6 事故操作・北条side

翌日朝、僕は目覚めが悪かった。北条の自宅へ寄った後ずっと考えていた。北条さんは僕と年齢が近い。また両親への虐待に人間不信、冬場の運転による不幸な転落死。そして、遺影から顔を初めて見たこと。あの時朝川で会ってからまだ一日しか経過していないのにもう情報を得れた。偶然にしては不思議だ。とにかく、出勤途中のいつもの橋に渡って会ってみよう。「じゃあ、いってきまーす。」そうして団地から外へ出る。

今日は昨日より天気が曇りで少し寒い気がする。朝とはいえ閉塞感のある気分だ。いつもの道を歩いているといつもの橋に着いた。橋の端から歩いて渡ろうと一歩足を踏み出すと辺りが霧に覆われる。周りの雰囲気が冷気に包まれて人も車も気配がなくなる。気配があるのは正面で橋の中央に立っている北条さんだ。これで2度目だ。彼女の顔は白い布で隠れていた。

『おはようございます。』「お、おはようございます。」何だか幽霊に挨拶するのは変な感じがする。『昨日から何かわかりましたか?』昨日同様頭に語りかけてくる。「はい、実は昨日たまたま仕事で北条さんの自宅に寄れたんです。申し訳ない気がしますが、北条さんについてお婆さんから色々と聞きました。」『そうですか…。では何か聞きたいことがあれば言ってください。受け答えしますので。』「わかりました。ではまず、北条さんは冬、車を運転していましたが実際橋に落ちた場所はどこなんですか?当時の事故の詳細を知りたいです。」『なるほど、いきなりそこからですか。』「まずいですかね?」『いえ、大丈夫です。私はあの日仕事帰り、夕方から夜に掛けての時間でした。』


《2年前、冬・曇り・17時半》

「ハァー。また今日も駄目だったなぁ。明日こそ部長に退職届け出そう。」独り言を述べて自分の車に乗る。手元にあった退職届けを鞄に入れた。私の名前は北条流菜。ここ田舎町で暮らす普通の事務職員だ。今の仕事を辞めて福祉業界で働こうと考えている。特に児童養護施設で世話をするのが夢で、働きつつ勉強をしている。ただ、今の職場を辞めて勉強に専念したいのが本望だ。それでも、今の職場環境が良く辞めたくても辞められない。特に同期や先輩に上司みんなが優しくて理解ある人達だからだ。特に私のような極度な人見知りで受け身で無口な人間でも上手く付き合ってくれてる。そう考えていると外は黒く夜になっていく。「とりあえず帰ろ。メイおばさんも夕飯作って待ってくれてるし。」

車のキーを押して発進させる。5分ほど運転しているとなんだか体が重くなっていく。なんだろう?疲れてきたのかなぁ?とりあえず近くにあったコンビニの駐車場へ車を停めた。ひとまず寝よう。姿勢を楽にしていると段々瞼が重く指先も動かなくなってくる。全身が急激に重力をのしかかる。「な、ん……だろ。」話すことさえままらない。すると、何かが私の横にいる気配がした。助手席に。何とか目を動かして横を見たが、誰もいない。一体何が。起こっているの?汗が止まらない。これって金縛り?そう思った途端、急に体が動き出した。ビクン!と全身が一瞬宙を浮くように競り上がる。すると、手と足が無意識に動き出しハンドルを握ってアクセルを踏み出す。車は急発進する。何なの!?さっきの眠気やだるさはなくなって目はよく開く。でも、体がいうことをきかない!どうしよう!ギュルンと曲がって道路を走る。口を開けようにも強引に閉ざされてる。「っん………ンっ、ンンン!」ダメだ!開かない!手や足も思い通りに動かない!たまたま前や後ろに他の車両がないから今は大丈夫だ。だが、スピードは落ちずに走り続ける。橋が見えてきた。必死に抵抗するが体が通用しない。橋を渡って一瞬で真ん中に来たと瞬間、横にハンドルを回し始めた。キーッ!と高い音がした。柵にぶつかりそのまま川へ落ちていった。落ちている時怖くて覚えていない。いや、既に気絶していた。


《。◁″・分後》

『ッ。ッ。』少しずつ目を開ける。『あれ…?痛くない……?』霧に包まれている?『ハッ!』そうだ!私…川から落ちて………。あれ?橋の上にいる。落ちたはずでは?周りに何も気配がしない。夕方だったっけ?立ち上がって歩き、下に見える川を恐る恐る覗き込む。『ひっ!そん‥な。』そこには川に流されず岩と岩の間に縦へ挟まった私の車があった。車の運転席の窓から私の腕が血に塗れて飛び出していた。『まさか!ハァ、ハァ、そんな!ハァ。ハァあ、ああ、ああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー!!!!!!


《…………時後》

私は自分が死んだことに絶望し、橋の上で座り込んでいた。ただ孤独に。それでも、いつからだろうか?あの惨劇を振り返って、受け止めて、気持ちが前向きになった時、突如頭上が光り始めた。それは何となくわかった。多分あの世への。黄泉の道。光に包まれる。体の重力がなくなる。気持ちがいい…。その時、突如光が消えた。えっ!?暗い!その瞬間私の顔に何かが覆い被さった。白い布。すぐ直感した。私は成仏する前に誰かに地縛霊にされたと。そんな、なんで、許してよ。『勘弁してください。誰か。助けて…‥。』


《現在》

「…なるほど。それで僕は何度もこの橋を渡って北条さんの想念が偶然通じたんですか。」『はい。』「それに北条さんはここで亡くなってたとはまさか知りませんでした。あと、北条さんを操って転落死させたのと地縛霊にしたのは同じ人物に違いないと思います。」『はい、私もそう感じます。』にしても、お婆さんから聞いた転落事故の話と北条さんの転落事故の話で橋から落ちたことは間違いない。やっぱり他の車とぶつかって落ちた訳でもなさそうだ。一体誰が北条さんを。とりあえず北条さんに関わった人物を探ってみるか。せっかく本人が今眼前にいるんだ。まずは…。「あの。まずは北条さんの過去を詳しく聞いてみたいです。」

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