12 脱出・北条side

鉄扉が閉じられ、私1人になる。

今か今かと座りながら待ち続け、ついにその時が来た。鉄扉が開く。黒いスーツ姿になっていた。「流菜さん。決行です。監視カメラは現在完全にハッキングしています。また、念の為私が家で掃除や料理している映像を録画して流してますので、両親が温泉から帰ってきてカメラを確認されても少しは時間を稼げます。それに片方だけですが松葉杖も持ってきました。」いつの間にこんな手を加えていたんだ。「流石です。マナさんって本当に頼りになりますし感謝しきれないです。」言った途端マナさんの顔が少し赤くなり困る。「ありがとうございます。そ、それは脱出してからです。とにかく、私の手を掴んで下さい。立たせて片方だけの松葉杖を使って下さい。」「はい。」言われてマナさんの手を握って立ち上がる。あれ?マナさんの手って私より少し大きく細く冷たいんだ。「んっ。」立ち上がり片方だけ松葉杖をついてマナさんに側で支えてもらいながら、鉄扉を開ける。ゆっくりと階段を上がっていく。一歩ずつ。カツン。カツン。カツン。すると再びドアがあり、開ける。ガチャ。前を押して開く。視界が明るくなっていく。眩しい。っ!ん。目を少しずつ開く。空は晴れて所々雲がある。青い。敷地は緑の芝生だ。外の匂いは新鮮で息を吸う。自然と力が湧き上がって気分が良くなる。横には2つ中ぐらいのボストンバックが置かれていた。脱出後の私達の生活必需品が入っている。マナさんが2つとも持ち上げて言う。

「よっと。では流菜さん、急いで敷地に出ましょう。」「はい。」振り向かずにゆっくりと松葉杖を突いて歩く。正門に向かう途中家を横切る。さようなら。父さん、母さん。そう心で告げる。正門に到着した。歩道があり、目の前の道路にタクシーが止まっていた。「電話予約しました。記憶が戻ってきていたので交通移動の方法は問題ありません。1時間程で空港に着きます。その空港から予約した飛行機に乗ってフランスへ行きましょう。さあ、気をつけて乗って下さい。」見守りながらゆっくりと後部座席に乗り、マナさんも隣へ座り、発車する。空港までの1時間私は無意識のうちに爆睡していた。安心すると寝てしまうものだ。


〈夢〉

ある橋に私は立っていた。周りは霧で覆われて正面の向こう側に人が立っている。「マナさん?」いや、よく見ると短髪で刈り上げのある男だった。年上?誰?私の身体は小学生じゃない大人な感覚がした。何か言っている。「北条さんは⚪︎○✖︎◁に縛られたんです。残念です。」「えっ。嘘です。そんなはずがありません!あの者が私を!?信じられません!」辺りが吸い込まれるように身体が崩れ落ちる。ゔ、ゔ、そんなっ。


〈空港到着、タクシー内〉

「…な、さん、る、なさん、流菜さん?」はっ!目を開ける。「マナさん?」少し心配そうな顔で言う。「着きましたよ。空港に。まずは空港内で軽く食事しましょう。それから飛行機に乗ってフランスへ行きましょう。」「あ、はい。」起き上がって松葉杖を持ってタクシーを出る。マナさんは支払いを済ませて運転手から荷物を受け取っていた。空港。小さい頃にアメリカ、フランス、オーストラリアへ父さん達と3回旅行したなぁ。久々だなぁ。過去に更けながら空港内へ入る。一度トイレで着替えを済ませる。白のパーカーに黒のスラックス、無難。飛行機搭乗までに1時間、私達は食堂でラーメンを食べていた。マナさんは炒飯大盛り、餃子2人前に味噌チャーシュー麺。私は醤油ラーメン。「マナさんって大食いなんですね。」んっ?と疑問を持ちつつ美味しそうに食べながら顔を向けられる。「そうですね。記憶を失ってた時とは量が違いますね。特にラーメンは大好きですし。」ニコッと笑顔になる。なんだろう。マナさんも緊張がほぐれた?そうして食べ終え、荷物検査等をクリアして飛行機に乗る。フランスまで直で行けない。まずは中国を中継地として向かう。時間が過ぎて中国に着く。そのまま空港で4休憩し、フランス行きの便へ乗り、出発する。外は夜になっていた。その間メイおばさんに会ったら伝えたいことを考えたり、他愛もない話をした。

数時間後、ようやく、フランスへ到着した。空港を出て近くのホテルで休むことにした。意外にもマナさんはフランス語を話せるため、途中困難に陥ることはなかった。ホテルの部屋で私は寝ようとベットに入る。マナさんも隣に来て一緒に寝る。

翌日、朝食を済ましてチェックアウトする。ついに、メイおばさんに会いにいく。一緒にタクシーに乗って約1時間半、とある豪邸に着く。私の家より何倍も広い。正門のインターホンを鳴らす。「はい。どなたですか?」「こんにちは。メイおばさん、流菜だよ。」「ああ。わざわざ来てくれたのかい?そのまま正面入って2階の1番手前の部屋にいるから、遠慮なくいらっしゃい。」「わかった。ありがとう!」言われた通り私達は部屋へ入る。テーブルとソファ、奥にはピアノが置かれていた。ソファとは向かいの椅子にメイおばさんが座っていた。「流菜ちゃん、久々ねぇ。元気だったかい?」「うん、なんとか。」「マナも久々ね。最近どう?何か思い出した?」「お久しぶりです。メイおばさん。思い出しましたよ。詳細はこれからお話しします。」横にいるマナさんの顔を見ると真剣だった。ケーキとコーヒーを出されてメイおばさんが話す。「よく来たねぇ。ところで今回は娘達は来てないのかい?」マナさんが話す。「実は……。」今回起こったことを全て話した。虐待、監禁、協力、脱出、そしてマナさんの記憶が半年前から取り戻したこと。「…そうかい。娘があんなことを。実の子どもに。わかったわ。2人とも私が日本に帰るまではここにいていいわ。娘達のことは私に任せなさい。日本の警察上層部に頼んできっちり成敗させるわ。それと、流菜ちゃん、マナ、よくここまで頑張ったわね。」っ!言われた瞬間、涙が出そうになった。「うん。」

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