魔力ゼロと軽んじられた少年が、魔法世界を無双する件

カフェラテ

第1話 サーマリア国滅亡

サーマリア国と魔族との間で戦争が勃発して約30年。サーマリアは滅亡の危機に瀕していた。魔族軍の勢いはあまりに苛烈で、近隣諸国もドミノのように打倒されていき、三方面より攻勢をかけられている。サーマリアは北部を海に面しており、他大陸の国々との海上交易で、大陸の雄として発展していた。他大陸では、まだ人の国は存在するが、この大陸ではサーマリアのみが人族が治める国であり、残存する最後の抵抗勢力になってしまった。援軍は来ない。援軍の可能性も無い。ただ滅亡のカウントダウンをするばかりの、絶望的状況であった。




しかし、今も魔族がサーマリアをまだ陥落できていないのには訳がある。私が世界随一の闘気の熟練者であり、私と、私が訓練した闘気のマスター級の多数の近衛騎士たちで守る、防御壁を魔族どもが貫けないでいるためだ。私と私の近衛騎士が、最後の砦なのだ。ある装置の開発が間に合い、膨大な闘気をその装置に流すことで、強力な防御壁を広範囲で展開することができる。その鉄壁の防御を展開する中で、王都民を逃す算段を現在しているところだ。




「伝令!!!王都南門へ、7割の王都民の結集が終わりました。いつでも退避できる状況です!」




「よし、全ての攻勢部隊を南門より出動させ、退路確保に専念しろ!我が王都民を何としても守るのだ!」




サーマリアの全ての部隊が7割の王都民の護衛し、血路を開く。後の3割の民は、私と近衛騎士団が護衛する。何があっても、我が王都民を守り抜く!




我が部隊が南門より突如現れた。




獅子奮迅の勢いで魔族軍を蹴散らしていき、退路が開かれた。王都民は一斉に退避を始めた。




その様子を伝令より聞き、我々も退避の準備の為、近衛騎士たちに配置につくように私は指示をした。近衛騎士たちが王宮の間より去った、その時。




「やっと攻勢部隊と近衛騎士が、王宮の間よりいないなったな。」




目の前の、まだ残っていた伝令兵が、この場にそぐわない不遜な発言を吐き出した。




「なに?貴様、何を言っている?」




私は、その兵士より不穏な雰囲気を感じ、少し腰を玉座より浮かした。




その兵士は立ち上がると、見る見るうちに肌の色が黒くなり、瞳が赤く光りだした。




「貴様!!魔族!!どうやってここに忍び込んだ。」




「いやー、時間がかかったよ。本当に時間がかかった。お前の闘気は、さすがだな。世界随一と称される理由はよく分かる。少しずつ少しずつ、お前の闘気を弱くして、俺が1人通れるぐらいの穴を穿つのには、5年かかったよ。」




弱くした?どういう意味だ?私は確かに70歳となり、闘気量が衰えてきていたが、基本、闘気量は年齢と共に衰えることはない。まさか、この魔族がこの闘気の衰弱の原因だったのか?




動揺を隠しながら、私は魔族に言い放つ。




「しかし、愚かな魔族だ。この逃げ場のない王宮の、私の目の前に現れては、貴様は絶体絶命だぞ。私の壁に穴を開けて、王宮に入ってきたはいいが、この後はどうするつもりだ。貴様の魔力を感じても、私の闘気では、風前の灯火の如くだ。死にに来たか?!」




「まぁ、分からないよね。そのやって、この5年間騙し続けたからな。」




そう言って、魔族は指を鳴らした。その瞬間、隣にいた王妃、王子、王女の3人が液状化しスライムとなった。




「なっ!!!???」




「はははははは!!!!その顔が見たかったんだ!!ビックリするよね!?訳わからないよね!!突然、お前の最も大切にする者が、スライムに変身するんだもんね!そうだよ。お前の最愛の者たちは、全員スライムに取って替わってたんだよ!5年前にね!そのスライムは有能でねー、寄生した宿主を徐々に殺し、知識や人格なんかをコピーするんだ。かなりの希少種なんだよ。俺たちは、コピースライムと呼んでいる。」




「わ、私の王妃、王子、王女たちは、ど、どこに?」




「いや、だから、そのコピースライムが食べたから、もういないよ。それと、そのスライムで、お前の闘気をずっと食べていたんだ。気付かれないようにね。んんん??自覚症状はなかったのかなー?まぁ、いいや。今のお前ぐらいなら、俺とコピースライムで殺せる。近衛騎士もいないし。あ、それと全ての退避作戦は、俺たちに筒抜けだからね。今頃、お前の大切にしている部隊と7割の王都民は、全員、皆殺しに遭っているから。魔軍の主力部隊を南門辺りにこのタイミングで集結させたからね。全員防御壁から出てるから、一網打尽さ。ビックリしているだろうね。今頃。ハハハハハ!!!」




「き、き、貴様ーーー!!!!!」




「コピースライム、変身だ。奴を殺れ。」




コピースライムは、再び王妃、王子、王女に変身して、俺に襲いかかってきた。




3人に抱きつかれた。俺の闘気が急速に吸収されていっていた。




そうか。お前たちは、すでにこの世からいなくなっていたんだな。すまない。気付いてやれなくて。誰にも気付かれずに孤独に死んでいってしまったんだろうな。本当にすまない。辛かったろうな。悔しかったろうな。不甲斐ない、私を許してくれ。。。




私は涙を流しながら、王妃たちを見た。驚いたことに、王妃たちの顔も同様に涙を流していた。




おそらく、記憶と人格をコピーしているなら、今の状況に反応しているのかもな。大丈夫だ俺もすぐに一緒に行く。




魔族、お前だけは絶対に許さない!!!!!




私は、体の最奥にある、闘気の源流を解放した。これは、私の生存を可能にする闘気流であり、これを解放することは、そのまま私の死を意味する。




「まだそんなに闘気が残っているんだね。規格外だね。さすがだよ。」




「言ってろ、せめてお前は道連れだ。死ねーーーー!!!」




私は暴発する、闘気の奔流の中で意識が薄らいでいくのを感じた。その薄らぐ意識の中で、魔族の穏やかな声が聞こえてきた。




「あ、ごめんね。こんなこともあろうかと、転移魔法石も持ってきたから。そのコピースライムも残念だけど、お前の命との交換なら安いものだ。死ぬのはお前1人だよ。じゃあね。」




道連れもままならぬか。無念。こいつだけはと思ったが。。。




王都に残っていた王都民は、王城が大爆発し、跡形もなくなったのを目撃した。それは、自分たちを守る防御壁が無くなったことと同意であることに気付き、急いで逃げる場所もない、逃げ場を求めて退避を始めた。ある者は、近くの門より一縷の希望を胸に抱き、逃げた。しかし、包囲している魔軍にみな惨殺された。ある者は北部に面する海から出る船に乗り込み退避をしたが、大型海洋魔獣に全て潰され、海の藻屑へと消えていった。




まもなくして、城壁が破壊され、魔軍が押し寄せてきた。




その日、大陸の雄であった国サーマリアは1人の生存者もなく、滅亡したのだった。

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