9 謎の家政婦マナ・北条side

両親から見放された。

あの鉄扉から去ってどのくらい時間が経ったんだろうか?見放されて最初は自分を責めた。なぜ親にはできて、子である自分ができないのか。当然私には両親みたいな頭の良さは受け継いでいないとわかっていながらも、自身を責めた。でも、次第に両親が異常であるんだと気づいていく。家柄、仕事、名声、天才、それらが備わっており、世間とはかけ離れた価値観へ至ってしまった。だから、娘である私でも容赦なく非道を行える。頭が熱くなっていく。怒りが込み上げていく。今、自分の心の声に誓う。ここを出たら、絶対に殺す!私と同じ痛みを!母さんが言っていたように、メイおばさんに頼んで両親と2度と会わずに暮らすのも一理ある。それでも、やられっぱなしは嫌だ。たとえ、向こうが金による力で抵抗できなくても別の方法で抵抗する!必ず!いつか!


〈2時間後〉

怒りはひとまず収まり、途端にトイレがしたくなる。便器がない。どうすれば。ガチャ。ドアが開いた。ある女性が立っていた。家が雇っている若い家政婦だった。年は19、細身で背は高く、美人で髪はショート。名前はマナ。ただし、本当の名前かわからない。彼女は記憶喪失だ。1年前、旅行で海に出かけて帰りの夕方、誰もいない砂浜で倒れ込んでいた。たまたま私1人砂浜を散歩していて見つけた。服も髪も濡れていた。その後、病院へ運び込み、意識が回復した。入院中マナについて警察や探偵が色々調べてくれたが何も情報が無かった。まるで、人間だった歩みがない。とりあえず、家で家政婦として引き取ることにした。マナは意外にも器用で物覚えが早く、両親から何か軽蔑や暴力をされたことは一度もない。普段から無口で無愛想、笑った表情さえ見たことない。半年前、両親が仕事でいない間、私は部屋で1人泣いた。学校にも家にも居場所がなく、我慢の限界だった。そんな中、マナは何も言わずに私の部屋へ入ってきた。あの時、泣いていたから表情は見えなかったけど、ゆっくり私の側まで来て抱いてくれた。ここで初めて優しい人なんだと知った。さっき去る直前母さんが言っていたが、一日一回マナと会って世話をして食事や身体を拭いたり、トイレの処理等の世話をしてくれる。何となく安心する。鉄扉を開けたマナはいつもと変わらずポーカーフェイスだった。顔も身体もボロボロになっている私を見てもね。トイレの処理をして身体をタオルで拭いてもらってる時、突然どこからか声を聞いた。

「私がメイおばさんに頼みます。」えっ?もしかして幻聴?「私がメイおばさんに頼んで流菜、あなたをここから解放させる。」いやっ!マナさん?今、マナさんがしゃべった!?表情は変わらないが、確かにしゃべった!声はクールで少し低い!「あ、えっ、ありがとうございます。とにかくすぐメイおばさんに頼んでほしいです!」「はい、なるべく早く頼みます。タイミングが合えばですが。」「どういうこと?」「まず、メイおばさんは現在仕事上フランスにいます。そして、フランスから日本へ帰ってきてもメイおばさんの住んでる家まで車で3時間掛かります。非力ながら私は今、車の免許を持っていません。電車やバスで行こうにも、家政婦故、家の掃除や料理など毎日忙しいです。なのであなたの両親から怪しまれるのは間違いないです。」「確かに。いつも家にいて何もない人が急に外に出るのは変ですね。両親がいなくても敷地内には監視カメラもあるし。」「はい。なので、時間を多く要します。カメラに映らずにカメラを細工し、両親が長時間いない日を狙わねければなりません。そして、外を全く知らない私がメイおばさんに会いに向かわなければいけないのです。確実に安全にできるかは保証できないです。」「でも、なんで倉庫までマナさんはこれたんですか?」こうして倉庫まで来れてるなら外をとっくに知れているのでは?「残念ですが、ここは家の敷地内にある地下牢です。」そんな!「そんな、だからマナさんは私のところまで来れたんですね。」「はい。流菜さんには苦労しますが耐えて下さい。」「わかりました。何とか耐えます。お願いします。」マナさん…。「では、長居は怪しまれるので今日はここまでです。また明日。」

にしても、どうしてこんなに助けてくれるんだろう。どんなに優しい人でも条件が厳しければいずれ見捨てるはずだし。ましてや、バレたらマナさんは家を追い出されるか殺されるか。いや、あの親なら殺しかねない!でも、マナさんの強い眼差し、あれは本当に私を助けるつもりだ。怖くないのかなぁ。

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