第18話 村の武道大会当日② エマvsクララ

村の武闘大会の試合では、魔法は使っては禁止だが、魔力操作で戦うのは許可されている。エマは、基本はそれほど魔力操作が上手なわけではないから、身体能力強化に特化した魔力使用だ。


クララは、もう少し搦め手が得意だったような気がする。


「二人とも魔法禁止、殺害禁止。それ以外は、基本何でも有りだ。正々堂々と戦うように。いいな。では、ファイ!!!」


と審判を買って出ている、村長が叫んだ。


エマとクララは一緒に狩りをしている仲だ。チームに何度も共闘している。お互いの手の内は分かり過ぎているぐらい分かっているので、今、二人はどんな攻撃・防御をするかを予想して、お互いが攻めあぐねている状態だ。


「あなたは、猪突猛進型だからね。あんまり考えていても、埒が明かないわ。さっさと突っ込んできたらいかがかしら。」


クララはそう挑発して、エマに先手を取らせようとした。


さぁ、来なさい。私の攻撃を、あなたのカウンターとかでやられたら、一撃で私の防御も全て吹っ飛ぶだろうから、あなたが攻撃に移った瞬間に、超特大のカウンターをあげるわ。


クララはそう思いながら、魔力を鞭の形にして、エマの動きを待った。


エマはふっと、息を吐きだして、クララを睨む。


お互い狩人。魔獣を狩り、死を間近で見ながら、死を覚悟しなければならない場で戦ってきた。生半可な気持ちで戦ってきていない分、その一撃一撃が勝敗を決することを学んだ。私の一撃。受けられるものなら、受けてみなさい。生死の狭間を、生き抜いてきた、この一撃を!


エマは、全身に魔力を漲らせて、前進しようとした瞬間、クララの後ろにいたネロと目が合った。ネロと目が合うと、先ほどの、クララがネロと楽しく談笑していた場面が脳裏を過ぎった。


この女狐が!!!


一瞬、ネロの背中に悪寒が走った。なんか、エマの殺気がこっちにも飛んできているような・・・。


エマは姿勢を下げて、突貫する準備をした。


そして、フッと姿が消えた。


クララは、エマを見失っていたが、一直線で来ることを予測して、右手に出現させた鞭を右から左に横一閃をした。その返す形で、左から右へもう一度横一閃で戻した。射程範囲、3~4メートルだ。この枠の中では、かなりの大きな範囲を占めている。しかし、衝撃の手応えがない。


一瞬、太陽が陰ったような気がした。考えるようにも体が先に動いた。


クララは、右に飛ぶようにして転んだ。


ドーン!!!!


爆音とともに、さっきまでクララがいた場所には、エマがいた。エマは、上空へと大きく跳躍し、クララの視界から外れる動きをしていたのだった。


一体、どんな跳躍力をしているの!!??転がりながら、クララは心の中で叫んだ。


クララは目の前2メートル先。エマは、一瞬で間合いを詰め、クララの顔面に右フックを打った。


轟音とともに放たれた拳打は、当たれば即気絶ぐらいの勢いだ。骨の2.3本は覚悟しなければならないだろう。超高速で動いているとはいえ、モーションが大きい為、クララは何とか、前に屈んで右フックを避けた。しかし、その前屈みの状態を、冷静に見ていたエマは、左アッパーで迎えた。


「ひっ!!」


首だけを動かして直撃は避けたが、左頬をエマの左アッパーが掠めていく。魔力で保護していると言っても、エマの全力の一撃だ。大丈夫な訳がなく、首から上が、左頬が上に動くと同時に、頭も上に捻じれていく勢いを、首が感じた。


これは、まずいわ。


一瞬首が折れるかと思い、体全身をその流れに任せた。そのせいで、体全身を空中で回転することになった。完全に無防備。全身を魔力で固めて、衝撃を待つ。


ドン!!!!!


空中を回転している所を、下から体の中心辺りを、蹴りが飛んできた。ちょうど、左腕に直撃し、体全身が折れ曲がった。


グッ!!!!


上空へとクララの体全身が浮かされた。エマも同様に跳躍し、両手の拳を固めて、エマはクララの側頭部に上から思い切り打撃を放った。視覚の端にエマが上空へ飛んでいる姿が映ったので、クララは頭と腕に魔力を集中させて守ろうとした。


パキ――ン!!


濃密な魔力と濃密な魔力が、ぶつかった時になる、特有の音が聞こえた。相殺されたように見えたが、エマの方が込めた魔力が強かったようで、クララが地上へと真っ逆さまに頭から落ちて行った。


ガン!!!


エマは地上に降り立つと、残心の構えを取り、クララからの反撃を待った。砂煙の立ち昇る場で、砂煙でクララの姿が一瞬見えなくなった。村長は、これは一旦介入するべきか悩んだ。クララの頭部へのエマの強襲。これは、間違えれば、クララを再起不能になり得る攻撃だった。村長の顔は少し青ざめていた。これ以上クララが動かないなら、闘技場の中に一歩、足を踏み入れようとした。その時。


エマの足が払われ、エマが地面にしりもちをついた。


「なっ!!!???」エマはどうして自分がしりもちをついているのか、理解できなかった。ふくらはぎと脛すね辺りが痛い。そこを攻撃されたか。エマは、何とかなく感じだ。直ぐに立たないと!


クララは、自分の手から魔力をだして鞭状にするのではなく、体全身から魔力を出し、鞭を生成し、体のどこ部位も動かすことなく、エマに一撃を与えた。普通は、体の一部と同化した形で魔力は武器として具現化できるのだが、魔力操作を上達していくと、体の一部を使わなくとも、ノーモーションで魔力を武器化して動かせるのだ。これは、クララの修練の賜物と言ってもいい。


エマもまさか、魔力だけで攻撃が可能とは思わず、予想外の攻撃を喰らってしまった。そして、クララは、右と左から何本も鞭を生成し両方から、鞭をしならせ、エマを襲った。両方から来る!!と思い、両腕を盾として体の両側を防御。


ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!


と果てしない連撃を両方から受けたと思ったら、正面からクララが突進してきた。


避けられない!


エマは、両側からの攻撃への防御に集中していたため、正面からの攻撃への備えを疎かにしてしまっていた。予想以上に、クララの魔力操作が巧みで、体の予備動作なしの左右からの攻撃は、エマが今まで相手の予備動作を元にして攻撃の起点を読むようにしていた、戦闘スタイルの弱点を突くような攻撃だった。


膝蹴りがエマの顎を直撃し、エマは後方に吹っ飛んだ。


クララは、頭から少し血が流れ、若干フラフラしていた。今の攻撃で何とかとどめの一撃にならないか、と望んだが、エマは、常に攻防一体の戦闘スタイルなので、倒れてはいたが、首跳ね起きをして起き上がり、首に手を当てて、コキコキと首を鳴らし、首の被ダメージの状態を確認した。


まぁ、大丈夫かな。 


エマはそう思い、キッとクララを睨んだ。


クララは後ろに飛んで、エマから距離を取り、5、6メートルもある鞭を何十本も生成し、上右左から、クララを強襲した。逃げ場は全くなかったので、エマは体を丸くして、攻撃を耐えた。


ガガン!ガガン!ガガガガン!ガガン!ガガガガン!ガガガガガガン!


鞭が時間差でしなりながら、エマを無数に襲った。間合いが狭いが、強力な打撃を打つエマと、間合いが遠く、遠距離攻撃で相手の体力を奪うクララ。この攻防になってしまうと、クララにとって、エマは格好の的でしかなかった。


しかし、一歩一歩近づくエマを見て、クララは戦慄した。


こんな状況でも動けるの?!


先ほどと同様にいくら丸まっていても、両腕ではカバーできていない部分がある。その隙間を通すような一撃を食らわせる。大きめの魔力を薄い棒状にして、腕と腕の間を高速で地面からすり抜けさせた。


ガン!!!


エマの下あごにクリーンヒット!!エマの頭が跳ね上がった。今だ!!!!


クララは、全ての鞭を一本の槍に収束させて、エマに放った。それを見たエマは、ニヤリと笑い、槍に向かって走っていった。


「あなたの悪い癖ね。必ず、最後は大きな一撃で仕留めようとするの。そのまま、削り続けておけばいいものを。」


エマは、投擲された槍に向かって走りながら、紙一重で躱し、クララに接近した。


クララは、エマの予想外の接近に狼狽え、もう一度鞭を生成して、エマをその場に釘付けしようとするが。


「遅い!!」


エマは、鞭が届く前にクララの目の前に潜り込み、右下からのボディブローを高火力の魔力で放った。


「ぐっ!!!!!」


歯を食いしばり、衝撃が来ることを待ったが、衝撃は来なかった。ただトン、と優しくお腹に手を当てられただけだった。


「どうかしら、これで勝負ありと思うけど」


「試合終了!!勝者エマ!!」


と村長からの宣言が入った。


クララはその場で膝を崩し、倒れこんだ。


「はー、あなたの近接対人スキルは半端ないですね。私は後方から戦術を駆使して、人を指示している方がやっぱり得意ですわ。性に合っていますわ。」


「あぁ、私もクララに指示されている方が、よっぽど戦いやすいよ。」


そう二人は言って、うふふふと笑い合い、お互いの健闘を称えて抱きしめ合っていた。

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魔力ゼロと軽んじられた少年が、魔法世界を無双する件 カフェラテ @kaferate

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