第3話 部品屋

「そりゃ仕方ねぇよ、おめぇ。買っちゃもんは買っちゃもんのもんだ。俺は関係ねぇ。不良品買っちゃ方がわるいっちぇもんだぜ」



 部品屋ギアジャンクションの店主ハモンドは、カウンターの向こうでにやにやと笑っていた。禿面はげづらでどこに売っているのかわからない派手なシャツを着ている。活舌かつぜつがわるく、半分くらい何を言っているのかわからず、メアリーを余計に苛々させた。



「粗悪品まわしておいて、言い訳してんじゃねぇよ! こっちは金払ってんだぞ!」


「目利きができねぇやちゃー、だめだよ、おめぇ。ひちょちゅ勉強になっちゃな、はは」


「あたしが見たときは上物だったんだよ。途中ですり替えただろ!」


「そんな根拠ねぇこちょ言っちゃだめだよ、おめぇ。もしもそうだちょしちぇも、そんちょき言わねぇと」


「んだと! てめぇ! ふざけってとぶっ殺すぞ!」



 メアリーが凄んで台を叩くと、ハモンドはサッと腰に手を当てた。その動作の意味がわかって思わず防ごうとメアリーは手を伸ばしたが、それは叶わず膝から落ち、台の上にガタンと頭を打ち付けた。



欠陥品ガラクチャが調子にのっちゃいけねぇよ」


「っ! ぁぁぁあ!」



 腰から取り出したのは短い杖。杖の先には丸いガラス玉。その中で紫結晶アジサイウムがくるくると回転している。


 妨害晶波ジャミングウェーブ


 サクラタウンには過去の災害により身体の一部を失った者が多い。そのときに発達したのが義体の技術、継填装パッチワークだ。紫結晶を動力として起動する継填装は、うまく使えば人を超える力をも発揮できる。だが一方で、人工物であるがゆえに、それは人の手によって容易に止められる。その方法が、この妨害晶波であった。


 メアリーは、必死に息を吸って吐いて、音にならない悲鳴をあげ、もう一度頭を台に打ち付けた。



「いいか、おめぇ。欠陥品が人間様に口答えしちゃいけねぇよ。生かされちぇいる身分なんだからよ」


「うっ、せぇ。さっ、さと、解け」


「口の利き方がなっちゃいねぇ。おめぇも女なんだっちゃら、もっちょおしちょやかにしねぇと」


「た、頼む、よ」


「初めからそうすりゃいいんだよ。別によ、俺も悪魔じゃねぇ。おめぇはいい客だしよ、継填装を交換してやっちぇもいい。つまり、まぁ金次第よ。まぁよ、おめぇも昔ちょ違っちぇ、ずいぶんいい女になっちゃから、別の払い方もあるけどよ」


「変態が……」


「勘違いすんな、おめぇ。俺だっちぇ、おもちゃで遊ぶ趣味はねぇよ。そもそも、おめぇの身体はほとんどうちの商品じゃねぇか。ちゃつもんもちゃちゃねぇよ。ん? 待ちぇよ。おめぇ、そういえば口の方は義体じゃねぇな」



 ぐへっと立ち上がってハモンドはベルトをかちゃかちゃと外す。メアリーはぞわっと背筋に悪寒を走らせる。本当に男というやつはどいつもこいつもと、咄嗟に咳払いをしてから、メアリーはむりやりにでもにやっと笑ってみせた。



「はは! 口は、義体じゃないんだぜ」


「あぁ、だからうまくやれよ」


「自慢じゃないが、顎には自信がある。ナッツを割るのは、得意だ。意味わかるか?」


「……」


「わかったら、きたねぇもんしまって、仕事をしろ」


「ほんちょ、かわいくねぇのは昔から変わらねぇよ、おめぇは」



 ふんと不満そうにハモンドは杖の紫結晶の回転は止めて、奥の方へと歩いていった。同時にメアリーの身体に力が戻り、カハッと勢いよく息を吐いた。


 

「あんたは昔からくそ野郎だよ」


「そうかい、ありがちょよ」



 戻ってきたハモンドは義足を、どんとカウンターに置いた。以前、メアリーが買おうとしたものだ。やっぱりすり替えてたんじゃねぇかとハモンドを睨みつけたが、彼は素知らぬ顔をして、とんとんと台を叩いた。


 すさまじく気が進まなかったが、ごねても仕方がないとメアリーは金を払う。



「装着もしちぇやろうか?」


「さっき犯そうとしてた奴に触らせると思う?」


「おめぇもまだガキだな。それちょ仕事は別だ」


「っ! ……いい。自分でやる。いったい何年この身体と付き合っていると思っているの」



 そう言って、メアリーは義足を隅から隅まで確認する。また騙されたらたまらない。ハモンドの方はもう興味を失ったように新聞に目を落としていた。


 一通り確認してから、メアリーは義足を袋に入れて背負った。これで足の方は大丈夫。次の仕事はなんとかなるだろう。もう帰りたいところだが、もう一つ用事があるとメアリーは嫌々ながら口を開く。



「もう一つ頼みたいんだけど」


「ん? どこだ?」


「心臓」


「どこだっちぇ?」


「心臓だよ。心臓の継填装」



 メアリーが告げると、ハモンドは一瞬惚けてからケラケラと笑った。



「ははは! そいちゃ無理だな。心臓なんかそうそう出まわっちゃいない。うちでも扱っちゃいねぇ。仮にあっちゃとしちぇも高値も高値。おめぇには絶対払えねぇよ。終わりだ、終わり。まぁ、長生きしちゃ方じゃねぇか、欠陥品にしちぇは」


「うるせぇな。ないならないでいいんだよ。他をあたるからさ」


「金を用意しな。そうしないちょどこ行っちぇも同じだよ」


「ちっ、どいつもこいつもくそだな」


「嫌なら神に祈れ。それかちょ取引でもするんだな。他のすべちぇを奪われるかもしんねぇが」


「あほらし。こっちにはおとぎ話してる暇はねぇんだよ」



 メアリーは、吐き捨ててハモンドに背を向けた。

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