第15話 村の武道大会前夜③

私はそれでも強く、自信を持って伝えた。




「大丈夫です。僕は死にません。もし、心配でしたら、一度僕と腕相撲でもしますか?」




マークはうなづいて、それもいいかもしれないと思った。




「そうだな。ネロがあんなに自信満々で話をするのだから、もしかして、との思いも実は頭を掠めたりするんだ。ネロ、一度お前の実力を見せてくれ。それを元にして、これからの私たちの動きも決めていきたいんだ。」




そう言って、私とマークさんは、家の中央になった机に、お互いの右腕を置いた。お互いの手を組み、腕相撲の体勢になった。




「マークさん、魔力無しで、本気で来てください。たぶん、魔力無しだったら、マークさんには負けません。どうぞ。」




「おぉ、言ってくれるね。よし、じゃあ、いくぞ。3・2・1,ゴー!!!」




ガッ!!!!




全く両者の手が動かない。マークは思い切り、私の腕を押すが、うんともすんとも言わない。




な・・・なんだ、この腕力は。まるで巨大な岩でも押しているような圧を感じる。動く要素がない。これが、ネロの実力か。。。




「マークさんの魔力無しだとこれが全力ですよね。じゃあ、僕も勝負を決めますね。」




と言って、一気にマークさんの腕を机の上に叩き落とした。




ググググ・・・・トン




「あぁー、負けた。これは強敵だな。なるほど、ネロがあのケンスにあれほどの好戦的な態度で相対してる理由が良く分かったよ。これはひょっとするとひょっとするのかな。アクトンさんもどうぞ。ネロ疲れていないか?」




「大丈夫です。どうぞ、アクトンさん。一度腕相撲を。」




「はい、やりましょう。マークを魔力無しの状態でも押し切ったのは、本当に凄いわ。彼はこれでも村の七剣の一剣よ。腕力には自信があるわ。子供相手とは言え、魔力無しで腕相撲をやり、マークが負けるなんて。ネロ、あなたの鍛錬が実を結んでいるのが、よくわかるわ。」




「ありがとうございます。では、行きましょうか。たぶん、僕はアクトンさんには負けるような気がします。最初から全力で行きますよ。3・2・1,ゴー!!!!」




ガッ!!!!!!




な・・・・ちょっと待って。これは異常だわ。なんていう力。これが魔力ゼロの子供の力なの?!ちょっと待って!




「うおおおおぉぉぉぉ!!!!!」




「ああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」




これは、私が全力を尽さないと、負けるレベルだわ。7歳の農作業しかしていない子供に、長年この村の平和を守ってきた、一剣が負けるわけにはいかないのよぉぉぉ!!!!




「うおおおおぉぉぉぉ!!!!!」




「ああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」




ドン!!!!!!




僕の腕が押し切られて、アクトンさんが勝利した。まぁ、ステータスを視れば、確実に、現在の私の力では、アクトンさんには敵わないからな。魔力無し、闘気無し、という条件下だが。




「はぁ!はぁ!はぁ!はぁ!はぁ!なるほど。マークの言っていることがわかるわ。これは、正直、ひょっとすると、ひょっとするわね。腕力では、確実に、この村の子供の中で一位だわ。断トツの。仮に魔力を子供たちが使って、身体能力強化したとしてもね。」




そう言ってから、アクトンさんは、ジッと私を見つけながら、言った。


「ネロ。あなたは体術はどうなの?自信はあるの?」




「はい、大丈夫です。狩りの様子や、戦闘術は、よくエマから教えてもらっていましたので、たぶん、問題ないかと思います。」




「分かりました。もう少し、あなたの実力を教えてください。マーク、ちょっとこっちに来て。机を片付けるわ。さぁ、ここでマークと軽く打ち合ってもらえますか?もちろん、マークは魔力無しです。」




「いいですよ。ネロ。お前、実はとんでもない力を隠していたんだな。これは楽しみだ。体術もやっていたんなら、その力なら、直ぐにでも狩りメンバーに入ってもいいと思うぞ。かなり戦力になるはずだ。」




「そうですね。この武闘大会が終わったら、希望しようかな。農作業も楽しいですが、やはり狩りをして、魔獣についての知識を増やしたいですね。」




「本当にいいな。まずはそのためにはケンスに勝たなくてはならないな。」




そう言って、軽く打ち合い始めた。




マークさんが左手で3発素早くジャブを打ってくると、私は上半身のスウェイで躱す。下半身が動けないだろうと判断し、マークさんは右足でローキックをしてくる。私は左足を上げて、その蹴撃を躱し、左足を床に戻し、踏み込んだ力とスウェイから上半身を戻した反動を使い、右手でストレートをマークさんの腹部辺りを狙った。私は7歳で身長はだいたい120センチぐらいだ。相手は、170センチぐらいだから、私のストレートはそのまま、マークさんにとってはボディとなる。それをマークさんは左手で、私の右手をマークさんの左に払い、右手で私の側頭部に向けてフックを放った。私はフックの下に潜り込み、マークさんの足にタックルするように見せかけて、マークさんの動きが一瞬硬直したのを見届け、その場で跳躍し右手でアッパーカットをした。驚いたマークさんは、上半身を仰け反って、私のアッパーを避けたが、避けるのを見越して、マークさんの顔の前まで跳躍していたため、私は体を回転させて、左腕の肘撃を、マークさんの顎を狙って打ち込んだ。そんな動きを予想していなかったようで、マークさんの顎に直撃。マークさんはそのまま後ろに尻もちをついた。




アクトンさんとマークは目を見開き、呆然としていた。




「ネロ、今の動きは何だ。今の下からのアッパーからの回転肘打ちは全くの予想外だ。凄いな。体のキレが半端ないな。」




「ありがとうございます。エマのおかげですよ。」




と、言って、私はマークさんに左手を差し出し、マークさんの立ち上がりやすいように、引き上げた。




「アクトンさん、たぶん、この簡単な打ち合いを見ているだけでも分かりましたが。ネロの実力は想像以上です。力でもネロは圧倒的ですし、体術でもかなりのレベルに達していると思われます。ケンスとも互角以上の戦いができるでしょう。ネロ、君は凄い逸材だ!!明日は、心配ないかもしれませんね。」




「そうですね。今の動きは大したものでした。ネロ。私はあなたが村から追放になるなんてことは、絶対に許容できません。もし、追放されるのでしたら、私も一緒に追放されましょう。これが私なりの責任の取り方です。けども、明日の武闘大会では、必ず勝ちなさい。必ず勝って、ここでの生活を勝ち取りなさい。後は外野が何を言おうが、私が黙らせます。安心してください。だから、ネロ、あなたは明日の試合に勝つことだけを考えておいてください。」




「分かりました。ありがとうございます。」




このような話をしていることを、ある一つの影が家の外から聞いていたことに、私を含めた三人は誰も気付いていなかった。

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