第5話 ケンス

目が覚めると、外は太陽が沈みかけていた。私が安静にしているからという事で、誰も起こしにこなかったのだろう。さて、私もそろそろ出ないと、怪我では死なないが、空腹で死んでしまう。




と思い、立ち上がろうとしたが、




イタタタタタ




闘気を出し尽くした為、全身に痛みが走る。この訓練方法も、やる時間帯が問題だったたりする。活動時にこの訓練をするものでは無いな。他の活動に支障をきたしてしまう。さて、闘気の量はどれほど増えただろうか。




闘気 20/20




かなり上がったな。普段からも使っていけば、どんどん増えていく。よく私は近衛騎士団からは、鬼軍曹とよく呼ばれたものだ。因果応報か、それが今度は自分に返ってくるとはな。




カラカラと笑いながら、痛む体を闘気で纏い、体を動かす補助にする。闘気は、自分の体の細胞の活性化にも使える。こうやって継戦能力は格段に上がり、怪我しても疲労しきっても、ハイレベルな戦闘を続けられる、最強の近衛騎士団を率いるサーマリア国は、大陸の雄へと成り上がっていったのだが、まぁ最後は滅亡したが。




グッと拳を強く握り、力強く一歩前に踏み出した。




簡易的な掘立て小屋の救護用の家の外に出ると、子供たちが笑いながら走り回っていた。村の隅を見ると、ご飯を食べている者もおり、夕飯時のいつもの風景だ。炊き出しを行う大人がおり、孤児の子供たちに振舞っていた。この村は、子供たちを村全体で育てようという雰囲気になっている。死が身近にある世界だ。簡単に親は死に、子供は死ぬ。親は子供を亡くした悲しみを、他の子供を育てる事で癒やされていく。親を亡くした子供たちは、生きる術と糧を他の大人たちから得る。そうしないと、この村の存続はあり得ない。いい村だ。ここの村の大人たちはよく言っている。「子供一人育てるのに村一つ必要だ」と。良い言葉。私の故国でも同じような村が多く存在していた。皆、協力して仲良く過ごしていたな。




そう思いながら、自分もご相伴に預かろうと炊き出しの列に並ぼうとすると、横から体の大きい子供と少し体の小さい子供を2人共だって、こちらに歩いてきているのに気がついた。




顔を見て、記憶を探ると、名前を思い出した。




ケンスとその取り巻きだ。名前は。。。




「おい、お前生きていたのかよ?月見草はどうした?!」




取り巻きのそばかす顔の、体の細い青髪の男の子が威圧的に話しかけてきた。




あぁーそうだ。マーカスだ。年は確か10歳だったかな。




「月見草は無理だったよ。途中で気絶しちゃってさ。」




「ははははは。やっぱりしょうもないな、お前は。これからお前は俺たちの舎弟だからな。」




この体の小さい銀髪の男の子は、名前は何だったかな~?あ、思い出した。カートだ。この子も10歳の男の子だ。




「舎弟?」




そして、真ん中の大柄の緑色の髪の毛の男の子が口を開いた。彼の名前はケンスで、この3人組のボス的な立場の人間だ。彼は12歳で、他の子どもたちよりも年齢が高く、体も大きい為、自然と皆から人目置かれる存在になっている。




「そうだ。お前があまりにひ弱な『マーゼ』だから、俺たちがしっかりと守ってやろう、って話だっただろう?忘れたのか?森の月見草が取れたら、お前が一人でしっかりとやっていける証明になるから、行かせたが、やっぱり無理だったな。これから色々と教えてやるからな。」




とニヤニヤしながら、ケンスが自分の言葉に酔っているかのように話をしてきた。




ちなみに『マーゼ』とは、『ま』りょく『ゼ』ロの『ま』と『ゼ』を繋げて作った、『魔力がない人』への蔑称だ。




そこへ、横から女の子が猛烈な勢いで割り込んできた。




「ネロ!!!大丈夫?!良かった!自分一人で森に行くなんて、馬鹿な事しちゃだめよ!!!本当に死んだらどうするの?!!そうでなくても、あなたは。。。まぁ、いいわ。」




息を切らしながら、一気に私への文句というか心配というか安堵というか、私に対する色んな感情を吐露してきた。そして、おまけに、私の頭をバン!と一発叩かれた。




この女の子はエマ。8歳だ。かなり活発的で、お世話好きのお転婆な子だ。目鼻がはっきりとして、非常整った顔をしている。手足がスラっとしており、太陽の光の元、毎日走り回っているため、健康的に焼けている。くすんだ金色の髪の毛を長く伸ばし、頭の後ろに一つに結んでいる。背はそんなに高くはない。笑顔が印象的で、コロコロ笑う愛らしい振る舞いに、この村の多くの男の子たちが彼女のファンになっていたりする。




ちなみに、魔力量はこの村の子供たちの中で一、二を争う実力者だったりする。顔に似合わず、喧嘩っ早いところもあり、すぐに手が出てしまうのが玉に傷だな、とネロは個人的に思っている。ネロの事をよく守ってくれるのだが、保護対象のはずのネロは彼女から頭をよく叩かれる。ネロはそんなに問題とは思っていないようだ。




「ケンス、あなたがネロを煽って月見草を取りに行けなんだなんて、言ったの?信じられない!村の結界の外は危ないって、何度も何度も大人から言われているでしょ!」




「うるさい。俺は、取りに行け、なんて言っていない。取りに行けた村の一員として認めてやる、と言っただけだ。」




「同じようなものよ!ネロは、村では一生懸命やっているんだから、あなたのような大きい男の子から言われたら、やってしまうでしょ!もう意地悪しないで!」




「お前はいつもネロの事になると、うるさいな。お前、ネロの事が好きなのか?じゃあ、しょうがないな。お前ら二人で楽しくやってろよ。」




「まぁ、あなたよりもネロの方が100倍マシかな。弱い者いじめしているヒトなんて、私は大嫌いよ!」




「なんだと!!」




ケンスとエマが、猛烈な言葉の応酬をしていた。




横でぼんやり見ている私は、そろそろ介入した方がいいなと思い出した。いくらエマが村の子供の中で一、二を争う魔力量の持ち主だとしても、まだまだ8歳の小さな女の子だ。そして村の子供の中で、同様に一、二を争う魔力量の持ち主が、まさに目の前のこのケンスなのだ。村の子供たちの力のヒエラルキーのトップナンバー1と2が現在、言い争いをしているんだが、いつ手が出るか分からない。まぁ、日常的な光景だったりはするんだが。




なんて、原因の中心にいるネロは、そんなことを他人事のように思い、発言をした。




「ねぇ、喧嘩は良くないよ。とにかく、ケンス、黙ろうか。エマも一歩下がって。」




エマは、言い争いの勢いのまま、私に言い返してきた。


「元はと言えば、あなたが頼りないから!!」




ケンスは、羽虫はむしごときが俺に口答えをするな、ぐらいの勢いで怒鳴ってきた。


「お前、誰の事を呼び捨てにしてんだ!ケンス様だろ!!」




「まぁまぁまぁ。エマはちょっとどいておいて。確かに元はと言えば、僕の問題だから、僕が話すよ。いつも助けてくれてありがとうね。大丈夫大丈夫。このぐらいの小さい子供の扱いは慣れているからさ。」




「は?」




と言って、唖然としているエマを後ろに無理やり下がらせて、エマの立ち位置に私が入れ替わりに立った。




「あぁー、それと、ケンス。君の舎弟にならなくとも、僕は僕のことを世話できそうだから、もう僕の事は関わらないでいいよ。『マーゼ』だったかな。まぁ、本当だから、僕の事を示すいい呼称だと思うよ。名前をそれに変えてもいいかな~。はははは。」




開いた口が塞がらないように、私の言った言葉を咀嚼するのに時間がかかったのか、機能停止していた。それから少しして、顔がどんどん赤くなって、私の顔から1センチぐらいのところまで顔を近づけてきて、怒りで体を震わせながら言ってきた。




「お。。。ま。。。え。。。、誰に物を言ってんだ!!!!!!」




「だから、ケンス。君だよ。ちょっと顔が近い近い。僕はごめんだけど、そっちの気はないから。ごめんね。女の子が好きなんだ。」




と冗談ぽく言って、カラカラ笑いながら、私は一歩後ろに引き下がった。




「おい、ネロ!!お前、生意気なんだよ!俺たちが守ってやっているって言ってやってのに、その手を払うのか?!お前、いつも一人で泣いているんだろ!強がってんじゃねーよ」




と後ろに控えた、細身の青髪のマーカス君が吠えてきた。




「おいおい。お前、約束したよな?月見草が手に入らなかったら、舎弟になるって。約束を守れよ!」




ともう一人の、小さい体の金髪のカートが重ねて言ってきた。




私は、論点を頭で整理しながら、ゆっくりと答えた。




「たしかに。その約束をした。けども、そもそも君たちのグループに入るっていう


のは、僕が自分の事を守れないことが前提としているよね。僕は自分の事は自分でもう守れるようになったから、その約束を守る意味は、もうないんだ。ただの友達だったら、ケンスもマーカスもカートも歓迎だよ。」




「ちょっと待てよ。お前はどうやって自分の事を守っていくんだよ。誰もお前の事を村の一員として認めていないぞ。ヒョロヒョロのマーゼがどうやってこれから生きていくんだ!強がるな!」




と、ケンスがイラついて、反論をしてくる。




「なら、いいよ。試してみる?ケンス、僕にかかってきなよ。一人が怖いなら、三人同時でもいいよ。どうぞ。」




エマは焦って、僕の肩を後ろから掴んで窘たしなめてきた。




「ちょっと!!ネロ。どうしたの?この3人は、村の中でもかなりの実力者よ。強いのよ。あんまり煽るものじゃないわ!」




まぁ、あなたも十分煽っていたと思うけど、と心の中で私は思いながら、




「まぁまぁ、この手の輩は、実力を見せつけるのが一番なんだよ。今回の村の外での経験で僕も成長したようなんだ。ちょっと後ろで見ておいてよ。じゃあ、僕が危なくなったら、手助けしてね。」




「やっぱり、女の手を借りるつもりなんだな!!女々しい奴だぜ!」




「まぁまぁまぁ、もういいから。もうかかってきていいんだよ。それでもかかってこずに、まだ言葉でやり合いたいなら、それはそれで応じるつもりではあるけど。」




「相当死にたいらしいな。今日から1週間は、飯も食えなくなろうだろうな。恨むんなら、挑発した、今日の自分の迂闊な言葉を恨むんだな。おい、マーカス、カート、お前たちは下がってろ。」




と、言って、思い切り右腕を振り上げて、私に襲い掛かってきた。




私は先ほどから冷静にケンスのレベルを解析していた。




ケンス


レベル 12


力   20


素早さ 20


魔力  50


闘気  1/1




闘気量が1なのは、まだ使ったことがないからだ。基本、使ったことのない人たちは闘気量は1になっている。この世界でも同じなんだな。




たしかに、大した身体能力だ。この村のナンバー1,2に連なるというのも伊達じゃないな。




ブン!!!




けども、予備動作が大き過ぎるので、どこを狙うのか、いつ当たるのか、何で攻撃するのかが、分かり過ぎるぐらい分かり過ぎてしまう。目をつぶっていても避けられるな。




半歩横にズレて、半身になってケンスの袈裟切り気味の右手の拳打を避けた。




「な!!??」


「え!!??」


「は!!??」




それぞれがそれぞれの反応があった。




「は!!まぐれで威張ってんじゃねぇよ!」




ケンスからそれから猛攻撃を私に放ってきた。




右足の足払いからの左手のボディフック。体を回転させて、右足の回し蹴り。それから右手の顔面へのストレート。右ストレートでケンスの体がこちらに流れてきていたんで、距離が詰まったのを利用して、左膝蹴り。そして、私の首裏の服を掴んで、ケンス側の方に、引き倒して、地面に叩きつけ、地面に倒れた私の頭の後ろを、思い切り踵落としをしてきた。




私は全てを紙一重で避けた。地面には倒されたが、両手でうまく衝撃を受け流して、横にゴロゴロと転がって、踵落としを避けた。




「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」




「どうかな?もういいかな?」




私はケンスに腕試しの終結を提案した。




「調子に乗ってんじゃねーぞ!!!!!」




ケンスは、魔力を爆発させた。魔力がケンスの右手に集中させた。




「後悔するなよ!」




ケンスの右手に集まった魔力が、炎に変化した。




「ダメ――――――!!!!!!!!」




エマは、ケンスが魔力を爆発させた段階で、次のケンスの動きを読んでいた。すぐに、エマは、両手に魔力を集めて、水に変化させた。




ケンスの右手から出現した炎の渦が私に襲い掛かった。エマは、咄嗟に私の前に立ちふさがり、両手から大量の水を出現させ、壁を作った。




強烈な音と共に、炎と水が爆発した。




周囲には、炎と水が接触した時に発生した水蒸気が漂っていた。


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