第11話 エマ失踪②
私は、ロック砂漠を目指して、全速力で疾走した。
もし村の誰かが私の突貫に気付いたら、村の人々は全力で私の捜索を止めるだろうが、私は誰にもバレないように、こっそりと逃げるように闇に紛れてこの村を出た。
この村の周囲は、小さな森に囲まれており、外からも見えにくい構造になっている。この村の創設と発展に関わった人たちの不断の努力に感服する。もし、私がここに村があると認識していなければ、村に再び入ることはできないだろう。オババを中心に計画・運用・発展をしているのだろう。つくづく素晴らしい環境だな、と心の内で呟いた。
その木々を抜けると広大な草原が、自分の見える範囲全てに広がっている。ネロの記憶では、西の方に進めばロック砂漠が位置していると思い出し、闇夜の中をただ一人疾走していった。
ロック砂漠は、昔は、緑豊かな、広大な森林地帯であったらしい。しかし、何百年も前に、木がほとんど伐採され、行き過ぎた農業活動が行われ、土壌が農作物を生産する能力を失ってしまったらしい。人々の行き過ぎた農業作業に加えて、最悪だったのが、近くのポポ川の上流にあった森林の過度の伐採もあったようで、雨季に上流に降った大雨が一気に河に流れ込み、大洪水が発生。ロック地域辺りの肥沃な土を全て取り去ったようだ。それ以降は、草一本生えない不毛の大地へと変貌してしまった。これが、ロック地域がロック砂漠になった顛末らしい。これも全てオババからの受け売りだ。本当にオババは何でも良く知っている。
サランマダー石は、ロック砂漠の奥にある川岸にある。多くの生命がこのポポ川に棲息している。その棲息している魔獣の中に、全長1メートルほどの魔蜥蜴サラマンダーがいる。そのサラマンダーには不思議な習性があり、なんと石を主食で食べるのだ。その石の中の成分を吸収し、栄養としている。その吸収した後の石の残りカスを排せつするのだが、その排せつ物が、石のよう見え、火の燃料となるので、村ではサラマンダー石と呼ばれ、稀少品として扱われている。簡単に火がつくので、扱いは細心の注意が必要だ。なんと言っても、風に吹かれて他の石か木に当たっただけで、燃えるのだ。サラマンダーは火を吹くわけではないが、火への耐性は抜群にある。その性質が体内で吸収される石に乗るんだろう。
そのサラマンダー石を求めて、今私はロック砂漠を全力で疾走している。途中で、魔蛇マジックスネイクに遭遇した。この魔蛇は、全長2メートルほどあり、とにかく巨大な頭をしている。体の3分の2は頭じゃ無いかな。じっと獲物が自分の間合いに入るのを待ち、攻撃範囲内に入ってきた生き物を、一口で食べてしまうのだ。一瞬の瞬発力は、生物最速だ。私ももし攻撃されたら、避けられないだろう。オババなら避けられるかな。そして、顎の噛力も半端なくある。金剛石も噛み砕くとも呼ばれている。試したくもないが。しかし、初撃を避けてしまえば、ただの雑魚。もう一度攻撃態勢になるまでは、生物界最遅。ノンビリと次の態勢に移る姿は、見ていて滑稽だったりする。
魔蛇を先に見つけてしまえば、戦闘終了だ。今は急いでいるから討伐はしないので、周囲を警戒しながら、迂回してポポ川への道を急いだ。後5分ぐらいで着くだろうか。
しばらくして、川が見えてきた。そこここに、木や草も生えているが、生い茂っているわけではない。ここがポポ川だ。さて、そこら辺を注意深く見ていると、サラマンダー石が何個か見つかった。見つけるのは、簡単だが、ここに来たのは、この稀少品のサラマンダー石を取りに来た事じゃない。エマを探しに来たのだ。
歩いていると火が燃えている箇所が数ヶ所見られる。風に吹かれて、たぶんサラマンダー石が他の石に当たり、燃え出したんだろう。この川岸は、砂漠よりも暑いかもしれない。吹き出る汗を、服で拭きながら、ゆっくりと、サラマンダー石を踏まないように、歩いていく。おそらく、この川岸のどこかに、ネロを探していたエマがいると思うのだが、全く見当たらない。
「エマーーー!!!」
魔獣もいるかもしれないし、こっちの存在に気付かしてしまうかもしれないから、若干危険だが、背に腹は変えられない。エマの安全確保こそが一番大切だ。私のじゃない。
「エマーーーー!!!どこだーーー!?」
大きな石の後ろだったり、川縁だったり、川の中だったり、とにかく周辺を隈無く探した。全くいない。ここじゃなかったのか?今頃、陽気な感じで、村に帰っている可能性もある。もしかしたら、他の大人の村人が見つけている可能性もある。そんな可能性もある事も分かりながら、とにかく、自分の気の済むまで探したい。
下流方向に歩き続けることにした。おそらく、ネロなら上流方向に行くより、下流方向の方向の方が歩きやすいから、こっちに来たとエマなら判断するんじゃないかな、と思って、下流方向に歩いてきている。数分ほど歩くと、そこで何か異様な光景が目に飛び込んできた。
そこには、魔蝶が何かの餌に纏まわりついていたのだ。50センチぐらいとでかい個体もあれば、小さい2〜3センチのものもいるのだろうか、とにかく、この哀れな餌に、びっしりと何百匹という魔蝶が群がっている。こんな砂漠にもいるんだなー、と思ったが、魔蝶はおそらく川縁に誘われたのだろうか、と思った。
その魔蝶を刺激しないように、迂回しようとした時、信じられないものが視界の端に映った。
蝶の間に人の手が見えたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます