第10話 エマ失踪①

エマがいなくなった。


そんな話を、ある晩に村の友達から聞かされた。


「また、どこかで道草でも食ってんじゃないの?」


「いや、そうじゃないんだ。昨晩からいなくて、今、大人たちも総出で村の中や外を探し回っているんだ。」


「え!!??」


私は驚いた。エマは、乱暴だが、未熟だが、向こう見ずだが、軽率だが。。。


と反論を考えようとしていたら、やっぱりエマがどこかに行ってしまうのも無理はないかと思う羽目になったが、気を取り直して、もう一度考える。


エマは、それでも人に迷惑をかけるような子ではないのはたしかだ。自分が一人いなくなって、周囲がどう思うかに、思いがいかない子ではない。エマはそういう子だと分かっているから、今、村の大人総出で探しているんだろう。一体、どこへ??


見当もつかない。エマの好きな所。全部村の中だ。誘拐に遭った。しかし、誰が?彼女もそんなに弱い人間ではないから、魔法を打ちまくれば、周りが気付く。いなくなったのは、昨晩。


「ねえ、昨晩のいつからエマはいないの?」


「なんか夕飯時にはいたらしいよ。その後から誰も見ていないし、今日の朝の狩りの集合場所に時間になっても来なかったらしいし。」


「そっか。ありがと。僕も心当たりのある場所を見てみるよ。」


「いや、ネロが動いてもあんまり意味がないと思うけどな・・・。」


と飽きられながら、私は村の中をウロウロすることにした。


どこにいる?村から出た?出たならどこへ?まずいぞ、村の中にはいないとなったら、外しかない。外に行ったなら、外は死の世界だ。この村のように安全じゃない。それは私が一番よく分かっている。


そう思いながら焦燥感が焚き付けられ、変な汗が出始めてきた。私も外に行って探しに行きたい。けども、大人は絶対に許可しないだろう。どこかで怪我をしてうずくまっているんじゃないのか???最悪のケースは・・・


そう思いながら、視界の端にマーカスの姿が横切った。あぁ、子どもたちも動揺しているのか。そうだよな、仲間が一人いなくなった。しかもエマ。動揺しない、子どもたちはいない。本当に早く見つかってほしい。一日でも外で過ごしたりするなら、死んでしまう。


ん??


何か違和感を感じた。確かに周囲は騒然としているが、マーカスの姿がやけに気になった。何故ならマーカスは、焦っているというよりは怯えている、ように見えたからだ。もちろん、焦りの感情と怯えの感情は、表面的には同じように見えるかもしれないが、内情は違う。焦りは、早くしないと、と急いでいるが、怯えているのは、何かを隠しているような、そんな感情だ。何だ・・・?


私はマーカスの後ろをそっと付いていった。決して見つからないように、闘気で自分自身の気配を完璧に消した。足音も呼吸の音も、衣擦れの音も、何の音もしないように、存在を消して後を追った。


マーカスは急いでいた。早く、ケンスとカートと合流しないと、と周囲を警戒して見渡しながら、落ち着け、と自分に言い聞かせながら、早歩きで、村の中を横切っていった。


ケンスとカートが男子用宿舎の裏に身を潜ましていた。マーカスは二人と合流し何かを話している。


私は耳に闘気を集中させ、聴力を増し、20メートルぐらい先の所から彼らの会話を聞いた。


マーカス「ケンスさん、ヤバくないっすか?エマがまだ帰っていないらしいですよ?」

ケンス「まだ帰らないのか?何をしてんだか・・・」

カート「やっぱり、まだ探してんですかね?ネロを。」

ケンス「そうかもしれん。それでネロがなかなか見つからないんで、そこで野営をしているのか、それとも魔獣に襲われたのか・・・」

マーカス「村の大人に言いましょうよ。もしエマが死んでしまったりしたら、俺、悲しいっすよ。」

ケンス「バカ野郎!そうすれば、俺たちが村人皆から袋叩きに遭うぞ!誰も何も知らないんだから、グダグダ言うな。マーカス。村の奴らは、何か俺たちの事を言っていたか?」

マーカス「いや、みんな、最後にエマと話をしたのが俺たちというのは全然気付いていないっす。大丈夫っす。俺は、ケンスさんの言う通りするっす。」


私は怒りに打ちひしがれながら、20メートルの距離一瞬で移動し、3人の所へ赴いた。


「おい。お前たち。」


思ったよりも低い声が出てしまった。


ビクッとした3人は、恐る恐るこちらを振り向いた。ネロと分かるとみるみる表情が和らぎ、安心し切った顔になり、その後、怒りの感情が表情を塗りたくった。


「おい!!!!!お前、なんて俺たちのことを呼んだんだ??!!お前たち、と言ったのか?お前、本当にわかっていないな!お前たちじゃなくて、ケンス様、マーカス様、カート様だろ!!間違えるな!」


「お前のせいでこうなっているのが分かっているのか?村はめちゃくちゃだぞ、たく・・・。もういいから、ネロ、今回は許してやるから、家に帰って寝ろ。ネロだけにな!!はははははは!!」


と3人は高笑いをしていた。


私は即座にマーカスの腹部に強烈なボディブローを放ち、その後すぐに跳び上がり、カートの頭を掴み、地面に叩きつけた。


強烈なボディブローを喰らったマーカスは、悶絶して地面に沈んだ。


頭を地面に叩きつけられたカートは、頭部へのあまりに突然の強烈な衝撃に気絶していた。


「おい、ケンス。お前は横柄な奴だとは思っているが、それは若気の至り。許す。しかし、お前がさっきから、エマの失踪の件に深く関わっている、と言っていた発言が気に喰わない。俺がどこかに行ったと言って、エマは外へ探しに行ったのか?!」


私は、怒りに身を任せて、ケンスに迫った。


ケンスは、普段は温厚な私が、激怒の表情をしているのと一瞬で2人を無力化した好戦的な態度に、身じろいだ。


「おい、どうなんだ?!ケンス、お前、エマに俺がどこに行ったって言ったんだ??!!」


「し、知らねぇよ!!何を言ってんだ?!俺は関係ねえぞ!お前、突然、俺たちに手を出しやがったな!大人に言ってやるよ。お前の暴力をな!ざまーみろ!」


「お前は、相当、俺をイラつかせたいらしいな。村の大人がなんて言おうが、俺には関係ないんだよ。エマのことだけを話せ!お前はなんて言ったんだ!!!」


と、私は、ケンスの腹に中段蹴りを食らわした。あまりのスピードと普段は見せていない身のこなしで、まともに蹴りがケンスの腹に突き刺さった。


「ゴフ!!!」


後方に倒れ、ケンスは咳き込みながら、こちらを睨んできた。


「お前、卑怯だぞ!いきなり蹴とばしやがって!!ゴホゴホゴホ」


即座にケンスの隣に立ち、ケンスの髪の毛を思い切り掴み、上に引っ張り上げた。


「いつつつつ!!!!!」


「俺の話を聞いていないのか?エマに何て言ったか、って聞いてんだよ?!」


と、俺は髪の毛を持ったまま、ケンスの後頭部を地面にぶつけるように思い切り後ろに引っ張った。


ガン!!!!


「ぐは!!!いって―・・・」


後頭部を押さえ、地面を見悶えながら、ケンスは挑発するように言ってきた。


「ぐ・・・へ!!い、今さら行っても意味ねーよ。エマは、今頃、ロック砂漠に行ってるぜ。あそこでお前を探してんだよ。おぇ!!」


俺は、ケンスの腹を上から踵落としをして、言葉を継いだ。


「なぜロック砂漠に行ってんだ?」


「え。。。エマに、ネロがロック砂漠に行って、サラマンダー石を取ってこい、って言って、お。。。お前が取りに行った、って言ったんだ。。。そうすれば、もうこれ以上、ちょっかいださないから。。。って言ってな。」


「本当にお前、くだらないことをするな。それで、エマはお前の言葉を信じて、ロック砂漠に行ったのか?サラマンダー石だ?かなり奥にあるやつじゃないか。。。たく。。。エマ、お前は本当に世話の焼ける奴だ・・・。


ケンス、お前は、このことを村の大人たちにすぐに言え。わかったな?」


「お。。。お前はどうするんだ。。。?」


「お前の知ったことではない。さぁ、急げ!!!」


と、言って、私はケンスを蹴り上げて、立たせた。


「いつつつつ。。。お、お前、さっきから殴る蹴るの暴行をしてきやがって。こ、こっちが気を抜いてる時にだまし討ちをしたな!!ぐ。。。今は、勘弁してやるよ。次に会った時は容赦しないからな。」


「ああ、容赦しなくていい。今、俺がお前たちを殺さないのは、まだエマが見つかっていないからだ。もしエマが死んだとなったら、お前、わかってんだろうな?」


と私はケンスを睨みつけた。ケンスは、怯えた顔をして、マーカスとカートを叩き起こしたが、起きなかったので、担いで、村の中央の方に走っていた。


それを見届け、私は闇の中へと消えていった。

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