第16話 村の武道大会前夜④
夜もかなり遅くなっていたので、私はすぐに男子用宿泊施設に戻った。そこには、三十数名の子供たちがスヤスヤと寝息をたてながら、寝ていた。みな、5歳から19歳のとてもかわいい子供たちだ。これだけの子供たちが孤児になっていると思うと、この村の生存率の低さに危機感を感じる。つまり、この親たちが死んでいるのだ。この村での滞在年数が長くなればなるほど、死亡率が自然と高くなる。それが、この村にある、厳しい現実なのだ。この子供の数を見ていると、この村の存続が危ぶまれるのか、と思うが、実は逆で、村の人口は微増なのだ。新しい子供が生まれる純増加もあるが、それよりも、戦争や軍事衝突、盗賊や山賊の襲撃があちらこちらで勃発しているため、この地域には、よく避難民や逃亡者、移民が迷い込む。その人たちを保護し、ここに居を構えたい人は、この村への入植は自由にさせているのだ。
しかし、この村に入る人々全員には、魔契約という、契約書にサインをさせ、この村の位置を誰にも漏らさないことを条件に、村の中に立ち入る事を許可している。それを破った場合は、身体能力と魔力がそれぞれ0となり、また五感もすべてが失われる、生きる屍と化すことになる。村を出る際には、村人たちは、その紙のスクロールを持ち、避難民が緊急の保護を要する場合に備えて、その場でサインをして、魔契約を結び、村の中に入れるという手順を踏む。それがこの村の人々の生存率アップに大きく影響をしている。何せ、外からの襲撃が一切ないので、子どもたちは基本、すくすく安全に育つことができる。これもオババの考案らしい。あの人は、一体どんな人なんだ。
この村は、獣人族と人族の領域の境界線に位置し、人族側の領土にある。人々が住んでいる、一番近い居住地からは、馬車などで1カ月ぐらいの場所なので、一般の民間人が簡単に近づける場所ではない。しかも、この辺りには、あの巨大ゴブリンもうろついている。一般人では、デスゾーンだ。なので、ここに付近に現れるのは、基本、人族領から避難してくる人たちが命からがらで、生き残りをかけて、最後の最後に選択する場所だったりする。そういう人たちの受け皿になっているのがこの地域なのだ。獣人族領土からの避難者はいない。敵国の領土に避難をしてくることも、私には容易に想定されるが、今のところ、村が創設されてから200年はないそうである。
私は自分のいつもの就寝する床に腰を下ろし、一枚の薄い布を自分に被せ、明日に備え、目を瞑った。ここ数週間の様々な修羅場を思い起こすと、この世界に来て、本当に波乱万丈だと実感する。よく生き残っているなとも思うし、これからの私の生き方を考えると、これぐらいがちょうどいいのだろう、とも変に納得をしてしまう自分もいる。明日は、無難に勝って、狩人として皆と一緒に訓練を受け、いつか魔族の情報を得なければと、まどろむ意識の中で、考えていた。そんな時・・・。
ん???焦げ臭い?
バカな。こんな夜更けに、火を使う子供はいない。何せ、みんな寝ているんだ。寒い時期でもない。私は布一枚で寝ていて、問題のない季節だ。
良くあるのは、火の不始末で種火が残り、家が全焼することはよくあるが、この宿泊施設付近の火は、あまり考えられない。不審火か・・・。
「おい、起きろ!!火事だ!!」
と私は叫び、全員を叩き起こした。寝ていた子供たちは、何があったのか、と眠気眼の目をこすりながら、部屋全体に立ち込める煙に気付き、我先にと、入り口から出て行こうとした。入口に子供たちが殺到したために、小さい子供は、大きな子供に押されて、こけて泣いていた。大混乱の状況となってしまった。
「おい!!!急ぐな!大きい子供は、小さい子供を優先させろ!!足元を気を付けろ!持ち物なんて、後にしておけ!バカ野郎!!起きろ!!」
と言いながら、周囲の大きな子供たちに指示をし、全員が無事に出られるように指揮を執った。全員が出られたのだろうか、宿泊施設前に、着の身着のままで、集まっている子どもたちを並べて、点呼を取らせた。
「誰か、いない子どもはいないか!?周りを見てくれ!」
皆は周囲を見渡しながら、仲の良い友人を見つけては、笑顔で生存を喜び合っていた。
「バンバがいない!!バンバ!!!バンバ!!!」
10歳ぐらいの、利発的だが、少しおっちょこちょいな子だった。
「いないのか?!わかった。他にもいない子どもはまだいないか?!」
皆、周囲を見渡しているが、全員がいるのか?
「あ、あと、サンダもいないぞ!」「あ!本当だ!サンダ!!」
サンダ!!!???4歳の小さな男の子だ。くそ!!逃げ遅れている可能性がある。
あとは、そのバンバとサンダだけか。
「何があった!!!!!」
村の七剣の一人、ソーバさんが異常に気付き、一番最初に来てくれた。他の大人たちはまだこの緊急事態に気付いていないようで、誰も来ていない。ソーバさんは、少しこだわりが強くて、変わり者だが、魔力の扱いは一番うまい、と評判だ。一番来てもらいたい人に来てもらった。なぜなら。
「ソーバさん、僕に水をぶっかけてください。中に入ります!」
「あほう。お前が入ったら危なかろうが。他の大人で対応する。まだ中に人はいるのか?」
「はい!バンバとサンダがまだ家の中にいるようです。僕なら、バンバとサンダがだいたいどの位置に寝ていたのか、とかバンバとサンダの私物の場所も分かるので、家の中はよく分かります。だから、僕を中に入れてください。僕がピンチになっても、ソーバさんなら、直ぐに助けてくれるでしょ?」
「し・・・しかし」
「もう入りますよ。水魔法での援護をお願いします。行きます!」
そう言って、私は家の中に侵入していった。あまり時間をかけていれば、バンバとサンダの生存率がどんどん下がっていく。大人を待っている余裕もない。私なら絶対大丈夫との確信があって、ソーバさんを急かした。
「あ、危ない!!ええい!!!しかたない!!」
と、ソーバさんは、水を生成し、僕の後ろに向かって水をブチ当てた。その勢いが強かったので少し前のめりになったが、全身水びだしになりながら、「バンバ!!!サンダ!!!」と叫びながら、まずはサンダが寝ているであろう、ベッドの所に行った。サンダはそこで、まだ寝ていた。息はまだしているようで、すぐにサンダを抱き上げ、入り口に戻ってきた。
私が入り口に、サンダと一緒に現れたのを見て、歓声が上がった。他の大人たちもいて、「もういい、ネロ。お前はこっちに退避していろ!!危ない!!」
と言っていたが、とりあえず無視。「まだ、バンバがいます!ちょっとまって下さい。」と叫び、再び、火が蔓延する家の中に入っていった。「あ!待て!」と後ろからの叫び声がするが、バンバの命の方が最優先だ。最悪、正直、私ならどうにでも生き残れる。
バンバの寝処を見たがいない。では、他の場所かと、バンバの個人所有物保管スペースに駆け寄った。そうしたら、倒れている一つの影が見えた。バンバ!!!
「おい!!しっかりしろ!」
「う・・・う・・・」
ダメだ。意識が朦朧としている。たぶん、煙を吸い過ぎたな。かなり危険な状態だ。手には、バンバのお母さんの形見の服が握られていた。バカが!!自分の命と亡くなった人の物とどっちが大切なんだ!
と心の中で叫びながら、バンバを持ち上げ、肩の上に載せ、移動しようとしたところで、天井の火の勢いが増していった為に落ちてきてしまった。
闘気を出現させ、落ちてくる天井を壁の方へ飛ぶように、上段蹴りを放った。天井の燃え盛る板は、壁にぶち当たり、大きな穴ができた。その穴に向かって走り、施設内から脱出した。
燃えていた。全てが燃えていた。施設全体が大きな火に包まれていた。
しかし、ソーバさんは先ほどから魔力を練りに練り上げ、上空から超巨大な水の塊を出現させ、一気に家の上から落とし、家を破壊しないように包み込んだ。
外側の火は消えたが、中の火は幾分かマシになったようだ。
何故か入り口ではない場所から、私が現れて、皆は驚き、歓声が上がった。
いやー、疲れた。
大丈夫だったか?!バンバは大丈夫か!?などと揉みくちゃにされながら、大人たちは消火活動をし、それぞれの子供たちを自分たちの家で何日かは面倒を見ることとなり、その夜の火事事件は終結を迎えた。
私は辺りに闘気を張り巡らせ、不審な動きをしている者はいないかを、探ってみた。
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