第17話 村の武道大会当日①

私は、ザックさんが一時的に私を受け入れ、彼の家で当分は寝泊まりをさせてもらうこととなり、床を寝床として貸してもらったが、結局一睡もすることができずに、夜明けを迎えた。子供部門であれば、疲れてようがどんな状態であろうが、勝つ自信しかないが、それよりも、あの火事の真相だけは、見つけていかないと、後々にも問題が残り続けてしまうだろう、とずっと思っていた。だいたいの事件の顛末は、なんとなく分かっている。あの時の闘気による索敵によって。


そう思いながら、朝食前の毎朝のルーティンのジョギングをしていると、エマが併走してきた。


「エマ、おはよう。」

「ネロ、おはよう。昨日は大変だったんだね。大丈夫だった?」

「僕は大丈夫だったよ。男子宿舎がなくなっちゃったから、困るよね。火事の原因はわからずじまいだけど、火の不始末だったんじゃないか、って話だし。不用心だね、本当に。」

「そうね。火ぐらいしっかり始末しないと、本当に迷惑よね。ネロも大活躍だったらしいけど、一部の大人たちは怒ってたわよ。ネロは本当に向こう見ずだって。ネロ、前の月見草の時もあるし、ロック砂漠のこともあるし。本当に気を付けてよね!」

「ん?ロック砂漠?何のこと?」

「何を言っているの?!ネロがロック砂漠にサラマンダー石を取りに行ったでしょ!それで、ポポ川から一緒に村まで帰ってたじゃない。楽しかったけどね。色々と話もできたけど。途中で色んな魔獣が出てきて、大変だったけど、全部私が倒して、ネロを守ってあげたね。あの件は誰にも話していないから、安心してね。」

「ん??」

「え??」


僕らは道の端の方で立ち止まった。僕は合点がいかず、エマの言っている話に大いなる違和感を感じた。色んな所が、実際あった内容と全く違う。少しして、私の頭の中で、稲妻が走ったかのように何かがカチッとハマった気がした。


「あぁー、そうなっているんだ。」

「なにが、『そうなっている』のよ!!私が、ロック砂漠まであなたを助けに行かなかったら、もうあなたは死んでいるのよ!?本当に。。。」


エマは怒りと涙で、打ち震えていた。


あー、なるほど。おそらく、あの魔蝶の催眠効果で、エマは自分が一番見たい夢を見させられていたんじゃないかな。それで、私がエマを助けたんじゃくて、エマが私を助けたことになっているんだ。それで、大人たちから私が怒られると思って、どこに行っていたかと聞かれた時には、咄嗟に『月見草を取りに行っていた』と答えたんだろう。催眠効果、恐るべしだな。それに、彼女のステータスを見ると、


エマ

レベル 15

力   20

素早さ 45

魔力  60

闘気  10/10


かなり上がっている。あのロック砂漠で色んな修羅場を超えてきたんだろうな。そして、注意すべきは、闘気量が増えている!!


おそらく、私の莫大な闘気を治療のためにエマの体に注ぎ込んだので、体内の闘気が薫発されて、増えたんだろう。


闘気は、この世界の人々には、無用な力なように思う。これを増やすぐらいなら、魔力というものがあるのだから、そちらを集中して増やした方が、戦闘には絶対に効率がいい。闘気の使い方は、正直非常に難しい。私も十数年とかかって、感じれるようになった。若い年齢から操作方法が分かっていれば、私も前世では、もっと闘気量を上げることもできただろう。おそらく、この闘気の鍛錬にかける時間があれば、魔力増加に全て注いだ方が、エマの生存率は確実に上がる。2つの力があったところで、1つが中途半端なら余り意味が無い。生兵法は大怪我の元だからな。


そう思いながら、じっとエマを見ていた。


エマは顔を赤ながら、何かに抵抗するように言った。


「な、なによ。そんなにジッと見て。な、なにか言いたいことでもあるの?」

「いや、何もないよ。ただエマがとても成長したな、と思って感心していたんだ。」

「何もない?って、どういうこと、って、え?せ、成長したな?もう一体どういうことよ!?感謝の一つもないの!?」


エマがポカポカと私の胸を叩いてくる。


「痛いって。はははは。ありがとう。感謝しているよ。


そういえば、エマは今日の大会に出るんだよね。僕も出るから、対戦相手になったら、よろしくねー。」

「え!?ネロも出るの?まぁ、良いわ。ネロも最近鍛えているし、どんな戦いをするか楽しみにしているわ。」


そう言って、お互い試合の準備と朝食のために別れて、私は村の広場で朝食を受け取り、静かに一人で食べていた。そうすると、三人の女の子が私のところに来た。


確かソフィアとポリーナとイリーナだったかな。みんな10歳ぐらいの女の子達で、狩人としてもかなり優秀な部類に入る。


三人が私の周りに座った。


ソフィアは、金髪の長髪、碧眼の女の子だ。二つに編み込みをしていて、120センチぐらいで、背高は標準。体のスタイルもよく、男の子連中では、ソフィアは可愛い!!とよく話題になっている。お淑やかな性格で、あまり人と交流を得意としないような印象だ。


ポリーナは、緑色の髪のボブカットの、藍色の瞳の女の子だ。110センチぐらいで少し身長は低いが活発で、いつ見ても話をしている。男の子とも女の子とも分け隔てなく遊んでいる可愛らしい女の子だ。


クララは、青色の髪をミディアムヘアーにしている、碧眼の女の子だ。身長は少し高く130センチだ。戦闘能力も高く、戦略を組むのが上手いとか、エマから聞いたことがある。クララはリーダー型で、一緒に組むと、とても狩りが上手くいく、とか。美人で、高嶺の花のような存在だ。


よく3人が一緒にいる姿は見かけるが、3人が一緒に歩く様は、一幅の名画を見るようだ。男子諸氏にとっては、是非絵画にでもしておきたいと思うんじゃ無いかな。そんな子達が、私の周りに座っているんだが、何か御用ですかねー。


ポリーナが、私の肩を叩きながら、話しかけてきた。


「おっすー、ネロ。元気ー♪」

「おぉ、元気だよ。今日はみなさん、お揃いで。どうかした?」

「いやー、最近話題沸騰のネロくんは、どんな様子かなー、と思ってさ」


この村の子供達は、全員が全員のことを知っていて、全員が幼馴染のような関係だ。10歳ぐらいを過ぎてくると、段々と思春期にも入ってくる子らは異性を意識し始めるので、格好や匂いなんかにも気にし始める。このお嬢様方も、思春期真っ只中の子達だったりする。


「ネロ、凄いね。昨日は火事の宿泊所から、2人も助けたんだって。バンバもサンダも感謝していたよ。」と、ソフィア。


「ネロの指示が的確だったって、男の子らが、言っていたわ。ネロのおかげで助かったって。やるわね、ネロ。」と、クララ。


「それにさっきもずっと走っているし、魔力がないけど、かなり身体能力も高いって噂だし、何を目指しているの?ネロ。」と、ポリーナ。


「何も。ただ、村の為に少しは僕も役に立っておかないと、無駄飯ぐらいの穀潰し、とか言われたら嫌だしね。はははは。」


と、私は肩をすくめた。


「はははは。何それ。変な表現。ネロ、面白いー」とポリーナが爆笑していた。


「誰もあなたの事をそんな風に言わないわ。外に行って帰ってからのネロは人が変わったようによく働いてるから、みんなの噂になっているわよ。特に女の子の中でね。」と、クララがウィンクをして言ってきた。


「それは、光栄だね。皆様のお役に立てていられているなら、これほどの幸せはありません。」


と言って私は頭を下げた。


「なにそれーー。ネロはいつから、そんな面白くなっているのよ。はははは!」


とポリーナは大声で笑いながら、私の肩をバンバンと叩きまくっていた。


その後、彼女達と朝食を食べながら、少し談笑して、私は今日の武闘大会の準備があるからと言って席を立つと、とても驚かれたが、私たちも出るのよ、お互い頑張ろうね、と励まされ、そこで別れた。


水でも飲もうかと思い、井戸に近づくと、カートがいて、じっとこちらを見ていた。何か言いたい事でもあるのか、と少し緊張したが、何故かとてもフレンドリーな雰囲気で、水を掬い、「飲むか?」と手渡してきた。


「ありがとう」と言い、渡された水を見ていると、カートは話をし始めた。


「お前は凄いと思うよ。本当に。俺は、ただケンスさんの言われるがままになって、あの人とつるんでいるが、ネロ、お前は自分の意見をしっかりと持っていて、自分の信念を持って振る舞っているよな。正直、羨ましいとさえ思ってるんだ。俺は、なんだかんだで、ケンスさんの顔色を見ながら生きてるからなー。お前は、ケンスさんを恐れず、鍛錬にも励み、昨日の火事でも見事なリーダーシップを発揮しているしな。大したやつだよ。試合頑張れよ。応援しるぜ。今まですまなかったな。残れよ、村に。」


そう言われると警戒心も薄れ、グイッと水を飲んだ。


「ありがとう。まさか、カートに応援される日が来るとはな。」


と言うと、カートは「みんながみんな、見た目通りに、心の内も思っているとは限らないんだよ。」と暗い顔をして答えてきた。


「そうか。まぁ、僕の試合、見ていてくれよ。」


そう言い、ザックさん宅で服を着替えるために、早く帰らないと、と思い、カートには別れを告げて、踵を返した。


ザックさんの家に小走りで向かっている最中に、行く道の真ん中に、エマが私の前に立ち塞がっていた。


「えらく楽しそうだったね。」


何故か、非常に不機嫌な顔をしている。この顔は、私の前妻のアユーシがよく、こんな表情をしていたことがあったな。なんだだったかな?もうはるか昔のこと過ぎて忘れたな。


「ん?水でも飲むか?」


「違う。美人の、あの3人は、えらくネロにご執心だったわね。」


「ははは。違うよ。ただ、僕が最近、色々と騒がしくしているから、あの3人は心配なんだってさ。」


「全然違うし。鈍感。」


「え?なんて?」


「もういい!ネロのバカ!鼻の下伸びているよ!」と言って、どこかに歩いていってしまった。


「は、鼻?」


エマが何を言っているのか、結局わからなかった。私の言っている通り、あの3人はただ心配していただけだって。


そう思いつつ、やっとザックさんの家に到着し、服を着替えられた。別に何か特別な戦闘用の服があるわけではなく、ただ汗をかいたから、気持ち悪くて着替えただけだ。さて、これから私の暮らしを決する試合になるな。


そう思うと胸が熱くなってきた。この試合が終わると、今まではあまり力は見せずにきた生活が終わる。と言っても、闘気は見せないが。闘気なしで狩人として、成長していくのは面白い、と思う。今後のプランもよく考えておかなければならない。そして、魔族の情報を集めるなら、やはり近くの城都か。そこにも行きたい。狩人なら、村の外への行動への制限も少しは減るだろう。とにかく、今の魔族の情勢が知りたいんだ。この大陸は今、魔族との抗争は、どうなっているんだ。


今後のプランを考えると、どんどん深みに入り、時間が矢のよう過ぎていってしまう。今は、それよりも試合のことか。まぁガキどもを軽く捻ってくるか。


ザックさんの家を出て、試合会場に向かった。会場には多くの観客がいて、受付にはもうすでに何人かの子供達が集まっていた。特に誰が出るかなんて言うのは、事前に取ることもなく、その場での希望制だ。7人が名乗りを上げていた。


ネロ

エマ

ポリーナ

ケンス

クララ

バンバ

ソフィア


7人なので、1人がシード権を得ることになる。トーナメント方式での試合だ。子供の試合はどこまでも前座で、その後の大人のトーナメント、特に村七剣+村長の戦いが、一番注目されている。今年は一体誰が一番強いのか、と話題はそれで持ちきりだ。


ジャンケンをして、ケンスがシード権を得た。受付の人が適当に名前を入れていき、以下のように対戦表はなった。


Aコーナー

1. エマVSクララ

2. ネロVSバンバ


Bコーナー

3. ポリーナVSソフィア

4. ケンス(シード)


Aコーナーで1.2回戦をやり、その勝者でAコーナーの代表を決める。


Bコーナーで3回戦を行い、その勝者VSケンスでBコーナーの代表を決める。


まずは、エマとイリーナの戦いか。楽しみだな。事前にみんなのことを視ておいたから、大体の勝敗は予想ができるがな。


エマ

レベル 15

力   20

素早さ 45

魔力  60

闘気  10/10


クララ

レベル 12

力   20

素早さ 30

魔力  45

闘気  1/1


ネロ

レベル 33

力   280

素早さ 280

魔力  0

闘気  5200 / 5200


バンバ

レベル 10

力   50

素早さ 10

魔力  15

闘気  1/1


ポリーナ

レベル 13

力   40

素早さ 40

魔力  20

闘気  1/1


ソフィア

レベル 13

力   45

素早さ 35

魔力  25

闘気  1/1


ケンス

レベル 17

力   40

素早さ 40

魔力  70

闘気  1/1


やはりこう見ても、ケンスが子供達の中でも一つ頭抜けている。次点はエマか。ケンスは、流石に色々と吠えているだけのことはある。彼の今後の姿勢によるが、私の配下として、戦いを叩き込んでもいいな、と思う。エマとケンス、また村七剣と村長とは、是非、魔族との戦いの手助けをしてもらいたいと思う。オババは、絶対に欲しい人材だ。全盛期の私には劣るが、はっきり言って、オババが寝ながら戦っても、この村全員束になっても敵わないだろう。とにかく、オババだけは謎が多すぎる。どんな経歴を持つのか。また話に行きたい。


とうとう武闘大会•子供の部開始だ。


普通なら

年齢 10

レベル10

力  10

素早さ10

魔力 10


なのが、本来だ。年齢とともにそれぞれが1上がっていくものなのだ。しかし、その中でも、ステータスを大きく増やしている子供達は、はっきり言って世界でも稀な存在だと思う。こんなシステムを構築しているこの村の異常性を感じるのは、おそらく私しかいないのだろう。いや、中には、移民や避難民としてこの村に移住している子供や大人もいるわけだから、そういう外部の人間は目を丸くしているに違いない。


試合のルールは簡単だ。縦横10メートルの四角の枠の中で、戦う。勝つ条件は以下のどれかを満たせばいいとの事だ。


1. 相手を降参させる。

2. 相手を気絶させる。

3. 相手を枠から出す。

4. 相手を戦闘不能にする。←この場合は、ジャッジが判断する。


相手を殺してしまったら、それは最低最悪の行為なので、厳に慎むように、と説明があった。永遠に狩りに出さない、永遠に村への奉仕活動に従事する、などの厳しい処罰が課せられると言う。当然、こんな小さな村だ。1人な子供の価値はあまりにも重い。それをこんな祭り如きで無くしていたらたまらないのだろう。これぐらいの脅しをかけて、殺すことを絶対禁止のルールにしているのだ。


また、魔法を使うと、反則負けになる。魔法の定義は、魔力を変換させて、この世界に具現化させるのが魔法だ。具体的には、火・風・水・土・雷・光・闇の7属性と呼ばれている。つまり、単純な魔力を操作して、盾を作るなり、弓矢を作りなり、短剣を作りなり、槍を作りなりすることは許可されている。


さぁ、まず一回戦目。エマVSクララだ。さて、どんな戦いが繰り広げられるか、楽しみだな。

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