第3話 部品屋
「そりゃ仕方ねぇよ、おめぇ。買っちゃもんは買っちゃもんのもんだ。俺は関係ねぇ。不良品買っちゃ方がわるいっちぇもんだぜ」
「粗悪品まわしておいて、言い訳してんじゃねぇよ! こっちは金払ってんだぞ!」
「目利きができねぇやちゃー、だめだよ、おめぇ。
「あたしが見たときは上物だったんだよ。途中ですり替えただろ!」
「そんな根拠ねぇこちょ言っちゃだめだよ、おめぇ。もしもそうだちょしちぇも、そんちょき言わねぇと」
「んだと! てめぇ! ふざけってとぶっ殺すぞ!」
メアリーが凄んで台を叩くと、ハモンドはサッと腰に手を当てた。その動作の意味がわかって思わず防ごうとメアリーは手を伸ばしたが、それは叶わず膝から落ち、台の上にガタンと頭を打ち付けた。
「
「っ! ぁぁぁあ!」
腰から取り出したのは短い杖。杖の先には丸いガラス玉。その中で
サクラタウンには過去の災害により身体の一部を失った者が多い。そのときに発達したのが義体の技術、
メアリーは、必死に息を吸って吐いて、音にならない悲鳴をあげ、もう一度頭を台に打ち付けた。
「いいか、おめぇ。欠陥品が人間様に口答えしちゃいけねぇよ。生かされちぇいる身分なんだからよ」
「うっ、せぇ。さっ、さと、解け」
「口の利き方がなっちゃいねぇ。おめぇも女なんだっちゃら、もっちょおしちょやかにしねぇと」
「た、頼む、よ」
「初めからそうすりゃいいんだよ。別によ、俺も悪魔じゃねぇ。おめぇはいい客だしよ、継填装を交換してやっちぇもいい。つまり、まぁ金次第よ。まぁよ、おめぇも昔ちょ違っちぇ、ずいぶんいい女になっちゃから、別の払い方もあるけどよ」
「変態が……」
「勘違いすんな、おめぇ。俺だっちぇ、おもちゃで遊ぶ趣味はねぇよ。そもそも、おめぇの身体はほとんどうちの商品じゃねぇか。ちゃつもんもちゃちゃねぇよ。ん? 待ちぇよ。おめぇ、そういえば口の方は義体じゃねぇな」
ぐへっと立ち上がってハモンドはベルトをかちゃかちゃと外す。メアリーはぞわっと背筋に悪寒を走らせる。本当に男というやつはどいつもこいつもと、咄嗟に咳払いをしてから、メアリーはむりやりにでもにやっと笑ってみせた。
「はは! 口は、義体じゃないんだぜ」
「あぁ、だからうまくやれよ」
「自慢じゃないが、顎には自信がある。ナッツを割るのは、得意だ。意味わかるか?」
「……」
「わかったら、
「ほんちょ、かわいくねぇのは昔から変わらねぇよ、おめぇは」
ふんと不満そうにハモンドは杖の紫結晶の回転は止めて、奥の方へと歩いていった。同時にメアリーの身体に力が戻り、カハッと勢いよく息を吐いた。
「あんたは昔からくそ野郎だよ」
「そうかい、ありがちょよ」
戻ってきたハモンドは義足を、どんとカウンターに置いた。以前、メアリーが買おうとしたものだ。やっぱりすり替えてたんじゃねぇかとハモンドを睨みつけたが、彼は素知らぬ顔をして、とんとんと台を叩いた。
すさまじく気が進まなかったが、ごねても仕方がないとメアリーは金を払う。
「装着もしちぇやろうか?」
「さっき犯そうとしてた奴に触らせると思う?」
「おめぇもまだガキだな。それちょ仕事は別だ」
「っ! ……いい。自分でやる。いったい何年この身体と付き合っていると思っているの」
そう言って、メアリーは義足を隅から隅まで確認する。また騙されたらたまらない。ハモンドの方はもう興味を失ったように新聞に目を落としていた。
一通り確認してから、メアリーは義足を袋に入れて背負った。これで足の方は大丈夫。次の仕事はなんとかなるだろう。もう帰りたいところだが、もう一つ用事があるとメアリーは嫌々ながら口を開く。
「もう一つ頼みたいんだけど」
「ん? どこだ?」
「心臓」
「どこだっちぇ?」
「心臓だよ。心臓の継填装」
メアリーが告げると、ハモンドは一瞬惚けてからケラケラと笑った。
「ははは! そいちゃ無理だな。心臓なんかそうそう出まわっちゃいない。うちでも扱っちゃいねぇ。仮にあっちゃとしちぇも高値も高値。おめぇには絶対払えねぇよ。終わりだ、終わり。まぁ、長生きしちゃ方じゃねぇか、欠陥品にしちぇは」
「うるせぇな。ないならないでいいんだよ。他をあたるからさ」
「金を用意しな。そうしないちょどこ行っちぇも同じだよ」
「ちっ、どいつもこいつもくそだな」
「嫌なら神に祈れ。それか魔女ちょ取引でもするんだな。他のすべちぇを奪われるかもしんねぇが」
「あほらし。こっちにはおとぎ話してる暇はねぇんだよ」
メアリーは、吐き捨ててハモンドに背を向けた。
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