13 優しい喪失・北条side

フランスへ到着し、メイおばさんに会い、話すことができた。

それから一週間後、私の両親は警察上層部からの命令で捕まり、2人は長い間刑務所に入ることになった。これも、メイおばさんのおかげだ。ひとまず、私達はあと1年間はメイおばさんの家で過ごすことになった。まだまだ色々と忙しいそうだ。

私はフランスの日本語学校で1年編入扱いとなり、新しい場所で学校生活を送ることになった。マナさんはメイおばさんの家で家政婦として手伝うことに。何事もなく、無事に学校生活を終え、メイおばさんの仕事も片付いたことから、再び日本へ帰ることになった。しかし、全てが終わっても虐待の代償は一生残る。私は日本語学校で無事終えたが、結局友達は1人も出来なかった。マナさんとメイおばさん以外にはどうしても怖くなり、無口で人見知りになってしまう。他人に対して心を許すことができないのだ。また、20歳を越えても夢としてあの時のことが出てくる。一生のトラウマなのは間違いない。そして、日本へ帰ってきてメイおばさんの家にて、衝撃的な出来事が起こる。マナさんが私達の元を去るのだ。当時私は中学に上がる前の3月、話を聞いて知る。


〈中学前、3月〉

メイおばさんの家にて。私は日本に帰り、中学生を迎えようとしていた。以前日本にいた時の町とは遠く離れ新しい土地で中学生になる。部活はどうしようか、友達はできるのか等の不安を抱えて。そんな中、夕食を終えて部屋で読書していると。コンコン。「流菜ちゃん、入るよ。」「はーい。」「何かマナが私達2人に話したいとさ。リビングに来てくれる?」「わかった…。」なんだろうか。マナさんが話したいと求めるのは初めてな気がする。リビングのテーブル3人が集まり、お互い座る。マナさんは緊張した雰囲気が漂っていた。………………。ん?私とメイおばさんは?で顔を合わせる。

「どうかしたんですか?マナさん。」「実は…。私記憶を思い出したと言ってましたよね。知ってると思うけど私のことは言ってませんでしたよね。」「そうね。」「はい。」間があく。「実は私、生きてないんです。」えっ!!!「マナさんが?何かの悪ふざけでは。」「違うの!!本当です!!!」おっ!?普段取り乱さないマナさんが今は違う。「私はほとんど幽霊なんです。」ほとんど幽霊?「証拠を見せます。」するとズボンのポケットからカッターを取り出した。刃先をジリジリと出した刹那、自らの左腕を刺す。「ひっ。」「あぁ。」あまりの躊躇なさに驚く。左腕から血が大量に出るかと思ったら、出なかった。唖然として見る。「私は死んでます。私の魂は今この世にあるんです。実際は今から5年前に私は死んでます。生きていれば今は24歳です。」「どうしてですか?」

「はい。私が大学生1年生の頃、夏休み家族3人で豪華客船のフェリーで海外を旅行してました。ある夜、海のど真ん中で事故が起きました。クジラが下から這い上がり、船に大きなダメージを受けて陥没しました。両親は夕食の食堂で食べていてすぐ避難して助かりました。ですが、私は部屋で1人寝ていました。時間は夕食時です。そんな中、急に船が大きく揺れて最終的には10分以内に陥没しました。私は元々不眠症でたまたまその時眠気が来て、つい睡眠薬を飲んでしまいました。よって、気づかずに死にました。そして、私の魂は砂浜に流されてきました。どういうわけか、魂はギリギリ残っている状態でした。こうして、目覚めた時は流菜さんと会いました。その後私のことを調べてもわからなかったのは、私が死んでいたからです。流菜さんの両親や警察関係者は私が視えていなかった。逆に病院関係者、流菜さん、メイおばさんは私が視えていました。」「じゃあ、私の両親がマナさんに何もしなかったのは。」「はい。視えていなかったからです。さらに、家の家事をしていたのは別の家政婦です。たまたま名前が磨奈という名前が同じ家政婦がいたからです。」「それじゃあ、監禁された時母さんは現実にいる磨奈という家政婦が1日1回世話をするはずだと思っていたんですね。」「はい。ですが、皮肉にも磨奈という家政婦は流菜さんを無視して助けませんでした。」あっ、あ、ッ。「でも、どうして?どうして私は助かったの?マナさんがいなきゃ無理でしたよ。」「そうですね。力を貸していたのは事実です。監視カメラのハッキングは霊的力で出来ましたし、酢や塩水は私が実際持ってきました。タクシーや飛行機の予約もやりました。ですが、それらは視えない人にはポルターガイストとして映ったり、謎のメッセージとして残されていますでしょう。」っ。すっ。ふぅ。何だか涙が出てくるような。

「今、それを踏まえてわかりました。マナさんは記憶喪失だったのは本当でもそれは、死んだことを自覚せずに彷徨いながら生前の記憶を失ってたということですね。」「はい。だから私は何も喋らずに一年間あの流菜さん家に過ごしてました。そして、生前の記憶を思い出したのは流菜さんのおかげです。あの時、流菜さんは10歳で色々悩んで気持ちが沈んでいたから私が視えた。感謝してます。もし、流菜さんが私を視えず、私が抱かなければずっとあの場所で死んだことに気付かず、最終的に流菜さんを助けてませんでした。」「なるほど、そういえば親友のことも言っていましたね。」「はい。私は生前高校までの幼馴染に対して親友且つ恋人として愛していました。彼女と気持ちを通じ合えたことと優しさを与えたが今でもずっと忘れないほど嬉しかったです。」「なるほどねぇ。その嬉しさと優しさが再び起因して流菜ちゃんとマナさんが会えたんだねぇ。」「はい。」マナさんは泣きそうな悲しみに溢れた顔だった。「でも、なんで私にも視えたのかしら?」「それは、フランス王の家系か歳を取って視える力が備わったからだと思います。」「そうかぁ。」「2人には大変お世話になりました。生前の私を思い出し、自分が死んだ事実を知れました。」うっ!うっ、うぅぅぅ。泣いて嗚咽が酷くなる。「それでは、そろそろ時間です。玄関でお別れしましょう。」「そうねぇ、もう0時を迎える時間ね。流菜ちゃん、行きましょう。」ぐっ、ふっ。「う、ん。」リビングから歩いて玄関に着き、マナさんは無言で一礼し、静かに「さようなら。」と言って笑顔で玄関を出ていった。私はひたすら悲しくて何も言えなかった。


それから11年になる。幸せに何事も無く過ごしたが、何者かによって私は突然終わる。


《北条流菜&マナside 了》

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