第2話 ゴミ捨て場

「あ、メアリーだ」



 ゴミ捨て場には先客がいた。子供が数人。猿のようにゴミ山の上を跳ねている。どうやらゴミ山からお宝を発掘しようとしているようだ。まだ使える家具などは直せばお金になる。子供というのはそんなずるがしこいことばかり覚えるのだから困ったものだ。男の子が一人、ゴミ山の上から無邪気な顔をメアリーの方に向けていた。



「イアン、ゴミ拾い行ったの?」


「行ったよ」


「ほんと? さぼったらお駄賃もらえないぞ」


「行ったてば。ねぇ、何かいいものあった?」


「ないよ。生ごみばっか」


「ちぇ」



 くそ生意気な態度をとるイアンにむっとしつつ、メアリーは籠をひっくり返した。この年頃の子供はいちばんうるさいし、いちばん生意気だ。数年前の自分はもう少し利口だったとメアリーはふと記憶を辿たどる。いや、やめよう。子供の頃のことなんて思い出しても後悔するだけだ。お腹も膨れないし。



「お宝なんてそうそう出ないよ。そんなもん探す暇があったら角爺つのじいの畑手伝って来な」


「えー、つまんない」


「仕事はつまらないものだ」


「メアリーも宝探しやろうよ」


だよ。何であたしが」


「えー、だってメアリーが教えてくれたんじゃん」


「んー? そうだっけ?」



 スーッとメアリーは目を逸らす。まったく記憶にない。確かに、言葉がたどたどしい頃からイアンのことを知っているし、昔は後ろをよくついてきた。その頃に何か吹き込んだのだろう、昔の自分が。反省してほしい。



「もうあたしは卒業したの」


「えー、今でも変な絵集めてるじゃん」


「あれは趣味。それに変じゃない」


「変だよ、変!」


「む。いいからさっさと降りてこい。子供だからって働かないと腹減って死ぬぞ」


「いいもん。お金は盗めばいいし」


「また、そんなことを」



 誰に教わったんだか。ん? いや、あたしではないはず。まだ教えてない。うん、たぶん、きっと。とメアリーは頭をかく。


 

「おまえにはまだ早い」


「そんなことないよ。この前ばーさんから財布ったし」


「そりゃ運がよかったんだ。人を見る目のないうちはやめとけ。義体になるのは嫌だろ」


「メアリーみたいに?」


「……そうだ」


「なんないもーん。ばぁーか」


「このっ! せっかく忠告してやってんのに」


「うっせぇ、ババア! やーいやーい、チクタクメアリー、チックタックチックタック、今何時?」


「こんのガキ! ちょっとそこで待ってろ。殴る」


「うわぁ! 逃げろぉ!」



 蜘蛛の子を散らすように子供たちがゴミ山の上からはけていく。メアリーは少しだけ追いかける仕草をしたが、すぐに足を止める。言った通り追いかけっこをするほど子供ではないし、運び屋の仕事のせいでひどく疲れていた。


 それに、とメアリーは胸に手をあてる。カチカチと音が鳴る。人体から聞こえるはずのない機械音。義体がゆえになる規則正しい音。子供たちからチクタクメアリーだなんて言われるがゆえん。だけど、その音が今、やけに不連続になっていた。



「こっちも寿命か」



 音が落ち着くまでメアリーはしばらく待つ。それから一つ息をついた。これは早めに部品屋に行った方がよさそうだ。足の義体も調子がわるいし、部品屋には文句を言いに行こうと思っていたところだ。義体の調子がわるいと次の仕事にも差しさわる。


 とは言っても。


 

「今日は寝よ」



 メアリーは寝床に足先を向けた。だが、踏み出す前に一つ思い出して、自分に向けてもう一つ呟く。



「その前に花に水やらないと」

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