7 親、子・北条side

「あの。まずは北条さんについて詳しく聞いてみたいです。」『わかりました。時間はまだ多くありますし、事故前の、いわば私の人生をお話ししましょう。』


《北条流菜・小学生》

今日も家に帰る。辟易する。いつからだろうか?勉学に励めと言われたのは。私の両親は元々完璧主義者で、2人とも運動も勉強も仕事もハイスペックだ。母も父も医者で、母は眼科医で父は外科医。特に父は優秀な外科医と噂される程の有名人。少し田舎であるこの町なら尚更だ。家は2階建ての一軒家で、親が金持ちで欲しいものは何でも手に入った。ただ私には兄弟がいない。それ故か、普段から私に対して異常に過保護で勉強に関しては特段厳しい。ある時テストで算数の点数を49点取ってしまった。この点数を見ればごく普通であり、そこそこ問題ないだろう。ただし、私の両親に見せると違う。間違いなく怒って叱り散らして、最後には罰則を与えられる。罰則は2日間家では食事をしてはいけないこと。外出すれば何を食べでも問題ないし、学校に行けば給食がある。案外何とかなる。小学3年生の頃までは。5年生になり、再びテストで50点以下を取ってしまった。理科で45点。完全にやってしまった。ガッカリしながら歩いて家に着き、早速リビングにいた母さんにテスト用紙を見せる。ハァ、また怒られるし2日間家で食事できなくなる。と思っていた。「流菜。また……50点以下取ったようね。」「あ、うん。ごめんなさい母さん。」「そう。」あれ?怒ってない?「前に言ったよね。4回目はないと。以前よりも流菜が結果を出せるよう私はこれまで罰則を与えてきた。」あ、やばい。「私はねぇ。流菜が母さんや父さんみたいな安定した立派な大人になってほしいの。無論父さんもそう望んでいるわ。ただこれ以上は見過ごせない。残念だけどこれからは本格的に罰を与える。」えっ!?「これは仕方がないことなのよ。」そんな!嫌だよ!「やだ!そんなのあんまりだよ!」「うるさい!これは命令よ!」母さんの顔は赤く怒った表情だが、どこか悲しさを感じる。「いい?流菜はこれから2日間食事抜きで風呂とトイレを使用してはいけません!」ハァ!?嘘でしょ!?「いい加減にしてよ!父さんも母さんもどうしてこんなに私を縛り付けるの!?そんなに私を良い子にして他人に卑下されないようにしたいの!?」「そうよ!それが悪いこと!?親として当然だわ!」うっ!?何?背中から電流がはしっ……た…よう…な。刹那、私の意識は眠るようになくなった。


《数時間後》

っ。うぅん。段々意識が戻ってきたような。目を少しずつ開く。私の足?が縛られてる?少し鉄臭い匂いがする。ハッ!そういえば!気がつくと辺りは全く知らない空間にいた。床も壁もグレーのコンクリートで統一されている。私は椅子に座り、手は椅子の後ろにして縄で強く縛られていた。足首、膝、お腹、肩も同様に。小学生でも何となくわかる。ここは知らない倉庫にいてただ1人佇んでいると。5メートル先正面には鉄の扉が閉じられてある。間違いない。私は厳重な罰を受けられ、ここに閉じ込められたんだ。確か、意識を失う直前まで母さんと喧嘩していて何か強い痛みを感じて。そこまでは覚えている。カツン、カツン、カツン。誰か来る!ギッ、ギィィィ。扉が開いた。父さんがいた。「父さん!助けて!私っ!母さんに閉じ込められたの!」あれ?何か父さんの様子が普段と違う。雰囲気が。まるで悪者。「流菜。私も残念だ。母さんも父さんもお前を期待していたんだがなぁ。」っ!背中が一瞬に熱くなり、心臓の鼓動音が早くなってく。苦しい。そんなっ。まさか。「まさか。父さんも母さんと同じなの?」「あぁ、そうだ。」父さんの目は死んでいて別人だ。「流菜。父さんと母さんはどちらも医者で互いに切磋琢磨して結婚生活を現在も継続してる。常にその誓いを持って日々生きている。また、いずれはその誓いを受け入れて共に進む者が1人増える。僕達以上の存在に昇華でき、理想の存在として生まれるのがっっ!」父さん。変だよ。意気揚々としていて何かに取り憑かれたように。「その為に流菜に条件を提示し、条件が達成できなければ罰則を与えてきた。だが、もう我慢ならない。2度もっ!2度もだっ!テストで50点以下取るなんて論外だ!父さんも母さんも小学生の頃はずっと全教科95点取ってきた。それに反して、流菜は95点をどれか一教科一回も取れてない。それどころか50点以下!」なんで、なんでよ。「それじゃあ、私に勉強を教えてくれればいいじゃない。私や友達だけで自力で父さんや母さんみたいになるのは無理があるじゃない!」おかしいよ。道徳の授業で習った、親は子を大切にすると。それを聞いて疑問に思った。罰則を与える親は大切にすることに当てはまるのかと。先生に聞けば、「まぁ、罰則を与えるような厳しい親もいるけど、ある程度立派な大人へと成長させるために仕方なくやるんだと思う。でも、厳しすぎてもダメだけど。毎日怒鳴ったり、傷つけたりしては却って子どもの信頼を失うし。もちろん暴力もね。流菜ちゃんにはちょっと難しいかな?」今、父さんと母さんは罰則を与える以上のことをしているのでは。

話は戻り。「教える?僕が子どもの頃、親や友達に教えられなくても勉強はできた。それが当たり前だと思っていた。医者になって社会に出るまでは。こういうのを天才だと呼ばれるんだろうかね。嬉しくないが。」そう、この2人は特別なのだ。対して私は違う。ごく普通の人。そう思うと申し訳ないと同時に反論する気力がなくなる。「さて、母さんは2日間風呂と食事抜きと言っていたが、それだけでは足りない。同時に勉強を教える。」もっとやばいのかと恐れていたが、少しホッとした。「ただし、勉強してインプットさせ、アウトプットはクイズ形式で行う。そのクイズの問題で不正解なら痛い目に遭うと思え。勉強中は縄の縛りを解かせる。逃げようとしたり攻撃してきたりすれば、より罰を増やす。良いな。」そんな。こんなの…勘弁してよ。親じゃないよ。でも、刃向かえない。こんな誰も知らない場所で。「はい。父さん。」

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