第3話 尋問改め問診
『くたびれジャケット』氏改めこの家の主治医ヨーゼフは、あれこれとアメリーに聞いてきた。
「お嬢様、ここがどこかお分かりですか?」
「私がどこに運ばれたのか分からないけど、そんなに遠くの筈はないからソヌス国内でしょ」
アメリーが『ソヌス』と言ったのを聞いて3人の顔が陰った。しかも彼女にとっては自宅の筈なのにどこに運ばれたかわからないと言うのだ。
「今日は何月何日ですか」
「それは私がどのぐらい気を失っていたかによるでしょ?」
「3日間です」
「えっ、そんなに?」
月日は、事故に遭った日から3日足した日で合っていた。でもヨーゼフによれば、今年は王国歴445年というのだ――アレンスブルク王国がソヌスに併合されるちょうど15年前、ジークフリートが死ぬ10年前! 併合の150年後の本来のアメリーの生きる時代に王国歴は最早使われていない。
アメリーが自分の名前がわからないと言ったら、シャルロッテが大きな声で嘆き始めてまた話が進まなくなった。やっと聞き出した今のアメリーの名前は『アマーリエ・フォン・オルデンブルク』だと言う。
(待てよ……この名前……どこかで聞いたことある……)
アメリーがズキズキ痛む頭をフル回転させて思いついたのは、悲劇の王太子ジークフリートの婚約者がそんな名前だったこと。彼女はジークフリートよりも結構年下で18歳になってから彼と結婚するはずだった。だから婚約期間が長くてジークフリートはその間、男女を問わず浮名を流しまくった……その結果が心中だ。
でも頭の中にもう1つの名前が浮かんできた。『フリーデリケ』なんとかだ。
(あれ?! 結婚寸前だった婚約者ってアマーリエって名前じゃないよね?!)
アメリーは思い出した。ジークフリートの婚約者は一度変わった。アマーリエ・フォン・オルデンブルクが落馬事故で夭逝したので、2歳年下の国内の別の有力貴族の令嬢フリーデリケ何某と婚約し直したのだ。彼女が18歳になる年に結婚するはずだったが、まだまだ遊んでいたいジークフリートは身を固めたくなくて何度か結婚を延期、とうとう24歳になった年にもう延期できずに結婚という直前にジークフリートは心中してしまった。
(じゃあ、アマーリエはこの事故で本当は死んでいた……よくわからないけど、まだ10歳ぐらいの筈。ジークフリートは24歳で死んだから、王国歴445年には14歳)
アメリーはそう思って自分の腕と手をもう一度よく見た。
(大人の腕と手じゃない)
「ねぇ、私、何歳?」
「10歳にお成りです」
「ああ、アマーリエ! なんてこと! 自分の歳も分からないの?!」
シャルロッテは頭に両手を当てて再び悲嘆に暮れた。
その時、ノックが響いた。シャルロッテの夫でアマーリエの父であるルードヴィヒ・フォン・オルデンブルク公爵が『入れ』と答えると、侍従が高貴な人物の訪問を告げた。アメリーはその名前を聞いて驚いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます