第7話 森での訓練
それから10日ほど経過した。
私は毎日、太陽が上がる前に長距離を走り、体をいじめ抜いた。野良仕事は、太陽が上がってから、太陽が沈むまで行っている。私のように魔力ゼロや魔力少ない子供たちや、まだ幼い子供たちは、村の中にある畑を耕し、農作業に携わり、村の維持に対する役割を果たしている。
私は農作業中は、闘気をずっと放出しながら、闘気量の増加を図っていた。寝る前には、また体の全ての闘気を放出し、気絶して寝入っている。
太陽が沈むと、村の中の松明に火が灯り、村人たちは思い思いに余暇を過ごしていた。明日の準備をする者。愛する者と時間を過ごす者。仲間と一緒に騒いでいる者。みな、明日死ぬかもしれない、この世界で、その瞬間瞬間を完全燃焼して、後悔のない時間を生きているようだ。みな、それぞれが美しく、尊い。
ケンスやエマは、大人たちの狩りに連れられていた。彼らのように魔力量が断トツにある子供や、身体能力の高い子供など、見込みのある子供達何十名が選べばれ、大人たちと一緒に狩りの訓練として村の外に出て、狩人として指導をされるのだ。この世界での狩人は魔法を十全に使い、魔獣の狩りをするのだ。太陽が登る頃に村を出発し、沈む前に帰ってきて、その日の振り返りの為に夕食までは徹底して討議がなされている。彼らが、今後、この村の防衛や獲物の捕獲を担い、村にとって無くてはならない存在へと成長していくのだ。
私は、その頼もしい様子を温かい眼差しで見つめ、自分は自分の訓練に没頭していった。
現在の私のステータスは以下の様にある。
ネロ
レベル 15
力 75
素早さ 75
魔力 0
闘気 150/150
当たり前だが、前世の動きに全く届かない。1億分の1ぐらいを再現できる程度だろうか。
朝は長距離を走ることに重きを置き、とにかく走る。戦場では、走り切れる人間が生き残る。歩みを止めた人間から死んでいくことを、何度も目の当たりにしてきた。とにかく戦場にこれから参加することもあるだろうから、とにかく体力をつけたい。
午前・午後は、農作業をしながら、闘気増量に励む。
夕方からは、前世の戦闘術をネロの体に馴染ませる訓練をした。今はまだ、村人たちに自分の行動で注目を引きたくないので、村人の目を盗んで、実はこっそり森の中に入って、そこで訓練をしている。
魔獣とただの獣の違いは、魔力を持つ獣が魔獣であり、魔力を持たない獣がただの獣、との違いだ。なので、戦闘能力的には魔獣の方が格段に高い。今の世の中において、ほとんどの獣は駆逐されていると思っていいじゃないかな。この森は魔獣で溢れかえっている。この魔獣を殺すには、なかなかの戦闘経験と戦闘能力が必要であることを、実際戦闘になった後に実感する。今の村の子供たちには荷が重いだろう。
魔狼マジックウルフの動きは、超高速だ。ほとんど肉眼で彼らの動きを追うことは不可能だ。おそらく、私が転生後に魔狼を殺すことができたのは、運だけだった。一歩間違っていれば、絶対に殺されていただろう。この魔獣を討伐するのは、私でも本気で闘気で視覚を強化しないと彼らの動きは見えない。逆を言えば、全力を尽せば、魔狼マジックウルフは、視認できるレベルまでに、私も闘気量も体の鍛錬も仕上がっている。
この森には、基本魔狼が多いが他に魔狐マジックフォックス、魔鷲マジックホーク、魔蝶マジックバタフライ、などもいる。
魔狐マジックフォックスは、狡猾に獲物の死角を狙って攻撃してくる。森の中はなかなか気を許せない。この魔狐マジックフォックスがいる為に、私は闘気を、私を中心に円形で5メートルぐらいに常に張りながら、周囲の索敵をしながら、訓練をしなければならない。これはこれでいい訓練になっている。
魔鷲マジックホークは、上空からかなりのスピードで突然襲ってくる。普通の鷲であれば、小動物を狙うんだろうが、魔力が体を強化する魔鷲マジックホークなら、私のような子供も小動物と判断しているだろう。一度は、魔鷲マジックホークに腕を掴まれ、上空100メートルほどまで持ち上げられたことがあった。ほぼ2~3秒ぐらいで上空100メートルぐらいの位置まで到達した時は、かなりの恐怖だった。この戦法は正直効果的だ。これで普通の動物だったら、超高速で接近され、気付いた時には上空100~200メートルぐらいにおり、逃げようと試みる頃は、落下。地面に直撃し即死だろう。しかし、残念ながら私はそれでは死なない。着地の時に闘気を足部分に纏わせることで、ダメージを吸収できる。おそらく、あと100メートルほど上空に飛ばされても、ノーダメージになるだろう。それ以降はある程度のダメージを負うだろうが。
この戦法の残念な所は、獲物を掴む為、クチバシや爪で攻撃・防御ができなくなることだ。普通の小動物なら爪に掴まれている間は、魔鷲マジックホークの掴む力があまりに強力なので、行動を大幅に拘束できる。その間に、超高速で上空へと飛び立ち、はるか上空から獲物を地上に落とす。いい戦法だ。しかし、この戦法の攻略法は、単純。まずは、魔
鷲マジックホークに腕を掴ませる。上空に飛ぶ。そして飛んでいる間に、魔鷲マジックホークの体部分を攻撃して落とす。羽を掴んで、千切り破ってもいい。上空に上げられている時は、魔鷲マジックホークの体は無防備ということだ。攻撃のタイミングは、魔鷹マジックホークから攻撃され、上空で解き放たれるまでの2~3秒間だ。私の索敵方法と防御方法がある為、魔鷹マジックホークは脅威にはならない。
魔蝶マジックバタフライは、正直対処法は全く分からない。魔蝶は、体調50センチぐらいで、鱗粉を飛ばし、獲物を眠らせる。種によっては麻痺させたり、精神混乱をさせたりする。それぞれの捕獲作業をしている最中に、獲物の体内に卵を植え付け、卵からふ化した幼虫は、寄生虫として宿主の内臓を喰らい、成虫に成長していく。最終は体内から食い破って外に出てくるらしい。凶悪な種は催眠作用で獲物をコントロールして食用に保管することもするらしい。私は、魔蝶を索敵で認識し、接近している所を一撃で撃退したが、もし魔蝶が、鱗粉を事前に振り撒いている場所に、私が誘導させられたら正直、対応のしようがない。そんなことができる知能があるのかどうか、そんな戦法を取ってくるのかどうか。今度、村人の大人の誰かに、村としてはどう対応しているのか、聞いてみようかな。
今日も、10匹の魔狼と5匹の魔鷹を討伐した。闘気の残量もだんだん少なってきたので、そろそろ村に帰ろうかと思った時だった。
ズ―ン ズ―ン ズ―ン
何か大きな個体が移動している。音の方向と大きさから、ここからだいたい50メートルぐらいの距離か。こちらの方には向かってきていないので、私の存在は分かっていないのだろう。君子危うきに近寄らずだ。早々に退去しよう。
と思い、チラリとその大きな音が鳴っている方が警戒しながら、見たところ。木と木の間にちょうどのその個体の姿が見えた。
ゴブリン?
全長5メートルもあろうかという大きなゴブリンのような形の生物が歩いていた。
ありえない。。。前世の私の大陸でもゴブリンはいたが、あんな個体は見たことがない。
そう思って、早くここから脱出しないとと焦ったのか、足元にあった枝を踏みつけてしまった。
パキッ
巨大ゴブリンがこちらに振り向いた。いやいやいや、そんな大きな音ではなかったでしょ。
私と巨大ゴブリンの目線が確実に合った。私は笑みを浮かべて全力で森の外へ疾走していった。
後ろからは、私より速いスピードで確実に近づいてくる。
ドーン!ドーン!ドーン!ドーン!ドーン!ドーン!ドーン!ドーン!
なるほど。獲物として判断したわけね。了解。
私は臨戦態勢に入った。どんな状況に対応できるように全身に闘気を張り巡らせる。
パッと振り向き、巨大ゴブリンを見た。
ドン!!!!!!!!
私は後方に吹っ飛んでいた。飛んでいく中でうっすらと見えたのは、巨大ゴブリンが木より太い腕を上に振り切っていった。どうやら、殴られたようだ。闘気で守っていなかったら、体に穴が空いていたんじゃないだろうか、凄まじい衝撃だ。
私の体は、木の葉や枝の中を突っ込んでいった。素早く木から木へ移動して、まずは自分の体を相手の視界から出る。うまく周囲を使って隠れた。
相手は跳躍し、森の木々を飛び越えて、腕を振り回し、私を探しているようだ。お前に見つかるような隠伏いんぷくはしないさ。
完璧に気配を消して、まずはこのゴブリンの鑑定をする。
巨大ゴブリン
レベル 40
力 300
素早さ 300
魔力 300
闘気 1/1
まぁ、今の私に敵う相手ではないな。途轍もない程、強い。この森の主のような存在だろうな。相対しないようにこっそりと逃げるしかないな。
巨大ゴブリンは、見当違いの部分を攻撃し、暴れ回っていた。私は体の痛みに顔を歪めながら、逃げるようにその場から去っていった。
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