4 戦慄と求女
『ウ。…ぅ。』
顔に白い布を被った女の幽霊が小さくうめき声を上げる。僕は恐怖心故に真っ先に後ろを向いて走った。「ハァ。ハァ。ハァ。ハァ。」無我夢中に走った。「ハァハァ、ハァ、ハァ。」しかし走っても霧を掻き分けているだけで進んだ気がしない。「ハァ…。ハァ…。はぁ…。」息がきつくなり立ち止まった。諦めてなんとなく感じた。その直感は当たった。再び後ろを振り向くと最初の場所に立っており、正面には変わらず顔に白い布を被った女性の幽霊がいた。逃げられない。このままでは、僕は別の世界に行ってしまうのではないか?
『助けてください。私はあなたに危害を加えるつもりはありません。約束します。』
突如その言葉が私の頭に語りかけてきた。若い女性の発する声。甲高くてスキの通った聞き取りやすい声だ。もしかして目の前の女性(幽霊)か?だとすると…。目の前の幽霊を意識して耳を傾けてみる。『私は黄泉に行くためにこの川を渡っていたのですが、何者かが細工してこの川から抜け出せなくなりました。』なるほど…。僕は目の前の幽霊に話しかけてみる。「つまり、地縛霊になったんですか?」『はい。しかし、地縛霊になったが故にただただ孤独に川へ縛られて助けを求めることができませんでした。』霊が霊を縛ったのか?それとも神か、はたまた現世で幽霊と繋がり可能な者か?
僕は大学一年の頃、興味本位で幽霊やあの世についてユーチューブや本で必死に調べてた時があった。元々霊感はないが、割と信じる方ではあった。だからこそ、見えるようになってもすぐ受け入れられたのだろう。
再び頭に語りかけてきた。『ですが、あなたは毎日この川を歩いて渡ってくれました。そのため、縛られてもあなたに私の相念を送ることができ、今こうして伝えることが可能になったのです。』「ッ!もしかしてっ!橋を渡って背後に違和感を感じたのも、その後家で金縛りにあったのも君の仕業だったのか!」『そういうことになります。おそらく私の想念があなたに伝わった証拠でしょう。』だいぶ辻褄が合ってきた。しかし、1つ気に食わないことがある。「何で想念を送られた後、僕は他の幽霊も見えるようになったんだ?おかげでびっくりしたよ。」少し間があいて語りかける。『私にもその辺はよくわからないです。ですが、恐らく私の想念を受け取り過ぎて霊界と繋がりを持ってしまったんだと思います。』霊界と!?何となくだが現世の人が霊界と繋がるのは危険な感じがする。ましてや、呪術や神技等の特殊な知識がある訳でもない僕なら尚更危険だ。「じゃあ、霊界と断ち切るにはどうすればいいの?」『ごめんなさい。断ち切る方法も私にはよくわからないです。』そりゃそうだ。当人は黄泉に行く途中、何も知らずに縛られて助けを求めたんだ。彼女も元は現世の人。霊界なんて全く知らないのは同じじゃないか。ん?そういえば、いつから彼女は縛られたんだ?この橋を渡って僕は2年も経過してたのに。「失礼だと思いますが、いつから縛られてしまったんですか?」少し間があいて語りかける。『あなたの時間軸だと恐らく半年は縛られたと思います。』「なるほど…。いえ、少し疑問に思って聞いてみただけです。」半年か。半年前は春に入った辺りだ。その時川の工事や整備はされてないはずだ。確証はないけど、やっぱり誰かに縛られたに違いない。あっ!そういえば会社に出勤途中だった。「あの。とにかく僕が調べて最終的に縛りから解いてみます。今回はここまでにしましょう。」間があいて語りかける。『そうですね。急で呼び止めてしまったし、あなたのこともあります。』「ところで名前は?僕はrです。」間があいて語りかける。『北条流菜です。』「北条さんですね。じゃあ、会社帰りにまた寄ります。それまでできる限り調べてみます。」間があいて語りかける。『ありがとうございます。ですが、夜は想念を送っても現世と通じないのです。ですから、翌日の朝から夕方までに川へ寄っていただければrさんと話せます。』「わかりました。ではまた明日。」…。『はい。』
そうして徐々に周りの霧が晴れて雰囲気が明るくなる。太陽が出てきて眩しい。眩しさに目を閉じていると自分の身体が地面に降り立った気がした。車の音やカラスの鳴き声が聞こえる。眩しさもない。
目を開けるといつもの晴れた日の現世だ。橋のど真ん中に立っていた。はっ!すぐ様左の腕時計を見る。時間は変わらず午前8時半のままだ。だが、通りかかる幽霊達が見えなくなっていた。一度本格的に霊界へ入ったからなのだろうか?とにかくさっきの出来事を思い出しながら、歩いて会社へ向かう。北条流菜…。
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