第12話 エマ失踪③
すぐにその魔蝶の群がる場所に駆け寄って、一番でかい魔蝶を引っ掴み、羽を引きちぎり、体を半分に折った。
グチャ
そこにはパンパンに腫れたエマの顔が出てきた。
魔蝶は、捕獲能力だけが脅威であって戦闘能力はほぼないに等しいので、急いでエマに取り付いてる魔蝶を掴んでは殺して捨て去り、掴んでは殺して捨て去りを続けていった。全ての魔蝶を捨て去った後に横たわっていたのは、風船のように膨らんでいるエマだった。
エマはその中でも、笑いながら、ハミングをしていた。
これは、危険だ。おそらくこれが、催眠効果なのかもしれない。催眠をされて捕食されながら、そして、麻痺をさせられて、痛みを感じず、動けなくなっているんだろう。体があちこちデコボコ膨らんでいるのは、植え付けられている卵だ。動いてるやつもあるから既に孵化をして、体内の肉体を食いちぎっているに違いない。
うおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!
私は急いで、エマを抱きしめて、闘気をエマの中に放出した。
ピギャーーーーー!!!!
エマの体の幼虫が藻掻き苦しみ、動きを完璧に静止させた。おそらく死に絶えていったのだろう。闘気でエマの体内の圧力を強くして、卵や寄生虫を全て潰した。
摘出しないとな。
エマは先ほどの私からの攻撃で失神していた。かなりの圧だったので、体への負担は相当なものだっただろう。これから更に負担を与えるが、エマは耐えられるのか。。。しかし、エマの体力に賭けるしかない。
腕や足、お腹や、額、頬などを一つ一つ切り裂き、体内で死に絶えている卵と寄生虫を取り出しては、すぐに闘気をエマの体の中に注入させ、傷を塞いでいった。
数十分が経ち、たぶん大体終わったと思う。
全ての寄生虫は取り除けた。あとはエマの体力を回復させないと、死んでしまう。血が流しすぎて、内臓辺りがかなり痛んでいる。瀕死のエマの体に闘気を循環させ、体に蓄積されているダメージを回復させ始めた。
もう後30分ぐらいすれば、なんとかなるだろう。良かった。もう後1分でも遅れていたら、エマは死んでいただろうな。
エマも魔蝶のことは、狩人の大人たちから聞いているはずだ。近づかなければ、大した脅威ではなかったはずだが、この暗闇の中だ。鱗粉も見えなかっただろうし、魔蝶も黒色をしていたから、気付かなかったのかもな。
催眠をする魔蝶と、麻痺をする魔蝶に襲われたか。催眠で、何処か楽しい場所にいるように思わせて、そして麻痺の魔蝶が、動きを封じる。嵌れば凶悪なコンビネーションだな。
そう思いながら、エマの回復のために、自分のほとんどの闘気を費やす勢いだった。
とにかく闘気を使い切ったとしても、エマさえ救えれば、それでいい。
「エマ死ぬな・・・」
そう願いながら、私は全力で闘気を注入し続けていると、遠くの方で、ズゥーン、ズゥーンと何かが大きな足音を響かせ移動しているのが聞こえる。
まさかな。この近くにまではいないだろう。
あの足音には聞き覚えがある。あの巨大ゴブリンだ。あの森からは全くの反対方向にこのロック砂漠は位置する。ここにいるはずがない。今出会えば、かなり致命的だ。とにかく気付かれず、通り過ぎていくのを祈るしかない。
そう思っていると、一陣の強風が辺りを通り過ぎた。エマをその強風から守るようにエマに覆い被さっていると、近くのサラマンダー石が火を吹いた。
ボォォォォ
優しい火だった。闇世の中で周囲を照らす、心温まるような明かりが、私たちを照らした。
ゴブリンの足音が止まり、ズゥーン、ズゥーン、ズゥーンとの音がこちらに近づいてる様に聞こえる。
不味いな。先ほどの炎で、気付きれたようだ。本当に運が悪い。
自分のステータスを思い出す。
ネロ
レベル 30
力 250
素早さ 250
魔力 0
闘気 250 / 5000
確かあいつのステータスはこんな感じだったな。
巨大ゴブリン
レベル 40
力 300
素早さ 300
魔力 300
闘気 1/1
厳しいな。こちらは、今はエマを治療中だから、攻撃に回せる闘気がほとんどない。このまま攻撃されるとジリ貧だ。まずい!!
どう対応するかを考えていると、やつはすぐにこちらにやってきた。様子でも伺うようにこちらを凝視した。私は目を合わせ、敵対心がない事をアピールしようかと思い、奴の目を見たが・・・。
正直理性のカケラもない。ただただ殺戮欲求しかない目だな。ステータスの鑑定もして、まさに今、この周辺地域で一番会いたくない魔獣であることが確認できた。巨大ゴブリンだ。
その巨体を利用しての乱雑に振り回す腕や足が、私を乱打した。まるで竜巻だ。右から殴られたと思ったら、すぐに左から拳が飛んでくる。と思ったら、上から振り下ろされ、私の体の中心を地面ギリギリを地面と平行に放たれた拳打が飛んでくる。足の裏で何度もガンガンと踏み付けてくることもあった。1秒間で5、6発は打撃が飛んできているような猛烈な攻撃だ。
私は右腕全体に闘気を重厚に纏わせ、同時に左手でエマを抱えて治療を続行する。その右腕で、暴風雨のような攻撃の嵐を全ていなしていった。右から来る拳打には、私の当たる部分を見極め、上に拳の勢いを逃すか、左に逸らすかを一瞬の見極めで判断した。時には、足の裏で踏み潰そうとしてくるので、それには、右腕で止めざるを得なかった。ガンガンと私の命が削られていくのを感じる。エマの治療まで後15分ぐらいはかかるだろう。これほど、長い1分を感じたことは今まで無い。
痺れを切らして、私を掴もうと、腕を伸ばしてきたが、それにはバックステップを踏み、避けた。逃げられた瞬間にゴブリンは、攻撃方法を変えて、拳を硬くして、上から何度も私を叩き潰そうと乱打してきた。避けられる拳打あった。地面と拳が衝突した時は、小さな地震かと思うようなほどの衝撃だった。
ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!!
避けられる振り下ろしは全て避けたが、当たりそうなものは、いなしたり、闘気で防御したりした。振り降ろしが終わると次は、蹴りも織り交ぜた攻撃が始まった。蹴り上げようと、片方の足が上がり、もう片方の足が軸足になった瞬間を狙って、軸足にエマを抱きながら、タックルで攻撃した。
ガキン!!!!
全くビクともしなった。こいつ、魔力で身体能力を上げている!!確かにそうでなければ、この攻撃の猛烈さは説明がつかないが、攻撃されることも想定して、体全体に魔力を行き渡らせ続けているとか、どんなに戦い慣れしているんだ、このゴブリンは!?
と心の中で悲鳴を上げながら、何とか逃げようと距離を取ろうとするが、一瞬の隙を付かれ、ゴブリンの掌が横からこちらに迫ってくるのが視覚の端から見えた。
まずい!!
そう思う前に、エマを抱きかかえる左腕を離して、エマを地面に落とす。次の瞬間、私はゴブリンの手の中にいた。遠くに投げられるとまずい、と思ったが、両手で私を掴み、握り潰す気でいるようだ。ゴブリンの手の中に、私の頭からつま先までスッポリと入り込んでいる。
ぐぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ
ゴブリンは喜悦の声を上げながら、思い切り私を締めあげていった。
「ガハッ!!!グググググッ!!!!」
強烈な圧が、頭から足先までを圧迫し、骨という骨に軋む音が聞こえる。
「ま・・・負ける・・・もんかーーーーーーーーー!!!!!!」
なけなしの全ての闘気を解放して、腕と足に集中させ、両手をこじ開けた。
ぐぎっ!!
まさか、こんな小さな人間が、巨大ゴブリンの腕力に抗しえる力で、手をこじ開けるとは思ってもいなかったのだろう。私は腕と足に集中させた闘気を炸裂させた。
バン!!!!!
強烈な衝撃波が、ゴブリンの手を襲い、両手が大きく開いた。後は、私は自由落下に身を任せ、エマの元に何とか戻っていくのだが・・・
はっきり言って、このままこの攻防を続けたら、まずい。もうほとんど闘気も残っていない。さっきの両手をこじ開けるのにほとんどの闘気を使い切った。後30~40ぐらいしか残っていないだろう。これをエマに全て注ぎ込まないと、エマが危ない。
どうする?
どうする?
どうする?
まずい!
まずい!
まずい!!
何か手は無いのか?!サラマンダー石は?いや、こちらのタックルでさえ毛筋のダメージもなかったんだ。あれぐらいの火でどうにかなる問題ではない。仮に少しダメージがあったぐらいで、事態が少しでも変わるものでもない。何か!何かないのか!!??
超高速で頭を回転させて、事態の打開に思考を巡らした。とにかくエマの治療はしながらだ。
あ!!!!
その時、一つの名案が脳裏に浮かんだ!
あった!!一発逆転の方法が!
そう決まれば、やるしかない。たしかあそこに・・・
私はありったけの気力を振り絞って、走り出した。巨大ゴブリンは、またこちらが防戦一方になるものと思ったのか、両手から落ちて地面に着地した私に、両手を握り全身全霊の力で振り降ろしてきた。
ドォォォォォォォン!!!!!!
なんていう衝撃音と爆裂音だ。あんなのを、今の私が防御もいなすことも無理だろう。けども、渾身の一撃のおかげで、周囲に砂埃が立ち、私たちの姿をあいつは視認できないでいるはず!この時にできるだけ走るんだ!!!!!動け、足!!!!!!
そう自分に言い聞かせながら、上流へエマを抱えながら全力疾走していった。
ボン!!!ボン!!!ボン!!!
と足元でサラマンダー石を踏んだのか、火が出る音が出る。
その音を察知し、こちらに向けて、ゴブリンが走ってくる。
もう後少し・・・もうちょっと・・・ゴブリンがもう後ろから近づいてくる。
もうちょっと・・・もうちょっと・・・・・・・・・ここだ!!!!!!!
思い切りジャンプをした。着地なんて考えている場合じゃない。エマを抱きしめながら、ゴロゴロと地面に転がった。
ゴブリンは転がっている私たちを見て、観念したと思い、上体を屈め、手をゆっくりと伸ばしてきた。ゆっくり近付いてくる。その時!
ガキン!!!!!
魔蛇マジックスネイクがゴブリンの頭を含む上半身に嚙みついた!
「ぐぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!!」
ゴブリンは一体、何が起こったのか、分からず混乱していた。
その魔蛇の噛みつくスピードは生物界一だ。そして、噛力は金剛石も粉砕する圧力だ。逃れられるか!!
必死で抵抗するゴブリンだが、一切魔蛇の顎はピクリとも動かない。むしろどんどん頭を噛み砕いていく。ゴブリンは魔蛇を持ち上げて、地面に叩きつけよう、最後の抵抗を試みたが、持ち上げた時に、魔蛇の牙が一線を越え、致命傷に至ったのか、ゴブリンはその場で静かに地面に沈んでいった。後は、魔蛇がゆっくりとゴブリンを咀嚼していくことだろう。
はぁ!はぁ!はぁ!はぁ!はぁ!はぁ!
心臓が痛い。
肺が痛い。
足が痛い。
腕が痛い。
頭が痛い。
全身のありとあらゆるところに激痛が走る。
しかし、ここでゆっくりしている場合じゃない・・・
自分の治療は差し置いて、エマの治療を続けながら、エマを背中に担いで、一路、村に向かって歩いていった。
数分後、エマの治療も終わり、私の背中で安らかに寝息を立てて寝ている。私も闘気はあと1しか残っていないが、今まで培った体力で、何とか歩き続けることはできた。一歩一歩に集中して、ただ右足の次は左足。左足の次は、右足と、それだけに集中していた。
途中で魔狼マジックウルフに出遭った。エマを地面において、臨戦態勢になって、あらん限りの殺気を乗せた睨みを利かせ、怒声を放ったら、後方へ後ずさりして、どこかに行ってしまった。もうこのレベル差だ。生物の格の差、と言ってもいいと思う。私の威圧だけで魔狼を退却させることができたので、本当に助かった。
今、襲われたら、勝敗は五分だったな。正直な話。
もう夜が明けそうだ。東の空が白み始めていた。心身共にもう限界に達する。村のある森に入った。村はここからは見えないが、ここを通れば、村の中だ。
気付けば、結界内の村の入り口にいた。そっと、エマを入り口に下ろして、私は静かに救護室の部屋の隅に隠れるようにして、潜り込んだ。基本、救護室には緊急以外では誰も入ってはならないとの暗黙ルールがある。後は、誰かがエマを見つけて、何とかするだろう。エマの服はボロボロにはなっているが、怪我は治っているから、見た目ほどにはダメージはないから大丈夫だ。
あぁ・・・眠い。今日はもう、寝かせてくれ・・・
と心の中で呟きながら、エマを救えた安堵で、一瞬で意識を手放した。
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