11 腐食待ち・マナ&北条side

ひとまず鉄が腐食するまでは脱出不可能だ。

それまでに約2週間毎日何回も地下牢に寄って鉄を錆させた。塗ってる時、流菜さんと色々話をした。

ある時。「そういえばマナさんってこんなに話す人だったんですね。もしかして、何か思い出したんですか?」っ!「え、ええ……。実は思い出したのは半年前です。あなたに抱きついた時一瞬蘇って、その日以降寝るたびに毎日夢を見るんです。」ちょっと恥ずかしくなる。まさか抱きついてから記憶が蘇るなんて。「夢?」不思議そうな顔で問いかけてた。「はい。ですが、その夢はやけに現実的であり、後々自分の記憶だったと気づきました。」「へぇー。」話を続ける。「ただし、私自身のことは話せません。ごめんなさい。」「え?もしかして凶悪犯だったとか?カメラを細工できるなんて相当凄腕だし。」唇を強く噛む。「いえ、それとは別です。でも、言ってはいけない存在なのは事実です。」途端に流菜さんはガッカリした表情になる。少し場が暗くなる。それでも私は…。「まあ、一つ言えるなら私は明るく情に熱い人でしたよ。今あなたの前にいる時はですが。」「善い人なんですね。」言われて背中が熱くなる。「ま、まぁ、そうですね。」「ふーん。両親には記憶喪失の状態で演技しているんですか?」「はい。案外あの両親は頭が良い割には人を見る目は鈍感ですね。その点、流菜さんは人を見る目がありますよ。」「ほんとに!?ありがとうございます!」だいぶ流菜さんと話して慣れてきたのか明るい表情を多くなってきたのが自分でもわかる。少しずつ記憶だけじゃなく性格や行動も戻ってきたんだろか。それでも。私は。私は関わってはいけない者だ。流菜さんを慰めるように抱いた時、親友を守ろうと慰めるように抱いたのを思い出した。同時に私の存在も…。だから流菜さん、この刑務所みたいな土地から一緒に出たら別れを言わなければならない。今は一緒に協力し、あなたを助けてることが喜びであり、切なく思います。


〈2週間後、日曜日午前10時、北条side〉

マナさんが色々と協力してくれて3週間が経ち、鉄腐食計画に2週間が経過した。朝…だろうか。鉄扉が閉じられていて光が遮ってて時間がわからない。でも、今日は日曜日なはず。当初よりも鉄の縛りと鎖は錆が多く占めていた。もしかしたら、今なら手首の施錠を地面にぶつけ続ければ外れるのでは。自分の足周りに天井から長く垂れている鎖は外れそうにない。とにかく、手首の施錠を。地面に叩きつけよう!両腕を思いっきり頭の上まで上げた。鎖が重いっ。でも!フンっ!ガンッ!!という重い金属音が室内に響く。手首から叩きつけた振動が感じる。厳重な鉄扉なため音は外部から聞こえる心配はない。改めて手首の施錠を見ると亀裂が出来ていた。もう一度!フッ!!ガダーン!と割れた音がし、直後にはガランガラン!と下に落ちた音がした。手首を見てみる。施錠が割れており手首は自由になった。重荷が降りた。身体に幸福感が包まれ安堵していた。やっと、やった。鎖の重さと明らかな栄養不足、精神的な疲れが重なってか、これまで立ち上がることは不可能だった。少しずつ立ち上がってみる。立った姿勢になった時、バランスが取れず尻餅をつく。「おぁ!」「痛っ!」でも、嬉しさが込み上げて痛みを忘れる。やっとだっ!歩くのはマナさんに肩を貸しながらじゃないと無理だなぁ。すると、鉄扉が開き、マナさんがいた。少し驚いた顔をして見ていた。初めて見た表情。「やっと解けたんですね。」少し笑った表情で言った。笑った表情も今初めて見た。「では、今日の午後13時から決行しましょう。これから両親の様子を見て色々準備します。流菜さんは待機してて下さい。準備が終わったら、また来ます。」私の側に来て食事と身体の世話をされる。「はい。監視カメラのハッキングと脱出後の着替え等忘れずにお願いします。」世話が終わり、鉄扉へ戻る。振り返って私に言う。

「はい。気をつけて準備します。それでは。」

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