生んだ後、ヘルミネはそんな姑を避け、お役御免とばかりに各地を漫遊、王宮にめったに帰らなくなった。それは夫フレデリックが即位しても変わらず、アレンスブルク王妃として外交や社交をする気は全くない。


 息子の決断に何かと干渉し、政治にも介入しようとする強い母と、国内情勢に全く関心を持たずにフラフラと漫遊する愛妻に挟まれ、八方美人のフレデリックはどっちつかずであった。国王の無策と王妃の行状に批判が高まり、ドロテアは離縁させれば何とかなると思ったが、フレデリックは惚れた弱みで決して首を縦に振らない。民主化革命の不穏な足音が押し寄せる中、有効な対策を取れないアレンスブルク王国の政治が行き詰まるのも時間の問題であった。


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初めの段落に出てきた旧ルクス王国の元王妃・名総督ユージェニーは、『あなたはずっと私の心の中にいる』のサブヒロイン(かなりドアマットされてた)です。結構暗い展開の話でも読みたいという方がいれば是非ともお願いします!

https://kakuyomu.jp/works/16817330651015841301

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